異国の舞踊
第三陣が白の宿に到着した。
ヴェロニカ、ルーナ、次女マリン、三女カリン、パウル、フーゴ、レオナルドの計7人。
「みんな! 久しぶり! 元気だった?」
第三陣ともなると、すごく久しぶりな気がするな。
レオナルドなんてちょっと身長伸びたんじゃない? カリンはちょっと大人っぽくなった? と、たまに会う親戚のオバさんのように、成長期の二人を構い倒してやる。
「お嬢様、少しこちらへお座り下さい!」
ルーナが眉間にシワを寄せてムッとした顔をしている。
ん? 私、何かしたっけ?
言われるまま座ると、ルーナが私の髪をまとめて掴んだ。手櫛で軽く鋤いただけで、ピョンピョン跳ねていた毛先が落ちついていく。
ルーナの手はどうなってるんだ。
「お嬢様。今朝、髪のお手入れはどうしていました?」
「ええと……ルーナに渡された香油をつけて、ガァっと櫛で撫でつけたよ?」
今日はそんなに頑固なハネは無かったから、結ったり、ピンで止めたりしなかったけど……。
ルーナ、ため息つかないでおくれよ。女子としての何かに、かなりのダメージを感じるよ。
そうしている間に、サイドを編み込んでから一纏めにして、自分の髪を止めていたピンを数本抜いて、私の髪を止めた。
「とりあえず今日はこれで大丈夫です」
「ありがとうございます」
満足気に頷くルーナは、どうやって私のクセ毛を手懐けたんだろう。櫛も髪ゴムもないのに。
「そういえば」
ヴェロニカがニッと笑う。
「途中の宿場町でアルバンさん達と一緒になったよ」
女子達がパッと一斉に私の方を見た。
「はい! すごく美人の女性を連れていて、驚きました!」
「品のある髪の色が綺麗でステキでした! うなじが出るように結い上げたら、男性の視線を根こそぎ奪いますよ!」
メイド達が貴族のお嬢様を語るように言う。気持ちは分かるけど、ロザリアも一使用人だからね。
ヴィムとパウルが二人でこそこそ話ながら、宿の外に出ていったのも気になる。だけど、私が今一番気になるのはーーーー。
「フーゴとヴェロニカは同じ部屋にする?」
もうすぐ夫婦だからね。一緒でもいいと思って言ってみた。
フーゴはボッと一瞬で顔を赤くする。
「なななな何言ってるんですか! まだ結婚前です!
そ、そりゃヴェロニカさんと同じ部屋なら嬉し……いや、そうじゃなくて! ……え、ええと、あの、その…………」
フーゴの頭から湯気が見える気がする。
反対にヴェロニカはククッと笑った。
「別々にするよ。フーゴが言う通り結婚前だからね」
「え……は、はい。ですよね………ははっはははっ」
ホッとしたような少し残念そうなフーゴの顔は、しばらく赤みが引かなかった。
次の日、もはや恒例になった博物館。
ここはいつ来ても新しい展示や催し物があって、なかなか面白い。
今日は『世界の仮面展示会』という看板が置かれていた。
仮面舞踏会を思わせる優美な仮面や、アマゾンの部族が使用していそうな民族感の強いお面。能面の雰囲気があるお面や、動物を模したお面。
その中でも一際注目を集める仮面があった。
唯一、ガラスケースに入れられていた仮面はきらびやかな金色で、たくさんの色鮮やかな宝石が付いてる。
説明書きには、『初代国王が仮面舞踏会で使用した』と書いてあった。
国宝の一つらしい。
一言で言えば、派手。私にセンス云々は言えないけど……なかなかダサい。
「重そうな仮面ですねぇ」
次女マリンの呟きに、全員が頷く。
だよね。
初代国王と私達の好みは合わないようだ。
「なんて素晴らしいの!! この宝石の大きさ! 色使い! 本当に美しいわ!」
この仮面を絶賛する声が聞こえて来る。
まぁ、好みは人それぞれだからね。
チラと視界の端に声の主が目に入って、そっと見なかったことにした。
多分、絶対、その方がいい。
ヴィムも気がついたようで、私の隣に来て、無言でその場を離れることを促した。
「みんな、中庭に行こう」
中庭ではお面をつけた異国人が、踊りを披露しているらしい。
時々、不思議な音楽が聞こえて来て、みんなの興味を引いた。
「ほぅ。ムーソン国の音楽か」
「パウル、知ってるの?」
「いや、昔少し聞いたくらいだよ。あの国の文化は独特だからなぁ」
確かに独特な感じがする。少しアラビアンっぽいかな。
音楽に合わせて舞いを舞う人の姿が見えて来た。
「おお!」
思わず声に出してしまったのは、演奏者も踊り子もみんな独特の風貌をしていたからだ。
「褐色の肌にスカーレットの髪色……」
顔半分を薄い透け感のある布で隠した女性が、お腹を出すセクシーな衣装を身に纏い、深くスリットの入ったスカートから褐色の肌の足が覗く。動く度に腰飾りの鈴がシャランシャラン音を出した。
「すごい……」
色っぽすぎる!
見えそうで見えないスリットから覗く足から、目が離せなかった。
それに、ここまで赤い髪も初めてだ。ヴェロニカとはまた違った明るい赤が、情熱的な舞いに拍車をかけている。
ムーソン国の大事な式典には必ず披露される舞いだというから、日本で言ったら神楽とか、ハワイで言ったらフラダンスとか、バリで言ったらバリ舞踊みたいな、国を象徴する特別な舞いなんだろう。
いやらしい目で見ている者も少なからずいて、踊り子もそれを感じているだろう。舞いながらそんな奴らを嘲笑うかのような強い瞳が印象的だった。
すごくカッコいい!
レオナルドがポカンと口を半開きにしたまま、固まっていた。
普段、優等生タイプなレオナルドの珍しい姿に、思わず笑いが漏れてしまう。
「どう? レオナルド」
少し刺激が強かったかなと思って、からかい半分で感想を聞くと、ハッと口を閉じて緑色の瞳をキラキラさせて私を見た。
「こんな音楽や舞踊があるなんて、初めて知りました!
肌の色も初めて見ましたけど、綺麗ですね。衣装ととても似合っています。神聖なものを感じます。
ムーソン国……とても興味深いです!」
「……そう。それは良かった」
すごくしっかりした言葉が返って来た。
色っぽさにじゃなくて、ムーソン国の文化に刺激を受けていたのか。
さすがです。レオナルドさん。9歳ってこんなにしっかりしてるっけ。
「……うちの子、天才かも」
親バカならぬ、主人バカでもいいよ。
再びヴィムが私の隣に来て、背中に手を当てながら無言で誘導してくる。もっとじっくり見たかったのに、ここから離れた方がいいらしい。
「あらまぁ、下品だこと」
その一言に私の足が止まった。
振り返って見ると、先日ミレーラ嬢と貴族街のカフェで悲劇のヒロインを演じていたオフェリア嬢がいる。
いつもなら関わり合いたくなくて知らんぷりするところだけど、これはダメだ。
レオナルドが目をキラキラさせて感銘を受けていたって言うのに、水をささないで欲しい。
もちろん、感じ方は人それぞれだ。オフェリア嬢がムーソン舞踊を下品だと思っても、誰も文句は言えない。
だけど、まわりに聞こえる音量で批判する事ないでしょう。
ただの平民ならまだしも、貴族がそんなことしたら、下手したら外交問題だよ。
だからわざと大げさに、「Wow!」みたいなテンションを演出してみる。
「素敵ねぇ。
指先までしなやかで、高貴な方に好まれそうな舞踊だね。これって動きの一つ一つに神聖な意味があるんでしょうね」
みんなが私に続いて口々に称賛を続ける。
「体幹をしっかり鍛えているのが、腹筋をみればよく分かるな」
「美しく舞いながら、時折、戦士のような気迫を感じます!」
すると鼻の下を伸ばしていた見物客も、成る程と舞踊を見る目が変わったのが分かった。
もう踊り子をいやらしい目で見る者がいなくなった中、オフェリア嬢だけは気まずそうな顔をしている。
(口に出して下品とか言うからだよ。自業自得)
口は災いの元。
言ってしまった言葉は、無かったことに出来ないんだから。
「お腹すいたね。ご飯行こうよ」
今、私が取るべき行動は一つだけだ。
さっさとこの場を離れる。それ以外ない。
博物館の外に出た時、予想していた通りの結果になった。
「お待ちなさい!」
背後から叫ぶようにかけられた声に、私達は肩をすくめた。




