↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/162

オークション4

「某国の高貴な家柄出身。呪いを受けた、犯罪奴隷の元令嬢です」


 美しい女性だった。


 髪は暗い赤紫色(マルベリー)

 この髪色はマルファンで一度だけ見たことがある。出身国が同じなのかもしれない。

 呪いによって虚ろな瞳も、髪色と同じだ。


 まだ若い、高校生くらいの女性がなぜ呪いをかけられ、なぜ犯罪奴隷になっているのか、オークショニアから語られる。


「年齢は18歳。

 元は某国の王族の婚約者でした。しかし、婚約者に酷い危害を加えた罪で呪われ、犯罪奴隷に。

 稀代の悪女と言われていますが、今はこの通り呪いで大人しいものです。

 何よりこの容姿。美しい姿を愛でるもよし、お好きなように可愛がるもよし。

 呪いを受けて日も浅いので、まだまだ美しい姿を楽しめるでしょう」


 会場が今日一番のざわつきをみせた。

 無理もない。本当に美人だからね。しかもスタイルも抜群で、グラビアアイドル並みのボンキュッボンだ。


 なるほど、稀代の悪女か。

 表情が虚ろなせいもあるかもしれないけど、彼女の美しい外見は甘さの一切ない、完璧な美人顔だ。可愛いなんて言葉は似合わない。

 思わず見とれてしまった。

 

「なんてことなの!! 王都のオークションで人身売買だなんて!!」


 背後でご令嬢が憤っている。


「マシュー、どういうことなの!?」


「国王が許可されたそうです。

 犯罪奴隷とはいえ、元貴族令嬢。保護すれば某国との関係に問題が生じる可能性も考えられます。

 扱いに困った挙げ句、国は関与していないと意思表示ですね。オークションならば何処の誰に購入されるか分からないですから」


「そんな……」


 ご令嬢が言葉を失った。


 いやいや、人身売買はこの世界には普通にあるでしょうに。奴隷商館も合法だし、色町で働く女性のほとんどが奴隷だった。

 好色家の貴族は、見目のいい奴隷を好むっていうのも、お約束だろう。

 今も貴族風の男達が目の色を変えて、イヤらしい顔で彼女を見ているじゃないか。


 ご令嬢は知らないかもしれないけど、世の中、理不尽だらけなんだよ。


 この暗い赤紫色(マルベリー)の髪の女性が、本当に稀代の悪女かどうかなんて、本当のところは分からない。

 誰かに嵌められて罪を捏造されることなんて、よくあることだ。

 家の使用人はみんな借金奴隷だけど、どう考えても借金なんて作りそうにない人物もいる。


 オークショニアの言った情報が本当かどうかより、私の前に呪い持ちが現れたことの方が重要なんだ。


「皆様、ご静粛に願います」


 オークショニアがハンマーを打つ。


「では500万から開始します」


 奴隷商館に何度か足を運んだから分かる。犯罪奴隷に500万ペリンなんて価格はあり得ない。

 それでも、彼女の美貌に目がくらんだ金持ち達が我先にと番号札をあげる。


「1000万!」


「1500万!」


「1800万!」


「2000万!」


 札を上げる全員がエロ親父に見えてくるから不思議だ。


 背後でご令嬢とマシューが何やら言い争っているけど、煩わしいな。家でやってくれ。


 当の女性は、微動だにせずに立っている。呪いで動きが制限されているのもあるだろうけど、インナーマッスルがしっかりしている証拠だ。

 家柄の良さに胡座をかいてダラダラ暮らしていたら、こうはならないだろう。

 王族の婚約者として、自分を磨き上げていた証拠だ。


「クルト」


「はいはぁい」


「今すぐ宿に戻って、ベルタから私のカバンを受け取って来てちょうだい」


「はいはぁい。行ってきまぁす」


 椅子からピョイと立ち上がって、オークション会場から出て行った。


「2500万!」


「2600万!」


「2700万!」


 呪いを受けても、意識ははっきりあると言っていた。

 順調に上がっていく金額を聞きながら、彼女の虚ろな瞳にこの光景はどう映っているのだろうか。


「他には?」


 オークショニアが会場内に問う。


「1億」


 28番の番号札を上げた。


 会場内のが全員私を見る。

 目立ちたくないとか言ってられない。彼女のポテンシャルなら一億だって安いくらいだ。


 虚ろな彼女の瞳と目があった気がした。


 どれだけ苦しい思いをしただろう。どれだけ悔しい思いをしただろう。

 彼女はもう貴族令嬢ではない。働いて自分の食い扶持を稼ぎながら生きていく、平民なんだ。

 それなら私のところで暮らしてもいいでしょう。家においで。


「他には?」


 オークショニアの問いに、会場内が静寂に包まれた。


 カンカンカン。

 ハンマーの音が響く。


「一億で、28番落札です」


 すべてのオークションが終わった。

 オークショニアが終了を告げ、落札者に対して別室に来るようにと続けられた。


「マイカさん!」


 金髪のご令嬢が意気揚々と話しかけてくる。

 何を言われるのか、何となく分かるので、少し憂鬱だ。


「マイカさん! 彼女を助けて下さって、ありがとうございます!」


 ほら、来た。面倒だな。でも、面倒がって黙っていても、ご令嬢には伝わらない。イケ好かない護衛の男に睨まれてもね。


「どうして貴方にお礼を言われるの? 彼女は貴方の身内?」


「違いますけど、私にはどうすることも出来なくて…………」


「何か勘違いをしているようですけど、私は彼女を奴隷の労働力として購入しただけです。

 元はどんな身分であっても、今彼女は奴隷で平民。働かざる者食うべからずです。平民はそうして生きているんですよ」


「そんな……。彼女の意思はどうなるんですか」


 ご令嬢は大事に大事に育てられて来たのだろう。

 純粋さは悪いことではないけど、一生、温室でぬくぬく暮らせるとは限らない。犯罪奴隷となった彼女のように、ある日突然、奈落に落とされることもある。


 病気の父親を助けたくて、お忍びで小さな冒険をした激しさはどこに行ったのだろう。


 マシューよ。甘やかし過ぎだぞ。そんな気持ちを込めて、チラリとマシューを見ると、彼は苦笑して肩をすくめた。


「彼女を人形のように飾っておいた方がいい? 

 働かなくてもお腹いっぱいご飯を食べられるなんて、赤ん坊と貴族のご令嬢しかいないの。

 平民は生きるために、自分で頑張らなければいけない。彼女はそういう力を身につけるべきだと思います。……まぁご令嬢には理解出来ないかもしれませんけどね」


「…………」


 わざと攻撃的な言葉を選んで伝えた。

 温室の土に鍬を入れるように、平民の現状を伝える。優しいご令嬢だから、ちゃんと平民の現状を知って欲しい。

 下々の生活を知っておいた方がいいよ。知ってると知らないじゃ、大違いだからね。


「お嬢様、クルトが戻りました」


 会場から出る人の流れを逆らって、クルトがスイスイ人の波を縫って来る。

 私の前に来ると、ニッと笑って皮のバッグを渡してくれた。


「お待たせっ」


「ありがとう。でも速くない? 宿まで結構な距離あるでしょうに」


「へへっ。久しぶりに本気だしちゃった」


 本気を出したら、速く移動出来るものなのだろうか。クルト……やっぱりパウルに、いろいろ仕込まれてるのかな。


「それじゃあ行きましょうか?」


 シュンとしてしまったご令嬢に、笑顔を向けると、沈んだ顔がパッと華やいだ。


(この子、激情したりしないあたり、私は好きだけど……貴族令嬢のゴタゴタの中で大丈夫なのかな)


 親の爵位が守っているのか、それとも私が思うより貴族令嬢の関係って、のほほんとしているのか。


 ニコニコしているご令嬢を見ていると、上品な毛足の長い犬みたいで可愛く見えてくる。いや、ルックスは元々かなりの美少女だけど。


 この綺麗な金髪をワシャワシャ撫でてやったら……イケ好かない護衛に噛みつかれるな。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。