パンが激安な理由
今日はヴィムとレオナルドとリリアを連れて、教会にやって来た。
寄付と孤児達の様子を見ることが名目だけど、ずっと三人が神父様のことを気にしていたから、連れて来て見たんだ。私も神父様の様子は気になってたしね。
解呪の時にリリアにビンタ、レオナルドに蹴り、ヴィムに投げ飛ばされた哀れな神父様……顔のアザは消えたかな。
「あーーっ! お姉ちゃん達、教会に来たの?」
まだ教会の敷地に入る前から、子供達が走って来た。わらわらと五人の子供に囲まれる。
「どこから来たの?」
「神父様に会いに来たの?」
「一緒に遊ぼうよ」
同じ年頃のレオナルドがいるからか、フレンドリーだ。
レオナルドは明らかに戸惑って困り顔だった。普段、子供と絡むことが少ないからかな。家にはルッツがいるけど、仕事の持ち場が違うから、あまり一緒にいないし。今度二人を一緒に連れ出してみようかな。
私も子供達がグイグイ来るのは少し苦手。だってパワーがスゴすぎるんだもの。早く解放されたい。シスターローゼリア来ないかな。
「ちょっと君達。私達は神父様に用があって来たの。中にいるかな」
「はぁい」
「こっちこっち」
素直に案内を始めた子供達にホッとした。しつこくされたらどうしようと思っていたから。まぁ前回来た時と同じく、教会の中に入るだけなんだけど。
中に入ると、すぐシスターローゼリアがやって来た。
「ほらほら、もう休憩時間は終わりです。シスターマーガレットが待っていますよ」
「はぁい」
「お姉ちゃん達、またね」
シスターローゼリアの一言で、子供達は素直に教会の奥に戻って行った。素直だな。
「あの、あの子達が孤児なんですよね」
「そうです。子供達にはシスターマーガレットが読み書きと計算を教えているのです。ここを出ても仕事に困らないように、最低限の教養を身につけて欲しいと願っています」
「なるほど、大事なことです」
リリアとレオナルドは商家の出身というだけあって、読み書き計算はしっかり出来ている。だけど、ルッツはどちらも出来なかった。やはり平民の中でも、農民の教育は行き届いていないのかもしれない。農業こそ頭脳が必要だと思うんだけどな。
孤児でも読み書き計算が出来るなら、街での仕事探しに有利に働くだろう。
「後で少しだけ子供達の様子を見に行ってもいいですか?」
「はい。もちろんです。前回、イシカワ様に寄付をいただいたので、勉強用の紙と鉛筆を購入出来ました。本当にありがとうございます」
「いえいえ、少しでも役にたてて良かったです」
寄付金を子供達の為にちゃんと使ってくれているようだ。じゃあ今回、寄付用に持って来た物も役にたつかな。
「ヴィム、渡して」
ヴィムが大きな包みをシスターローゼリアに渡そうとして、近くのテーブルに置いた。
「重いので、こちらに失礼します」
「こちらは……何でしょうか」
ヴィムが包みをほどくと、シスターローゼリアは目を見開いた。
「まぁ! これは本! それもこんなにたくさん!」
「適当に見繕って来たんですけど、子供達が字を学んでいるならちょうど良かったです」
娯楽用にと思って、簡単な絵本から、物語を中心に二十冊。子供が好きそうなドラゴンや勇者の出てくる冒険物語、お姫様や王子様の物語など定番の物から、世界の植物、珍しい動物、などの図鑑系まで、幅広いジャンルを選んだ。
実際に購入してみて知ったけど、本は高い。薄い絵本一冊で5000ペリンもした。精巧な絵が描かれた植物図鑑なんて50万ペリンもしたから驚いた。これじゃあ平民には手を出せないよね。でも私には買える!
どんどん教会に本を寄付して、最終的に教会が図書館みたいになれば、街の人も集まるし、寄付金だって集まるんじゃないかな。文字を読めなくても、図鑑とかなら楽しめるかもしれないし、文字に興味が出てくるかもしれない。
寄付本がたまって来たら、神父様に提案してみよう。
シスターローゼリアは、拐われた姫を王子様が救い出す王道物語をキラキラした目で見ている。こういうのが好きだなんて意外だな。次は貴族令嬢が平民の使用人と駆け落ちする物語をプレゼントしよう。
「おや、ようこそいらっしゃいました」
神父様が入って来ると、ヴィムとリリアとレオナルドは揃って姿勢を正した。
ニコニコ穏やかな笑顔の神父様の顔は、もうアザは消えている。良かった……。
「こんにちは。その節はお世話になりました」
「いえいえ、私も仕事ですので。三人とも元気そうで良かった。皆さん少しふっくらしましたね。
今日はどうしました?」
「今日は本の寄付と、三人がどうしても神父様に謝罪したいって言うので……」
チラと三人を見ると、ヴィムが一歩前に出た。
スッと背筋を伸ばして胸を張る……こういう仕草がヴィムは自然に出来る。食事の仕方も綺麗だし、お茶を飲む時のカップの持ち方が、何だかこう……洗練されてます感がある。身分のある環境で育ったのかもしれない。
「先日はありがとうございました。そして……ケガを負わせてしまい、申し訳なく思っています」
謝罪の言葉はごく普通なのに、姿勢が美しいと頭を下げる仕草も様になる。謝罪しているのに美しいとは、けしからんなぁ全く。
リリアとレオナルドもヴィムに続いて頭を下げた。
「「神父様、ごめんなさい」」
この二人は安定の可愛らしさだ。癒されるな。
神父様だって最初より更にニッコリだ。
「三人とも、頭を上げて下さい。もう痛みもアザもなくなりましたし、あの解呪のおかげで、教会の窓や扉を直すことが出来ました。むしろお礼を言いたいくらいですよ」
神父様はそう言うけど、三人の表情は晴れない。
まぁね。気にするなって言われた瞬間「はい気にしません」と本心で言う人はなかなかいないよね。
呪いって本当に迷惑だ。
呪われて当然……っていう人柄ならともかく、少なくとも私にはヴィムもリリアもレオナルドもそんな風には思わなかったし。何となく避けてきたけど、一度三人に呪いについて聞き取り調査をした方がいいな。
「……マイカ」
ヴィムが眉間にシワを寄せて私を呼ぶから、思わず身構えてしまう。真剣な顔して……私何かしたっけ?
「今後、教会で解呪が行われる時は、神父様の護衛に来てもいいか」
おお! ヴィムが自主的に何かしたいっていうの、初めてだね!
神父様が解呪の時にケガをしないように……ってことだね。
「それはもちろん構わないよ。ただ……」
そもそも解呪なんてなかなかない事だと思う。高額だし、前回神父様も言ってたけど、リスクもあるみたいだし。
それに……。
「暴れるのが普通なら、最初から縛ったりして、動きを制限したらいいんじゃないかな……」
「「「……あ!」」」
ヴィムと神父とシスターローゼリアの声が重なった。
前からこっそり思っていたんだけどね……言ったら神父様の頑張りが可哀想な気がして言えなかったんだよ。
三人ともこの反応だと、本当に考えつかなかったみたいだ。全国の教会ってば何してるんだ。ぶつぶつぶつ。
年齢が小さい子供達は、シスターマーガレット先生と読み書きの勉強中。邪魔したらいけないと思って、こっそり見学。
簡単な読み書き計算をマスターした子供は、畑仕事中だと言うので、シスターローゼリアに連れられてガッツリ見学に来た。
「ここが畑です」
「おお! なかなか立派ですね」
学校のプールくらいの広さに、半分が野菜、もう半分のスペースに小麦が植えられている。数人の子供達が野菜の収穫をしていた。
大根程の大きさのズッキーニと、異常に長いいんげん豆が豊作のようだ。
「手前が数種類の野菜を植えています。もう少しすれば、葉野菜も収穫出来そうですね。
ここで育てた野菜は、子供達や私達の食事に使われます」
「広いから畑仕事も大変そうですね。野菜だけじゃなく、小麦畑もありますし」
「正直、手がまわらないので、畑の半分は小麦畑になっています。
小麦は……何も手を加えなくても勝手に育ちますからね。
本当は野菜の収穫量を増やして、販売出来たらいいのですが……」
「え? 勝手に育つって、小麦が?」
「はい? そうですね。小麦ですからね」
「…………そうですか」
どうやらこの世界の小麦は相当手間要らずのスーパー植物らしい。勝手に育つって、そんな雑草じゃああるまいし……。
地球の小麦農家が知ったら、きっと愕然とするよ。地球の小麦は小麦農家さんの熱いパッションで、手間隙かけて美味しい小麦になるって言うのに。
これはたぶん、あの神様がヤラかした類いだな。
パンがやたらと安い理由が分かった。小麦はいつでもどこでも大豊作なんだ。
教会でパンを作って売るのは、小麦が簡単に手に入るからか。でもこれじゃあいくらパンを作っても、収入源にならないだろうな。
フーゴは小麦粉でパスタをよく作っている。うちにパスタマシーンがあったから、自家製生パスタはフーゴお手製だ。モチモチ歯切れよくとても美味しくて、私も大好きだ。
ここの小麦粉の種類は分からないけど、デュラムセモリナ粉じゃなくても十分美味しいパスタだった。
生パスタはパンより値段が高いとフーゴも言っていたし、次の寄付はパスタマシーンにしてみようかな。




