異世界カルチャーショック
水色の髪。
・フラン 男 15歳 元傭兵 右目に難有り。
橙の髪。
・ティモ 男 12歳 元農業 左足に難有り。
ボルドーの髪。
・アメリ 女 15歳 元娼館雑用 虚弱体質。
暗い黄緑の髪。
・リサ 女 14歳 元娼館雑用 左腕に火傷跡有り。
カラフルな新人を宿にいるみんなに紹介して、これからのことを話そうとすると、ルーナとヴェロニカとマリンが「ちょっと待った」をかけた。
「マイカ、まずする事があるだろう?」
「そうですよ! 名前は聞きましたし、優先順位を考えて下さい!」
三人の勢いに若干引きながら、何があったっけと考える……間もなく、ヴェロニカが眉間に皺を寄せながら拳を握った。
「風呂だよ! 他に何があるっていうのさ。まず風呂でサッパリしてから。話は後だって」
「清潔第一です! それを教えてくれたのはお嬢様ですのに!
石鹸は『激落ちツルツルシリーズ』の煌めく朝露の香りでいいかな」
「女子は誘惑の星空の香りにしましょうよ。
カリン、とりあえずあなたの服を二着ちょうだいな」
はいっ! と元気に返事をした三女カリンは急いで部屋に行った。
明日カリンに服をたくさん買ってあげよう。
「ヴィム、フーゴ! 何してるのさ。ボサッとしない!」
「え、え、え?」
ヴェロニカの勢いにフーゴは後退り、けれどすぐに首根っこを掴まれて、水色と橙の髪のフランとティモの前に引き出された。
「すぐにこの二人を風呂に連れて行く! 服はヴィムじゃ大きすぎるし、あんたの服でいいよ」
「ははははいっ!」
逃げるように服を取りに行くフーゴを見送りながら、私が指示しなくてもテキパキ動く二人は本当に頼もしいなと見ていると、パウルがククッと笑った。
「じゃぁワシは部屋の追加をして来るか」
確かにそれも必要だ。
流れを見ていたレオナルドは、キョロキョロ見渡してから頷く。自分のする事を見つけたようだ。
「僕は食事の用意を頼んで来ます!」
みんな優秀だ。
ポツンと取り残された私は……どうしようか。
親がお金に困って子供を売るのは、この世界ではよくあることだ。
それじゃあ孤児狩りは?
ボルドー髪のアメリと暗い黄緑髪のリサは孤児狩りにあったと言った。
「孤児狩りね……」
思わず口に出てしまったのを、三女カリンに聞かれてしまった。
「もしかしてお嬢様、孤児狩りを知らないんですか?」
頷くと、カリンは「やっぱり!」と手を叩いた。
「お嬢様の国は奴隷がいなかったらしいですし、もしかしてって思って。
よくあることですよ? 貧民街に集まる孤児は、放っておくと野垂れ死にするのがオチですから、国が定期的に捕獲するんです」
「捕獲って、野良猫じゃぁあるまいし」
「で、奴隷商館が買い取るって感じですね。
色街なんかで娼婦が産んだ子供とかは、娼館の雑用係が育てるんです。育てて、7歳になったら売るんですよ」
この世界の避妊薬はかなり性能がいいと、以前バート村のババ様に聞いた。けれど性能がよくても精々80パーセント。望まずに妊娠してしまう娼婦もいる。
そういう子供の行く末を今知って、結構なショックを受けているんだけど……。これがこの世界の常識か。
「何で7歳」
「あれ? 知りませんでした? 7歳以下は奴隷に出来ない決まりなんですよ」
「くぅ~~っ」
異世界カルチャーショックだ。
ん? ということは。
王都の貧民街を歩いた時、孤児の姿がないなと思っていたけど、もしかして……。
「小さな子供が親を失えば、すぐに誰かに保護されますよ。7歳になるまでは」
カリンは何でもない事のように言う。
善意で引き取るわけでは決してない。それでも子供の状態が悪ければ、買い取り金額に差が出るから、それなりに飢えずに育てられるらしい。
「むむむ……ヴィムとクルトめ……」
私が貧民街に何を見に行ったか知っていただろうに、あの時に教えてくれれば良かったのに。
言うと、カリンは乾いた笑いを漏らす。
「いや、ヴィムさんもクルト君も、まさか知らないとは思わなかったんですよ。私も驚いてますから。
子供はみんな、一人でウロウロしていると孤児狩りに連れて行かれるぞ~~って、親に言われて育つもので」
つまり、私は相当な世間知らずってことだな。
「うわぁ、恥ずかしい……」
無知は罪。
オフェリア嬢に言ったことが全部自分に帰って来たよ。
「マルファンの教会にいた子達は幸せなんですよ?
普通の教会なら保護はしても、7歳で売るんですから」
「なるほど。しかもシスターマーガレットが勉強まで教えてくれるからね」
「それに、お嬢様の支援もありますし」
マルファンの教会が他と同じく、売る為に子供を育てていたなら、私も支援したりしなかったよ。
「ふふっ。私もお嬢様に買われて幸せですよ」
「カリンはお利口だわ。可愛いやつめ」
カリンの頭をワシワシと撫でてやる。この子は私を手玉に取ってどうするつもりなの。
あ、ということは。
「孤児を見つけたら、見つけた人の物ってことだよね。それじゃあ、私が見つけたら、私の物ってことでーーーー」
ふふっ。
孤児をいち早く保護して、村で引き取るのもいいかもね。村には子供は宝だという思想を植え付けて……。ふふっ。ふふふふふっ。
「お、お嬢様。悪い顔になってますよぅ」
気がつくと、カリンが全力で引いていた。
ヴィムがカラフル四人組を連れて王都を出発。
一度マルファンの屋敷に戻って、エリンを世話役に連れてバート村に出発。
「異議あり!」
今後の予定を話すとすぐに手が上がった。
「はい、ヴィムさん」
「俺は護衛だ。マイカの側を離れる気はない!」
「却下。護衛ならヴェロニカがいるし、何ならパウルもいます」
「だがーー「却下」」
食い下がってくるヴィムをバッサリ切ってやる。それでも諦めずに食いつこうとするヴィムの肩を、マリンがポンと叩いた。
生ぬるい目線を向けながら、緩やかに頭を振る。
「ヴィムさん。しつこい男は嫌われますよ」
一言でヴィムを黙らせた。
次の日の朝、貸し馬車にカラフルな四人組とヴィムが乗り込んだ。
「後のことはよろしくね、ヴィム」
「了解」
まだ王都に未練があるのか、ブスッとふてくされているヴィムの頬をツネってやる。
本当はミヨ~~ンと伸ばしてやりたかったけど、肉感の薄いヴィムの頬は全く伸びなかった。
「私達がマルファンに戻ったら、誰かバート村に行ってもらうから、それまで宜しく。
村長に手紙を書いたから渡してね。村長の指示をあおいでくれればいいから」
「了解」
頬を擦りながらヴィムが窓を閉める。
二頭の馬はブルと首を振ると、重量級の馬車を引いてゆっくりと歩きだした。
王都の門を出たら、あっという間に走り去るだろう。
「さて、私達は今日も王都を楽しみますか」
カリンとフーゴのありったけの服をカラフル四人組に持たせたから、まずは服を買いに行かないとね。
明日は予定がある。
パウルが奴隷商館のオーナーから聞いたのは、明日、町外れの飼料倉庫に仕入れた子供を集め、奴隷として登録してから、他国に送るらしい。
自国の奴隷は他国へ送る。他国の奴隷は自国で流通。これが暗黙のルールだ。
他国に送られる前に、オーナーのツテで私に販売してくれるっていうけど、育て先から売られて悲しんでる子供を購入するなんて、胸くそ悪いこと決定だ。
せめて今日は、少しでも楽しく過ごしたい。
「今日はショッピングだ! 行くよ、みんな!」
カリンとフーゴの服だけじゃなく、みんなの服を買おう。
少し気持ちが浮上してきた。




