奇妙な珍味
誤字報告、ありがとうございます。ペコリ。
「何これ」
裏庭の空きスペースを散策している時、それを見つけた。
庭木の間を縫うように歩く私を、パウルにおかしな目で見られながら、クルトは面白がって私の後をついてくる。
小さな白い花を着ける低木の下に、見慣れない物がいくつかあった。
「これって……」
「キノコだよねぇ?」
クルトと二人で顔を見合せたのは、それが見知ったキノコとは全く違う見た目をしていたからだ。
真っ白い卵のような傘に、琥珀色の水滴がいくつもくっついていて、軸の部分を覆うようにレース状になっている。
卵のような形のキノコも、レース状になっているキノコも私は知っている。行きつけだった高級中華店のコース料理で、キノコの薬膳スープに入っていた。普段スーパーで見かけない、妙なキノコがオンパレードのスープだった。
味はね……健康に良さそうな感じ……。母は好んでいたから、子供舌には分からない大人味ということなんだろうね。
「この琥珀色の水滴はなんだろうね」
「うげっ。気持ち悪っ!
甘酸っぱいようなフルーツ臭がするし、怪しすぎるって。食べられないヤツっしょ」
「見た目いまいちな物って、意外と美味しかったりするじゃん」
「ないないないない」
「え~~、タコもナマコもウニも美味しいじゃん」
「何ソレ」
「あ……うん。つくづくこの世界は、彼女の好みで出来ていると感じるわ」
トウモロコシと同様に、神様の好みに合わない物は、この世界にはないのかもしれない。
別に本気で食べるつもりじゃないよ。
得体のしれないキノコに触らない方がいいことは、以前学習した。何しろ死にかけたからね。
触ったらダメだよとクルトに言おうとして、すでに遅かった。
ポコポコ生えている謎のキノコをクルトが一つ採って、眉間にシワを寄せながらクンクン匂いを嗅いでいる。
「パウルの爺さぁん! ま~たお嬢さまが変なのを見つけた」
失礼な。またとはなんだ。
とりあえず、触っても死にはしないみたい。
クルトにネチネチからかわれて、膨らましていた頬を突っつかれていると、呼ばれたパウルが私の足元を覗く。
「ほぅ。宝石茸か!」
「「ホウセキタケ?」」
私達は揃って首をかしげた。
「しかも茶だな。茶は旨いぞ」
「うわぁ、食べんの?」
嫌そうに顔をしかめたクルトに、パウルは笑ってキノコを採っていく。
確かに、食べるには少し勇気がいるかな。
「なかなかの高級品だぞ。
宝石茸は傘の水滴の色で、種類が違うんだ。茶の物は旨い。
赤は希少だ。かなり苦いが珍しい分、高価な薬になる。
緑はアクが強くて食べられないな。毒ではないらしいが、ワシは好かん。
本来、こんなところに生えるキノコじゃないんだがな……運がいいな。
ほら、厨房に持って行きな。今日はこれで旨い料理を作ってもらうといい」
「「はぁい」」
私とクルトは両手にたくさんの宝石茸(茶)をのせて、厨房に向かった。
「うーん……」
厨房で唸ったのは、イシカワ邸の料理長フーゴと、副料理長ローラだ。
「こんなキノコ、見たこともないな。どう調理していいものか……」
「とりあえず味を知りたいので、ソテーして食べてみます? なんて言うか……見た目から勇気がいりますけど」
「うん。水滴部分、怖いよね」
二人で首をひねっていると、ルッツが後ろからキノコを覗き込んで「あっ」と声を出した。
「宝石茸ですね!」
「ルッツ、知ってるの?」
「はい。俺の育った地域では、宝石茸の茶色10個あれば一月分の干し肉と交換してもらえるくらい貴重でした」
「食べたことはあるかい?」
ルッツは罰が悪そうに、フーゴをチラと見た。その様子に、ないわけではないなと推測する。
「……内緒で炙って食べたことがあります」
高価なキノコは、貧しい家庭では最高の臨時収入になっただろう。
ルッツがこんな顔をするのは、その価値を知った上で、食べてみたいという欲に負けたからだ。
料理人にとっては正しい欲だけど、貧しい家庭では罪でしかない。
「じゃあ、味を知っているルッツに調理を任せるよ」
「え」
ポカンと口をあけたままになっていたルッツに、フーゴとローラはクスリと笑う。
「宝石茸を使って、今日の夕食を一品作ってごらん」
「あ…………はははいっ。 頑張ります」
サラダ以外の調理を、一人で任せてもらったことはまだない。
初めてのことに、じわじわと遅れて嬉しさが込み上げて来る。必死に押さえても、ニマニマと口角が上がってしまうのは仕方がない。
「ちなみに何を作る?」
「スープを! 宝石茸は噛むほど味が強く出てきました。スープにしたら最高だと思います」
そう言ったルッツの表情は、しっかりと料理人の物だった。
鶏だしの澄んだスープに浮かぶ得体の知れない物体に、食卓にいたメンバーは固まった。
今日のスープは、青菜と宝石茸を卵でとじた、シンプルなスープだ。
宝石茸を知っているパウルとアルバンだけが、いい笑顔でスープを見ているけれど、後の者はみんな不安そう。
これは本当に食べて大丈夫なキノコなのか、探っているようだ。
妙なキノコに免疫がある私は、それほど躊躇わずに口に運んだ。
シャリっとした歯触り。噛むと僅かに酸味を感じる。
スープはトロリととろみがあり、酸っぱくて胡椒の辛さがある。
これは、覚えのある味だ。
(酸辣湯っぽい!)
みんなが私の様子を見ているから、ニコリと微笑んでみる。
「美味しいよ。スゴく。おかわりある?」
一番不安そうにしていたルッツに向けて言うと、ルッツは顔を真っ赤にして「はははははい!」と答えた。師匠のフーゴに変なところが似て来たな。
恐る恐る口にしたみんなも、一口食べるとその味に表情が変わる。
酸っぱ辛い味は独特で、クセになるからね。
なかでも一番気に入ったのはエドガーとロルフで、競い合うようにおかわりをした。
毎日のように生えて来る宝石茸(茶)は、この日からルッツによって、様々な料理に調理されて、食卓に並ぶことになった。




