馬の貴婦人
新たに追加した人員。
メイド
・エリン 22歳
・マリン 19歳
・カリン 14歳
・メリン 10歳
借金奴隷の四姉妹だ。父親の借金で売られたらしい。
メイド経験はないけど、4人とも娼館に買われる予定だったこともあって、泣いて感謝された。
料理人
・ローラ 女 21歳 元料理人補助
・ヨハン 男 47歳 元パティシエ
・マリッカ 女 12歳 元農家の娘
ローラはまだ年若いけど、高級宿で料理人補助を10年していたらしい。
ヨハンはモスグリーンの髪の、筋肉質なおじ様で、パティシエ歴30年の大ベテランだ。
マリッカは物静かな女の子。それ以外はいたって普通。普通が最高だということを私は知っている。
護衛
・ロルフ 男 36歳 元傭兵
・カサンドラ 女 24歳 元騎士
ロルフは、なかなかの優男で、モテそうな顔をしているけれど、頬に大きな傷痕がある。
カサンドラは、超真面目なタイプのザ騎士。ショートカットで中性的な美人。
馬丁
・ユーリ 男 28歳 元馬丁
ユーリは小柄で童顔で、10代でも通用するかもしれない。私も散々子供に見られて来たけど、ユーリには負けると思うよ。
一気にたくさん増えたけど、ちゃんと一人一部屋与えられるって大きい屋敷だよなぁ。
ダイニングテーブルはもう一台新調しないとダメだね。
まず最初に、久しぶりに銭湯を貸し切りにして、みんなピカピカになってもらった。家のお風呂は、メイドに1日に二回も掃除させるのも大変だからね。
家に戻って全員をダイニングに座らせて、アルバンから我が家の決まり事を仕込んでもらう。
前回の私は、これが面倒で力尽きたけど、これからは使用人に丸投げ出来て楽チンだ。
私の自己紹介も終わったし、クルトとペトロネラの様子を見よう。
まだ眠っているけど、呪いが解けたからか、栄養剤を注射しているからか、顔色が良くなった。
昨日も今日も軽く身体を拭いたけど、全然起きる気配もない。
マインラート先生の見たてでは、まだ数日眠ったままの可能性があるらしい。眠って体力を回復しているのだとか。
元気になって起きてほしい気持ちと、精神を壊していたらどうしようと不安な気持ちと、ごちゃ混ぜだ。
だけど、規則正しい穏やかな寝息にホッとした気持ちになるな。せめて寝てる間は穏やかであってほしいからね。
コンコンとペトロネラの部屋の扉がノックされた。
「お嬢様、ヴィムが戻りました」
ベルタが珍しく少し興奮ぎみなようだ。たぶん馬を見たからだと思う。
「すぐ行く。アルバンの屋敷案内ツアーが終わったら、ユーリを厩舎に連れて来てくれる?」
「かしこまりました」
「馬、どうだった?」
「大きくて立派でした」
ふふふ。私は分かります。冷静に言ってるけど、頬が少し赤くなってるよ、ベルタ。興奮を隠してるんでしょう。
キャッキャ騒がないところはさすがベテランメイドだね。
裏庭に新設した厩舎は、アルバンこだわりの臭い対策がいくつもある。
厩舎の床をまるごと洗えるように、水捌け抜群の素材を床に敷いた。ザバァと水を流しても、数分でカラッと乾く、素晴らしい床材だ。何より馬の足に優しいらしい。
脱臭に特化した壁。臭いを吸収してキレイな空気に戻すという、謎の石もゴロゴロ置いてある。
住居に近すぎると、これくらいしないとダメらしい。
おかげで馬が二頭いても、ほとんど臭い問題はない。
厩舎に着くと、私を発見したヴィムがにこやかにイケメンスマイルを振り撒いた。クールな印象のあるヴィムがこんなにニコニコしているのは珍しい。
「マイカ! 久しぶりだ!」
「そうだっけ」
二泊三日で久しぶりかな。まぁ、初めてのお使いだったからか。
「馬は……」
ヴィムが連れて来た馬を見ようと、厩舎の中を覗く。
濃茶色の毛並みは……。
「カラメル!!」
私の声に反応して、濃茶色の馬は私を見た。
ヒヒィィィィ。
私のことを覚えていたみたいで、嬉しそうに軽く嘶く。
「やっぱりカラメルだ! 良かった、まだテオの家の子だったんだね!」
カラメルが鼻を私に押し付けて来るから、首に抱きついて歓迎の気持ちを伝えた。
ふと、視界にもう一頭が目に入る。
「ん?」
クリーム色の身体。まるで私を見下すような目。私と目が合うと、フンッと鼻息荒く、そっぽをむいた態度……。
「マヌエルさんが言ってた気位が高くて、気に入った人しか乗せないっていう……」
初対面最悪だったあの馬だ。確かにヴィムの気に入った馬を選べとは言ったけど、誰も乗れない馬を連れて来られても……いや、返品なんてしないよ? だけど、ねぇ?
「ヴィム、ちょっと」
「良い馬だろう」
何でヴィムはこんなに得意気なんだ。
確かに良い馬だよ。大きくてガッシリしていて、毛並みもキレイ。見た目は100点だよ。でも、どんなに良い馬でも、乗れなければ意味がない。
「ん?」
ちょっと待てよ。
マヌエルさんが、乗れない馬を売るだろうか。アンヤ達を購入するって言った時、娘を嫁に出す父親かってくらい、慎重になってたマヌエルさんが……。いや、売らないな。
「ヴィム、ちょっとそっちの馬に乗って見て」
ヴィムは頭にはてなハテナマークをたくさん着けたまま、クリームの馬にヒョイと跨がる。
はい。白馬の王子様の出来上がり。
馬は嫌がる様子もなく、ヴィムを乗せた。
嫌がるどころかヴィムを乗せた姿は嬉しそうでもある。
「よしよし、いい子だな、アデルハイト」
「アデルハイト?」
「カラメルは名前で呼ぶのに、こいつを名前で呼べないのが申し訳なくて……ダメかな」
ヴィムが馬を撫でながら、少し表情を固くした。私が怒ると思っているのか。
アデルハイトは勝ち誇った目で私を見下ろす。
ぐぬぬ。ヴィムと私でこの態度の違いはなんだ。
「ヴィムが気に入った馬だし、名付けはヴィムがつけたので、別にいいよ」
貴婦人なんて、ずいぶんお洒落な名前を着けたな、と思っちゃうけどね。
というか、牝馬だったのね。
私が名付けるなら、クリームヒルトだな。『ニーベルンゲンの歌』に登場する、英雄ジークフリートの妻の名前だ。可憐で美しい見た目で、どろどろの復讐の鬼になる女、クリームヒルト。
私に見せる態度と、ヴィムに見せる態度が違いすぎるもん。クリーム色だし。
「アデルハイト……貴族の貴婦人ならこんな感じなのかな」
カラメルを撫でて癒されながら、女は恐いんだぞと、カラメルに教えてやった。
アンヤとブランにも教えてあげたい。
カラメル 150万ペリン。
アデルハイト 450万ペリン。
……アデルハイトよ。態度もデカければ、値段も高いのか。
カラメルは……性格よし、値段もそこそこ。優等生だな。
ちなみに馬丁のユーリはすぐにアデルハイトに気にいられた。ユーリは可愛い顔して、意外と女の扱いが上手いのかもしれない。




