薔薇の騎士
これと決めたら即行動にうつせるところが、私の長所だと思う。
川船から飛び込んだら、首輪が発動する。首輪を外すことも出来ない。
船には年寄りの船頭と二人きり。
今出来ることは一つしか私には思い付かない。
名付けて『船乗っ取り大作戦』だ。そのままじゃんという突っ込みは聞きません。分かりやすくていいでしょ。
「お嬢さん、よからぬ事を考えてる顔だなぁ」
「もともとこんな顔ですけど」
「いいねぇ、面白いお嬢さんだ。川旅は退屈だからな。
しかし、いいとこのお嬢さんにしては、ずいぶんお転婆だなぁ。そんなんじゃ、男にモテないぞ」
「余計なお世話だ!」
腫れぼったい瞼に、三日月の目の船頭の顔が、何に似ているか思い出せたら言い返してやるのに。喉元まで出てるのに思い出せなくて、もどかしいな。
クックッと笑う船頭は、私にはたいしたことは出来ないって思っているのだろう。
まず船頭が私に背中を向けたところで、船を左右に思い切り揺らす。
まるで川の様子を眺めているようにするのがポイント。
左右交互に体重をかけながら身を乗り出すと、船は僅かにユラリと揺れる。いい感じだ。
このまま何度か繰り返したらいい具合に揺れて、船頭が焦ったところをドンと押してボッチャ~~ンとなるのが理想なんだけど……。
「急に忙しないな……で、何をしてるんだ?」
小舟なのにあまり揺れないのは、何か秘密があるのだろうか……。
き、気まずい。
「うううわぁ、魚がいる! あ、こっちにも! 大きな魚もいるのかしら?」
船頭の残念な子を見る目から隠れるように、川面をグッと覗き込む。
「大きな魚がいたら、こんな小さな船、転覆しちゃうんじゃない?」
「バカ言え。川船がそう簡単に転覆するか」
当たり前だろうと呆れたように言う船頭に、冗談なんだけど……と反論してみるけど、半笑いで返された。
「お嬢さんはもっと常識を知るべきだな。
あまり世間知らずだと、悪いババァに捕まって売り飛ばされるんだぞ。まぁもう遅いか」
「うっ……デジャブ」
ということは小舟がモーターボート並みに速いのも、揺れに強くて転覆しないのも、常識なんだな。
この小舟はいったいどんな仕組みなんだ。見た目はただのチャチイ木の小舟なのに。
「転覆しないって言っても、さすがに幻の巨大怪魚、ペルーラが現れたらマズいけどなぁ。そんなやつ10年に一度現れるかどうかさ」
「あ……そうですか」
つまり、あわや転覆の危機を狙うのは無理だということだ。
次の手を考えなければいけない。
「ん?」
船頭が川岸をジッと見ながら首をひねった。
私もつられて同じ方向を見た。
王都方面から川岸に添って、何かやって来る。
私の目にはまだちゃんと見えなかったけど、船頭には見えているようで「ほぇ」と不思議な声を出した。
「馬だな。身なりがいいな……どこの騎士だ?」
「馬? あれが全部?」
目を凝らして見ると、確かに馬で、ぞろぞろ走っている様子は競馬のワンシーンみたいだ。
船頭によると乗っているのがどこかの騎士らしいから、是非ともちゃんと見たい。馬で爆走する騎士だなんて、絶対カッコいいでしょ。どこかの暴れん坊な将軍くらいに。
馬軍団の先頭に赤い頭が見えた。赤みの強い長い髪が馬のしっぽのように揺れて、思わず魅入ってしまう。
これが金髪だったら……いや赤だからこそ、より目を引くのか。気のせいだけど、周囲に薔薇の花が見えるよ。
金髪じゃなくても、これじゃあ、まるでーーーー。
「オスカル!!」
「オスカル? 誰だそりゃ」
船頭の声は聞かなかったことにしよう。
あの赤みの強い髪は良く知っている。もうすぐ人妻になる予定の、私の護衛だ。
「オスカル~~! じゃなくてヴェロニカ~~!
ここだよ~~!」
前言撤回。信じられるのは私の奴隷だけだ!
大きく手を振ると、ヴェロニカも手を振ってくれた。後ろを走る騎士達が誰か分からないけど、もしかしてヴェロニカが追いかけられているわけじゃないよね?
「なんだ、お嬢さんの知り合いかい。だが、馬じゃぁこの先は着いて来れないぞ」
自信たっぷりに言うってことは、道は川沿いを外れるのだろう。
今のうちに何とかしないとダメだ。
(どうする? 思い付く限り試したことは、全部失敗だったし)
「うお?」
船頭が妙な声を出した。
「むぁ?」
続いて私まで声が出る。
身体がグラリと揺らいで、慌てて船にしがみついた。
船底に黒い影が見えた。
小舟の三倍はありそうな影だ。
「こりゃ……」
揺れながらも謎の棒を離さない船頭の顔が、青ざめている。
「ペルーラだ!」




