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リリアはどこだ

 最近、日中にリリアの姿を見かけない。

 最初の頃はリビングやダイニング、応接室でメイド三人がせっせと掃除をしていたのに、最近はベルタかルーナが一人で掃除をしている。

 今だってルーナがせっせと中央階段の手刷りを磨いていた。


「ねぇ、ルーナ。リリア知らない?」


「ええと……リリアならベルタさんと……別のお部屋の掃除をしているはず、です」


 むむっ。歯切れが悪いな。よし、それなら探してみようか……。


 ダイニングは誰もいない。応接室にも誰もいない。リビングには……。


 アルバンとレオナルドが二人で何やら書類を前に話し合っていた。


「お嬢様、御用でしょうか」


 アルバンがスッと音も無く立ち上がり、同じく立ち上がろうとするレオナルドを片手を上げてその場に留める。


「いやぁ、用はないんだけど……。二人は今、何してたの?」


「明日の使用人の配置と行動の把握。教会への寄付金と品物の管理。屋敷の費用の管理などの仕方を教えていました」


「そ、そう。忙しそうですね」


「レオナルドは勤勉なので教えがいがあります」


 レオナルドは何やら一生懸命書き物をしている。まだ子供なのに頑張るなぁ。

 私はお金を出すだけで、何でもかんでもアルバンに任せすぎかもね。


「あ、みんなの仕事着を導入したいんだけど、アルバンはどう思う?」


「仕事着ですか……どういった物を考えているかお聞かせいただけますか?」


 レオナルドも交えて本格的な話し合いになって来た。仕事を増やして申し訳ないけど、やっぱりメイドはメイド服を着て欲しいし、料理人はコック服を着て欲しい。

 アルバンだって今は既製品のスーツだけど、やっぱり執事は燕尾服じゃないとね。燕尾服姿のレオナルドは絶対可愛いと思う。


「料理人のコック服は胸元は片側ボタンで反対は飾りボタンで……色はネイビーがいいな」


 紙に適当にイメージの絵を描いていく。こんな落書きでイメージ伝わるかな……。


「料理人の服って白じゃないんですか?」


 レオナルドが良いパスをだすね。確かに白いコック服は汚れたら目立つからすぐ交換出来るし、清潔感がある。でも洗濯するメイド達が大変だよね。漂白剤もないんだし。ただでさえ三人で全員の服を洗ってくれてるのに、落ちにくいトマトソースとかカレーソースとか着いたコック服をピカピカにしろなんて言ったら、暴動起こるよ。……メイド大変だな。増員するべき?


「ネイビーなら汚れも目立たないし、毎日交換するように決めたら、清潔も保てるじゃない」


「黒ならどうでしょうか」


「黒は好みじゃないんだよね。後、フーゴに似合わないし」


 結局は私の好みの問題が一番大きいかな。てへ。

 燕尾服は黒一択だけどね。


「アルバンとレオナルドは燕尾服ね。蝶ネクタイの色はレオナルドと相談して決めてね。見習いと色分けしてもいいかもね」


 後は……。


「メイド服!」


「貴族のメイドのような服ですね」


 たぶんアルバンと私の思うメイド服は同じ類いだと思う。

 私のイメージ的には、某テーマパークのゴーストマンションのキャストさんが着ているクラシカルな制服。上品で素敵だよね。


「メイド服もネイビーで。動きやすく軽い素材がいいね。露出を控える分、上半身は出来るだけ身体にフィットしたデザインにして……ああ、でもブラウスのはち切れそうなボタンも捨てがたい」


「素晴らしいですね。白いフリフリのエプロンも作りましょう」


「ふっふっふ。アルバンも好きねぇ」


 でも忘れてはいけません。家でメイド服を着るのは、今のところベルタとルーナとリリアなんだよ。可愛すぎるメイド服はベルタがNGだろうし、上品すぎるとリリアみたいに若い子供には合わない。ルーナはどちらも似合いそうだけど。年齢関係なく似合うメイド服にしたい。


 それにしても、アルバンがメイド服にこんなに反応すると思わなかった。まだまだ現役バリバリの男ってことだね。……ということは、悶々とストレスも溜まるだろうな。今度、男達を連れて、ドキドキ娼館ツアーに行こう。


 レオナルド少年が目を丸くしてるのは仕方ない。お子様にはまだまだメイド服の萌えポイントは分からないんだ。


「ごほん。メイド服はアルバンに任せます。

 次に庭師の作業服ですが、ポケットのたくさんついたオーバーオールを希望します」


 庭師の作業服についてはこれで終了した。アルバン……メイド服の時のこだわりはどこに行ったんだ。


 レオナルドはアルバンに預けていて大丈夫だろうか。心配になって来たぞ。


「アルバン、レオナルドは純粋培養でお願いします」


「もちろんでございます。お嬢様のお好みに仕上げましょう」


 いや、執事としての話しだからね。私はショタではありません。レオナルドは可愛すぎるけど、大丈夫です。


「制服関係の注文は明日早速手配します」


「細かいところはアルバンに任せます。

 ……ところで、リリア知りません?」


「リリアならこの時間はキッチンだと思います」


 さすが執事。使用人のスケジュールを完璧に把握してるね。


 ではでは、リリア捜索再開だ。




 アルバンに聞いたキッチンに向かっていると、

外から聞こえる男の呻き声に気がついて足を止めた。


「ううっ……うぐぅ」


 な、なになになに。どういう状況??


「うはっ……」


「うぬっ……はぁはぁはぁ」


 なになになになに??? 

 ど、どどどどういうこと???


「うぐ……ん……っはぁ」


 けしからん!!

 如何わしい声出しちゃって、けしからん奴は誰だ? 

 これはこの家の主人として注意しないと。決して覗きじゃないからね。


 キッチンに向かっていた私は何故か今、外にいる。


「ううっぁ……っ」


 ヴィムのうめき声。


「ぐぬぅ……っはぁはぁ」 


 エドガーのうめき声。


「ほらほら、まだイけるよねぇ。この程度でヘバるんじゃないよ! 私はまだまだ満足していないよ!」


 ヴェロニカの攻め攻めな声。


 ソロリと覗いた私は、三人の姿を見て固まった。


「腕立て伏せかよっ!!」


 三人は揃って、腕立て伏せ限界までチャレンジを実行中だった……。

 だと思ったよ。決して如何わしい想像なんてしていません。鼻血も……出ていません。


「あれ? マイカ」


 私に気がついたヴェロニカの声に、ヴィムとエドガーも身体を起こす。二人とも額の汗がセクシーで目線に困ります。


 腕立て伏せはヴェロニカの圧勝らしい。

 ヴィムとエドガーの血管の浮き出た上腕二頭筋まぶしいわ。

 ヴィムは最初は痩せっぽっちだったのに、だいぶ筋肉ついたよなぁ。ゴリマッチョはあまり好みじゃないけど、今くらいが最高だよ、ヴィム。


「あ、あの……マイカ?」


 ヴィムの戸惑った声にハッとして、どこかに飛んでいた意識を戻す。ヴィムの上腕二頭筋をおさわりしている私がいた。……無意識って怖い。勝手に私の手がセクハラに走ってたよ。


「ごめんごめん。良い感じの筋肉だなぁって思ってね」


「い、いや。気に入ったならもっと触ってくれていい……」


 へっ? ヴィムからおさわりの許可を貰っちゃったよ。じゃあ遠慮なく……。

 

「マイカはどこかに出かけるの? 私が護衛につこうか?」


 合法のおさわりをしていると、ヴェロニカが護衛を申し出てくれたけど、出かける予定はない。


「大丈夫、出かける予定はないよ。もうすぐお茶の時間だから、汗拭いて着替えておいで」


 話している間ずっとヴィムの筋肉を撫で回していた私は、赤くなっているヴィムの顔を見て、慌てて手を放した。

 許可を貰ったとはいえ、やりすぎは良くないな。欲求不満なのか、私。これは私もドキドキ娼館ツアーに参加するべきかな。






 ようやくキッチンに行くと、フーゴとルッツとベルタがお茶の準備をしていた。

 リリアの姿はない。


「あれ? リリアは?」


 ベルタがカップを揃えていた手を止める。


「リリアならダイニングでお茶の準備をしていますよ」


 3時のおやつに習って、午後のこの時間に休憩時間を取るようにルールを作ったのは私だ。

 だって、全員が休憩も取らずにずーーっと働き続けようとするんだもの。どこのブラック企業だ。

 本当は使用人の人数を増やして、交代で休憩を取るべきなんだろうけど……人選が面倒で後回しになっている。近いうち、何とかしないと。


 ダイニングに行くと白いテーブルクロスがかけられたテーブルに、デザートフォークが並べられていた。


「リリア!」


 やっと見つけたリリアは、私の姿を見るとニッコリ笑う。可愛いなぁ。さすがレオナルドの姉だな。


「今日はマイカお嬢様が一番のりですね。こちらへお座り下さい」


 椅子を下げてくれるのはありがたいけど……。


「呼び方、前みたいに戻してくれない?」


「ダメです」


 キッパリと断られてしまった。

 第一回家族会議で決めた呼び方は、第二回家族会議の時にメイドに抜擢してから変わってしまった。前はマイカさんだったのに……。レオナルドも同じようにお嬢様と呼ぶようになってしまったし……。正直寂しい。


 大人しく椅子に座っていると、続々とみんなが入って来た。

 ベルタがお茶を積んだワゴンを引いてやって来ると、本日のお茶菓子を出してくれる。


「本日はレモンのレアチーズケーキです」


 フーゴ特製のレアチーズケーキは、表面に蜂蜜漬けの輪切りレモンが飾ってあって、可愛いらしいケーキだった。輪切りレモンをコーティングする透明なゼリーがキラキラしてとても綺麗だ。

 しばらく見ていたいくらいのレアチーズケーキだったけど、ベルタが躊躇なく切り分けていく。


 あれ? いつもならベルタはお茶を担当しているはずだけど……。


「今日は私がお茶をおいれしますね」


「リ、リリアが?」


 大丈夫だろうか。そう心配したのは、最初にリリアに入れて貰ったお茶の渋さを知っているからだ。

 思わずリリアの手つきをじっと見てしまう。

 全員分のお茶を入れ終わり、みんなで手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 リリアがキラキラした目で私を見てくる。プレッシャーを感じながら、恐る恐るカップに口を付ける。


「ほぇ……美味しい……美味しいよ、リリア!」


 リリアはニッコリ笑った。


「ベルタさんに教えていただいて、こっそり練習してたんです。上手く出来て良かったです」


 なんと言ういじらしさ。

 嬉しくて、何杯もお茶のおかわりをした私のお腹はちゃぽちゃぽ音をたて、フーゴ特製レモンのレアチーズケーキをワンピースしか食べられなかった……。

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