宿場町はアンビリーバボー
慰安旅行の計画は、王都出身のヒューベルさんに案を聞きながら、計画を立てた。
第一陣
私、ヴィム、エドガー、ロルフ、長女エリン、四女メリン、ペトロネラ、ローラ、マリッカ、ユーリの計10人。
第二陣
カサンドラ、ベルタ、リリア、アルバン、ヨハン、クルト、ルッツの計7人。
第三陣
ヴェロニカ、ルーナ、次女マリン、三女カリン、パウル、フーゴ、レオナルドの計7人。
第一陣が出発して5日後に、第二陣が屋敷を出発。
合流して2日後に第一陣は、私とヴィムを残して帰宅。
第一陣が屋敷に戻ったら、第三陣が出発。
そんな感じの入れ替え式スケジュールだ。
一応主人として、私はすべてのグループに参加する。第二陣が帰る時に、私一人で王都に滞在する訳にもいかないから、護衛にヴィムに私と一緒に王都に残ってもらう。
私と残る護衛は希望者に残ってもらうつもりだったけど、一陣二陣の護衛が全員手を挙げたから、アミダくじで決めた。ヴィムが当たりを引いたけど、みんななんて仕事熱心なの。
早朝に出発して、途中の宿場で三泊すれば、夕方には王都に着く。
王都の宿は、ヒューベルさんの知り合いの宿を紹介してもらった。大人数が一気に泊まれる大型の宿は、王都でも数件らしい。
そんな知り合いがヒューベルさんにいるなんてね。
貸馬車もアルバンが手配済み。第一陣は三台。次からは二台。完璧な計画だ。
ーーーーってことで私は今、三泊目の宿場町にいる。
「何だか寂れた感じがする宿場町だね」
私が思わず呟いたのも仕方ないと思う。
一泊目。
素朴な民宿系の宿が3軒程の小さな宿場町だったけど、観光地のマルファンが近いこともあって、そこそこ賑わっていた。
二泊目。
大型のホテル風の宿がドドンと1軒と、小さな民宿も数件あった。
王都からマルファンに行くためには、他の宿場町をスルーして強行突破しても、ちょうど二番目の宿場町で馬の体力の限界をむかえるらしい。そのため、宿泊者も多く、結構な賑わいを見せる町だった。
そして三泊目。
二泊目同様、大型の宿がドドンと1軒。
王都まであと5時間ほどという中途半端な場所にある宿場町は、素通りする人も多い。宿泊者の多くは、お金と時間に余裕のある人だ。
「人も宿も少ないから、寂れた感じがするのか……。
今日はこのホテルに泊まるの?」
高級そうな宿に気後れして、思わずヴィムを見上げる。
「いや、この宿の裏側にマイカ好みの宿があるとヒューベルが……ああ、これか」
そこには、高級ホテル宿と対象的な建物があった。
古くて、素朴で、田舎の木造小学校のような雰囲気がある。
ヴィムが言った通り、まさに私好みだ。だって、イシカワ邸の私の部屋でも落ち着かないくらいなのに、高級ホテルじゃあムズムズするじゃない。
「これはまた雰囲気ありますね!」
エリンが嬉々とした声を出した。
「夜中、誰もいない客室から、女のすすり泣く声がしたり……。
姿が見えないのに、部屋中を走り回る足音がしたり……。そんな雰囲気があってワクワクします!」
ワクワクすんのかい!
エリンの言葉に、マリッカとメリンとユーリが青い顔で、エドガーにしがみつく。
ああ……ユーリはともかく、マリッカとメリンが泣きべそかいてるぞ。
いつものエリンなら、空気を読んで怖がらせるようなことを言わない、典型的なお姉ちゃんタイプなのに、今日は一味違う。旅行に浮かれているのかもね。浮かれるのは良いことだけど……ローラまでペトロネラに寄り添っいるし……。
「ペトラちゃん、本当にそんなことがあったら、どうしよう……」
「興味深い現象ですね。ぜひ原因を調べたいです……お嬢様、許可をーーー」
「ないないない! ないからっ!」
知らなかったよ、エリンとペトロネラがホラー好きだなんてね……。
だけど本当に何か出そうなーーー。
そう思った時。
「はひっ! ぎゃぁーーーっ!!」
ユーリの悲鳴が響き渡った。
みんな一斉にユーリの方を向く。
ユーリはエドガーの
身体を登りそうな勢いで、全身でしがみついていた。
猫みたいでちょっと可愛いとか思ってしまった……ユーリ、年上なのに。
「あらあらあら」
そこにいたのは、恰幅のいいオバさんだ。
ユーリの肩を叩いたのだろう。右手がそのままの形で固まっている。
「驚かせてしまったのね。ごめんなさい。お客様かと思ったのだけど、違ったのかしら?」
宿の女将さんのようだ。
女将さんのニコリと柔らかく笑った顔を見て、ユーリの力が抜けて、エドガーから滑り落ちた。
「違わないです。今日、10人宿泊したいんですが、お部屋はありますか?」
「ええ! もちろんです! うちの宿でよろしければ、喜んで!」
男達は二人部屋を二部屋。女達は三人部屋を二部屋。
・ヴィム、ロルフ。
・エドガー、ユーリ。
・私、ペトラ、マリッカ。
・エリン、ローラ、メリン。
こんな感じに分かれた。
こうしてこの宿に泊まることになったのだ。
ーーーー夜。
「お嬢様、お嬢様」
ぐっすり夢の中だった私は、誰かに身体を揺すられてぼんやりと目を覚ました。
「ん……ペトラ? もう朝?」
「いえ、まだ夜ですが」
じゃあなんで起こしたんだと言う前に、ペトロネラの腰にぶら下がったマリッカに気がついた。
「何、どうした?」
これは悠長に寝てる場合ではないかも知れない。
「こ、声が……」
「声?」
「お嬢様、お静かにーーー」
シクシクシク。
シクシクシクシクシク。
「これって!?」
泣き声だ。
マリッカがペトロネラの腰に顔を埋めて、何度も頷いている。
どこから聞こえるんだろう。
シクシクシク。
「若い女の子の泣き声……だよね?」
「はい。隣のエリンさん達の部屋かと思ったのですが、どうやら隣はぐっすり眠られています」
「それなら別の部屋か……」
夕食の時間に、食堂で一緒になった人物は数人。若い女性はいなかった。
ペトラが目を細める。
「一組いましたよ。ローブを被って顔を隠しながら食事をする男女が。女の方は仕草から、かなり若い女だと思われます。
……お調べいたしましょうか?」
「いや、行って見よう。本当に泣いているのが人間なら、そのまま戻ろう。
もし……」
ホラー的な物なら……やっぱり何も出来ないか。
でも気になるじゃない! 確かめずにいたら、悶々としちゃうし!
「承知しました。お供いたします」
部屋を出ると、扉の前にヴィムとエドガーとロルフがいた。
三人とも泣き声が聞こえるらしい。
「ぞろぞろ行動しても仕方ないから、ロルフは一緒について来て。ヴィムとエドガーはマリッカをお願い。エリン達の部屋前にいてちょうだい」
「マイカ、俺も一緒に……」
ヴィムが一緒に行きたがっているのは分かってるけど……。
「今回はロルフで!」
泣き声は女性だからね。女の扱いに慣れているロルフが適任だ。熟女じゃなくても、ロルフの魅力が通じるかは不明だけど。
不満タラタラに引き下がったヴィムにマリッカを引き渡して、捜索開始だ。
宿の廊下はポツリポツリとランプがある。けれど月が雲に隠れていて、窓からの月明かりがない分、暗い。
シクシクシク。
シクシクシク。
泣き声はまだ聞こえる。
「こちら側から聞こえますね」
先頭にペトロネラ。後ろにロルフ。
背筋がゾクリとして、思わず前を歩くペトロネラの手を握った。ギュッと握りかえしてくれるのが心強い。
私はお化け屋敷なんかは全然平気だし、ホラー映画も普通に観れる。でもそれは作り物だって知っているから。
心霊スポットには絶対行きたくないし、リアルな人形なんかも苦手。
今だって、本当なら行きたくないよ。確かめようなんて思わなかったよ?
だけどなぜか、私が行かなくちゃ! みたいな妙な気持ちになってるんだ。
やがて前を歩くペトロネラの足が止まった。
「この部屋のようです」
そこは、宿の一番奥の部屋。いわゆるスイートルームにあたる場所だった。




