オークション3
「それでは8000ペリンから」
それを皮切りに、一斉に札が上がる。最初はごちゃごちゃと金額が重なって聞き取りずらいので、オークショニアが時折金額を口にして取り仕切っていく。
マイクも何もないのに、オークショニアの声はよく通るから不思議だ。ごちゃごちゃと騒音のようになっていた客の声に負けない。
これは一種の才能だな。
「1万6000。他には?」
「1万8000。他には?」
オークショニアの声を頼りに値段を確認していると、競る人数は多いものの、値段がなかなかつり上がらないようだった。
いま競っている人も商人ばかりで、どうしても欲しいと言う感じではない。
「あんまり人気ないみたいだね」
「そうですね……古書という部類に入るのでしょうが、一般人にはあまり必要な内容ではないですから」
「商人には必要でしょう。地域によって需要も変わるから、うまくいけば一攫千金も夢じゃないよ」
「そもそも、小さな村や集落に商人は寄り付かないんです」
「バート村には来てたよ」
「バート村はカービング商会が仕入れに向かう町の、通り道らしいですよ」
商人は特産品のある村や町に仕入れに向かう。その一方で特産品のない場所は基本スルーするらしい。バート村はまだ温泉があったからよかったのか。
商人が来なければ、お金は必要ないか……。だから特産品のない場所にはお金がまわらないんだ。
そしてそういう場所はきっと、思いの他たくさんあるんだろうな。
何となく糸口が見えて来た気がする。
「2万300」
「2万500」
値段もチマチマと刻んできたから、私も参戦だ。
「3万」
あまりに刻んでいたから少しつりあげてみたけど、あきらめてくれるかな。
「4万」
さっきまで刻んでいた一人が、急に元気を取り戻してしまった。
でも私も譲るつもりはない。
「5万」
「10万」
急に値段が上がったものだから、会場がざわつく。
先ほどまで百円単位の刻みをしていた商品だから、驚くのも無理はないよね。……私も驚いてるし。
「20万」
譲る気はないので、私も強気にでる。
すると、すかさず相手も値段をあげる。
「50万」
「60万」
もしかしてわざと、高額で落札されるためにやっているのかと疑ってしまうよ。
「向こうも本気なようですね」
アルバンが呑気な声を出すのは、私が諦めないつもりなのを知っているからだ。
こうなったら相手の限界までお付き合いしないと。
「100万」
「110万」
「120万」
「130万」
私の金額の少し上をすかさず被せて来る。このまま刻んでいても埒が明かない。
「200万」
いきなり値段をあげると、相手は一瞬間が出来た。
「……210万」
そろそろ限界のようだ。
「250万」
「……260万」
しぶといな。まだ諦めないか。
「300万」
「…………」
次の金額は出なかった。
カンカンカンとオークショニアがハンマーを打つ。
「300万で、28番落札です」
会場が僅かにざわついた。
少し前に競り落とされた、宝石なんて1400万ペリンだったから、オークションではそれほど高額ではないはず。それでもざわつくのは、この手帳がいかに低い価値に見られていたかってことだ。
まぁ、私も手帳の中は知らないから、もしかしたら期待はずれの物に大金払ってしまったのかもしれないけれど。
「お嬢様、持ち合わせの金額は大丈夫ですか」
「うん」
オークションだからと思って、ある程度は巾着から大金貨を出して来た。
私が持っているのは小さなカバンだけど、トロピカル巾着にパンパンに大金貨を入れてきた。
大金貨3枚ならカバンから出て来ても普通だよね。
私と競っていた相手のことも気になるけれど、まだオークションは終わりじゃない。
「さて、続いてはーーーー」
続いて何やら大きな物が運ばれて来る。
それを見た瞬間、私達は全員、前のめりになってしまった。
会場も今日一番のざわつきをみせる。
「続いては、グランヴァルト王国では非常に珍しい、移動扉です。
ただし、残念ながら壊れて機能はしていません。片割れの扉はなく、こちらの扉も開けることが出来ない状態です。
しかしそれでも珍品中の珍品、移動扉。インテリアとしていかがでしょうか」
機能していない、対になる扉がない。その言葉に、会場内がいっきに落胆の声に包まれた。
それほど移動扉が珍しい物で、欲しい人もたくさんいるのだろう。
「移動扉にしては、ずいぶん質素な扉ですね」
そう言ったのはヨハンだ。
確かに質素な扉だった。古いのは仕方ないにしても、何の飾り気もない木製の板を張り合わせた扉は、納屋の扉と言われても納得だ。とてもインテリアとして飾るような扉ではない。
「ヨハンは移動扉を見たことあるの?」
「一つだけありますよ。豪華な彫り物が入って朱色をした、きらびやかな扉でした」
「移動扉を買い求めたそのほとんどが、王族や貴族、豪商でしたからね。見た目にも華やかな扉が好まれたのでしょう」
「ふ~~ん、そう考えると、この扉はショボいよね。本物かなぁ」
本来なら移動扉の所有者は国に登録されるけれど、この扉は機能していないことを確認されているから、登録の必要はないらしい。
ますます怪しいな。
「こちらは10万ペリンから」
スタート価格も移動扉価格らしく、最初から高額だ。
「ずいぶん強気価格だね。壊れてるなら、ただの扉なのに」
「機能している扉なら、スタート価格も100万ペリンはくだらないはずですよ」
「ぬぅ、そうなんだ」
さすがにこの見た目では、貴族風の客は興味はないようで、商人が半信半疑で番号札を上げている。
「350万」
これ以上は上がりそうにない。
移動扉にしては破格値だけど、ショボいただの扉になってしまった元移動扉には、過ぎ足る値段だ。
「ん~~、350万か」
じっと古い扉を見ていると、質素でショボいと思っていた扉が、何だかイギリスの片田舎にでもありそうな、アンティークで味があるように見えて来るから不思議だ。
何だか少し欲しくなって来た。
「400万」
ヴィム、アルバン、ヨハン、クルトが揃って私を見る。
私はチラと自分の手に持っている番号札を見る。
自分の意思とは反対に、番号札は上がっていた。慌てて下ろしても、もう遅い。
「………………」
やっちまったな、これ。
なまじお金を持っているから、元ブルジョアが出てきてしまったよ……。野菜を買う数十円を値切りたくてたまらないのに、400万ペリンなんて大きな金額は、ポロッと出ちゃうなんてね……。
カンカンカンとハンマーの音が響く。
「400万で、28番落札です!」
ああ、落札してしまったよ…………。
「欲しい人、いる?」
みんな揃って首を振る。
「ですよネ」
後ろでも若干ざわついているのを感じるけれど、放っておいて欲しい。
いや、よく見るとお洒落だよ? アンティークだもの。納屋でも作って、そこの扉に使おうかな。えらく高級な納屋の扉だけど。
…………また無駄遣いをしてしまったよね。
「次の商品はーーーー」
ブラックダイヤモンドが印象的なティアラだった。
「こちらは某国の王女が身につけた、由緒あるティアラです」
色鮮やかな宝石ではなく、黒く妖しい光を放つブラックダイヤモンドをティアラにするなんて、どんな王女なんだろう。ちょっと気になるな。
身なりのいい貴婦人が1200万ペリンで落札した。
私の好みじゃないけど、ボロ……いや、アンティークの扉よりずっといいと思うよ。綺麗だし。
「さて、皆様。次が本日最後の商品となります。
通常、当オークションでは、生き物全般の取り扱いを禁止しています。しかし本日は特別な許可を得て、特別な商品をご用意致しました」
そう言うと、オークショニアに手を引かれて女性がやって来る。
「某国の高貴な家柄出身。呪いを受けた、犯罪奴隷の元令嬢です」




