丸投げ理論
三段のケーキスタンドには、下から一口サイズの小さなサンドイッチ。スコーン。フルーツたっぷりのケーキが乗っている。
香りのいい紅茶をオーナー自ら注いでくれて、完璧なアフタヌーンティーだ。
まだ午前中なのにアフタヌーンティーなのは、馬車の中で気まずさに耐えかねて、うっかり朝食を食べ損ねた話をしてしまったからだろう。
お腹ペコペコだったから、ミレーラ嬢の気遣いに感謝だ。
「見慣れた町並みも、見慣れたカフェも、テラス席から見たら凄く新鮮です! これを知ってしまったら、個室になんて戻れません!」
テラス席に座ってからのミレーラ嬢は、あきらかにはしゃいでいた。
私もお洒落な街並みを眺めながら、これまたお洒落なケーキセットを前にウハウハしている。
だって、アフタヌーンティーなんて久しぶりなんだもん。昔は某ホテルのアフタヌーンティーに母とよく行ったな。
一番下のサンドイッチから食べるのがマナーだけど、一番上のケーキがあまりに美味しそうで、我慢出来ずにケーキに手をつけた弟が母に叱られたっけ。
弟よ、元気にしているかなぁ。
テラスに浮かれるミレーラ嬢。弟を思い出してホッコリしている私。
そんな私達とは反対に、護衛騎士達は周囲を警戒してピリピリしていた。
そんなに危険なの? って聞きたくなるな。ヴィムの様子は普段とあまり変わらないのに。
開放的なテラスの雰囲気もあって、なんだかミレーラ嬢との会話も楽しくなって来た。
ミレーラ嬢から聞いた話はこれからの私にとって、とても重要なことだ。
船で川を下って行くと港街があること。
そこから大型の船で他国に行けること。
船はすべて個人所有で、庶民は気軽に他国に行き来出来ないこと。
陸路で行ける隣国へは険しい山があって、特殊な馬と馬車でないと山道を進めないこと。
反対に少しだけ私のことも話した。
話せることといったら、異国から来たことと、マルファンに住んでいることくらいだけど。
予想に反して、ロザリアのことを聞いて来ないな。もしかしたら、意図的に聞かないようにしているのかな。
「マイカさんはどうしてこの国に?」
「完全に成り行きですよ。知人が世話を焼いてくれてこの国に来て…………後は何とか生活の基盤が出来て来たので、人生楽しもうと思っているところです」
「村に宿を……って、観光業をするのでしょうか?」
「いえいえ、宿はあった方が便利でしょ。宿場町みたいに旅人が利用したら、他国との交流も盛んになるかもしれないし。
もし観光化したいなら村人が何とかするでしょう。私は特に関わるつもりはないです。そんな知識もないですから。
まぁ、私が住みやすいように設備や投資はしていきますけど……」
宿があれば野宿していた旅人も助かるし、たくさんの村を見てみたい私も助かる。
だけど手を貸してばかりではダメだ。村人が自分達で動かないと、村に愛着を持てない。若者が都会に流出して、ゆくゆくはかつてのバート村のように廃村目前になってしまうよ。
「村や集落が宿場町の役割を……それはいいかもしれません。
港街アルゴーニに行くのに川を下って行くのですが、陸路では野宿が必須ですから。隣国ディオスへの山越えだって、もっと楽になるかもしれません」
そうそう。そうすれば、村や集落にお金が集まって、村力も上がるよ。
そしてお金が回り回って、神様が満足する結果に持っていけたらいい。
「私にも何か出来ないでしょうか」
ミレーラ嬢の言葉は正直ありがたい。
だって村力を上げても、税金としてガツガツ領主に取られてしまったら意味ないからね。
「ミレーラさんのお父様が私に少しでも恩を感じているのなら、各領主の動向に目を光らせておいて下さい。税金は領主が贅沢三昧する為の物じゃないですから」
「もちろんです! そんな最低な領主、絶対に許しません!」
ふむ。権力もなかなか使い道があるな。こういうのは、正義感に溢れた権力者が適任だ。
面倒なことはミレーラ嬢の一家に丸投げしよう。
スコーンにクロテッドクリームとラズベリージャムをたっぷりつけて口に運ぶ。
うん。美味しい。
外サクッと中ふんわりの上品な味。
だけど、ヨハンのスコーンの方が美味しいな。ヨハンは私の好みで焼いてくれるからね。
外側のサクサクが好きだから少し固めで、甘さは控えめ。クロテッドクリームも好きだけど、ホイップクリームをたっぷりつけるのがお気に入りだ。
ヨハンのスコーンが食べたくなってきたな。
二段目の皿を食べ終わり、一番上のケーキの番がやって来た。
フルーツたっぷりのカラフルなケーキを前に、ヴィムが空になったカップに紅茶を注いでくれる。だいぶ濃くなった紅茶にミルクで薄めて、香り豊かなミルクティーの出来上がり。
「ありがとう、ヴィム」
ヴィムってば、いつの間にこんなことが出来るようになったんだ。こっそり驚いていると、ミレーラ嬢もヴィムを驚いた顔で見ていた。
「マイカさん、彼……護衛ですよね」
「ですよ」
「……器用なんですね」
直接話しかけられたヴィムは、表情は変わらずにピクリと眉だけ動く。
無視するわけにもいかず、ゆったりと頭を下げた。
その仕草があまりに優雅で、思わず「どこの王子だ!」と脳内で突っ込んでしまったよ。
ヴィムに入れてもらったミルクティーを飲みながら、フルーツケーキの苺を突っついた時。
「あらぁ、これはこれはミレーラ様じゃぁありません?」




