第10回家族会議
いつの間にか会議も10回目だ。
ここ数回は特に重要な決定事項はなかったけど、今日は久しぶりに重要だ。
「今日の会議では、バート村の別荘管理と宿の運営についてです」
今までマルファンでみんな一緒に暮らしてきたけど、バート村に行って貰う人を決めなければ。
「みんなには交代でバート村に滞在してもらいましたね」
みんなにバート村の様子を見てもらいたかったのもあって、慰安旅行前の遠足気分でバート村の別荘に泊まってもらったんだ。バート村なら近いし、これからも度々、遊びに行く事になると思う。
でも、遊びに行くのと、住み込んで生活するのとは訳が違う。
それも踏まえて考えて貰うために、みんなにはバート村へ行ってもらった。
「以前から話していた通り、バート村の別荘や、これから出来る宿で働く人を決めたいと思います。
バート村で生活したいという希望者がいれば、名乗り出て下さい」
最初からバート村に送る人員を考えて、使用人を増員したんだけど、いざ……となるとさみしいな。まぁ、バート村は近いし、ちょくちょく私も行く予定だけどね。
静まりかえった部屋の中、最初に手をあげたのは、メイドの長女エリンと、三女カリンだった。
エリンはニッコリ笑顔だ。
「私達、姉妹で話し合ったんです。
妹達もこのお屋敷で良くしてもらっていますし、長女の私が妹達から離れても大丈夫だと思って……。
何より私がそろそろ妹離れしないといけません」
「私は宿の仕事をしてみたいです!」
カリンも自ら進んでバート村に行きたいと思っているみたいだ。
エリンもカリンもちゃんと自分で決めたなら問題ない。
カリンがやる気に満ちている様子を、穏やかに見つめていたエリンは、小さく笑う。
「バート村はいい村でした。私達はのどかな村って初めてで、すごく癒されたんです」
四姉妹は父親の借金が原因で奴隷になった。元々住んでいたところは、都会だったのかもしれない。
最初に出会った時は、娼館に行くことが決まりかけていた姉妹だった。中でも長女のエリンは、年齢的にも覚悟を決めていただろう。
田舎の村で、のんびり過ごすのもいいかもしれないね。
「じゃあ、エリンとカリンはバート村決定です。
他に希望者はいますか?」
宿を運営するなら、まだ人員が必要だ。誰も手をあげなければ、私が人員を振り分けることになるけど……出来れば希望者がいれば丸く収まるんだけどね。
「……あの」
小さな声で小さく手をあげた人物がいた。
料理人のフーゴだ。
「僕もバート村に行きたいと思います」
ガタンと音をたてて立ち上がったのはルッツだった。その顔には思い切り、ショックですと書いている。
「そんな! 師匠がいなくなったら、俺はどうすれば……」
今にも泣き出しそうにルッツの顔が歪む。
ルッツ少年、気持ちは分かるよ。私も今、頭を殴られた気分だ。だってフーゴのご飯が毎日の楽しみだったからね。
「わ、私もまだまだフーゴさんに教えて貰いたい事がたくさんあります……」
ローラの顔はうつ向いていて見えないけれど、声が震えている。
マリッカがローラの手を握っていて、料理人組の仲の良さがよく分かる。
フーゴは柔らかく笑って、ルッツの髪をぐしゃぐしゃ撫でた。
「ルッツ。君は全くの素人だったけど、今じゃ立派な調理補助だよ。僕の一番弟子として、頼りにしてるよ。
ローラ。君の料理の腕はすでに一流だよ。むしろ僕が教えられることも多かったし、すごく刺激を受けた。
マリッカ。君は頑張り屋さんでセンスがある。しっかり上達してるよ。
君達なら大丈夫。だから僕も、安心して新しい事に挑戦出来るって思ったんだ」
……おお、フーゴがすごく流暢にしゃべってる……。
私と話す時は、いつも緊張してます、気まずいです、って感じが抜けない話し方するのにね。
一度それを指摘したことがあったけど、しどろもどろになりながら弁解してたんだ。
それをヴェロニカに愚痴ったことがあった。豪快に笑って、フーゴは自分にもそんな感じだと言っていたっけ。
思わずヴェロニカを見たら、バッチリと目が合った。
私をじっと見ながらピンと腕をのばす。
「私も行くよ」
ヴェロニカがニッと笑って言った。
「え……ヴェロニカも?」
「うん。実はねーーー」
「待って下さい!!」
ヴェロニカの言葉を遮ったのはフーゴだ。
私もヴェロニカも揃って口を閉じたのは、フーゴの顔がいつになくキリッとしていたから。こんなフーゴ、初めて見る。いつもはフニャリとした柔らかい表情なのに、どうしたんだろう。
「どうかした?」
「お嬢様に、おおお話したいことがっありますっ!!」
「な、何ですか?」
奴隷解放の件? それならまだ三年たってないから無理だよ。それとも、もっと深刻なこと?
「お嬢様!!」
「はいっ!」
「ヴェロニカさんとの結婚を認めて下さい!!」
「はいっ!?」
ヴェロニカとの結婚?
「ええええ~~~っ!!?」
震える拳を握りしめて、真っ赤になったフーゴの顔は、熟れたトマトみたいで面白い。
結婚と聞いて、年頃のメイド達がキャッキャ騒ぐ。やっぱり憧れるものなのかな。
「きゃぁぁ! ついに結婚ですか?」
「きゃぁぁ! 二人ともおめでとうございます! お似合いです!」
「いいなぁ。羨ましいです!」
……だけど結婚って、普通はその前にお付き合いがあるものでしょう?
結婚って一人でするものじゃないし、ヴェロニカの気持ちも確認しないといけないじゃない?
「ヴェロニカ……」
「うん。そういうことなんだよね」
ヴェロニカとフーゴが視線を合わせて、二人揃って少し照れ臭そうに頭を掻いた。
「そういうことって……」
みんなの視線が一斉に私に向けられる。
(ああ、そうか)
ずっと二人は恋人同士だったのか。私が知らなかっただけで。
そういえば、フーゴが買い出しに出かける時は、ヴェロニカが護衛につくことが多かったな。
「フーゴさん! プロポーズの言葉は?」
「フーゴさん! いつプロポーズしたんですか?」
メイド達がフーゴを質問責めしているのを見て、ヴェロニカが豪快に笑う。
「あっははは。おっかしいなぁ。私達の関係、誰にも言った事ないのに、みんな知ってたんだ」
「バレバレですって! フーゴさんに隠し事は無理ですよ」
「顔に全部でますから!」
みんなが一斉に頷いた。
みんな二人が恋人だと知っているのに、私だけ気が付かないとか……なかなかショックだ。
「あのさ、マイカ。奴隷同士の結婚って主人の許可がいるんだ。だからマイカに認めて貰いたいんだけど……どうかな」
二人の結婚を認めることは、もちろん嫌ではない。
奴隷といえどもプライベートまで縛るつもりはないし、仕事さえきちんとしてくれたら、恋愛も結婚もご自由にどうぞと思っている。
だけど何だろう。
胸の奥底に小さな小さなシコリを感じる。寂しさ? 嫉妬? 不安? 焦り?
(あ、野良猫のシロが別の人に、ニャン太って呼ばれてた時の気持ちに似てる……。
一番の仲良しの友達に、他にも仲良しがいた時の気持ちにも似てる……)
私の猫じゃないのに、私だけのシロでいて欲しかったなんて……わがままかな。誰かの一番になりたいなんて……わがままかな。
だけど、結婚はおめでたいね。大賛成だよ。
「もちろん許可するよ!
じゃあフーゴとヴェロニカにはバート村の宿を任せるよ。宿は食堂も兼ねるからね」
結婚するなら新居も用意しないと。またサンダル建設に行かないとね。
結局、他にバート村への希望者はいなかった。
四人もいれば何とかなるかな。
「ねぇアルバン。奴隷同士で子供が出来たら、どうなるの?」
「奴隷の子供は、奴隷にはなりませんよ。ただ、経済的な理由から奴隷になりやすい……ということはあります。お嬢様のように奴隷に給料を払ったり、三年で解放しようと言う主人なんて、なかなかいませんしね」
「そうなんだ……」
じゃあフーゴとヴェロニカに子供が出来ても大丈夫だね。バート村なら奴隷だからどうこう言う人もいないだろうし。
幸せそうなフーゴとヴェロニカを見ていると……なんだか……。
「恋人、いいな」
ちょっと思ってしまった。
私に近寄る男は十中八九お金目当てでしょうけどね。




