衝動買いです
街の東側は大きな温泉場があり、それを中心に石畳にそって左右に屋台がびっしり並んでいた。
食品も、衣料品も、雑貨店も、本当に何でも揃っていそうだ。
一つ一つ覗いて見たいけど、まずは朝ごはんを食べたい。何しろここに来るまで40分くらいかかった。
「駄目だぁ~~。お腹が減って力がでないぃ~~」
いい匂いにつられて、ふらふら~~っと入ったお店は、団子のようなものを売っているお店だ。
大きな鍋でたくさんの丸い物体を揚げている。香ばしい良い匂いがする。
店の前の看板に『いもだんご』と書いてある。読んで字のごとく、芋の団子らしい。分かりやすくていいな。私の知っている芋と同じかは知らないけど。
「いらっしゃい。お嬢さん。買うかい?」
「はい! 二つお願いします」
「はいよ。熱いから気を付けなよ。少し冷めてから食べな。火傷するからね」
「ありがとう」
熱々の紙袋を受け取って、さっそく食べよう! 回りを見るとみんな食べながら歩いているので、私もそれに習って、熱々の芋団子にかぶり付いた。
「熱っ! はふっはふっ」
「うわっはは! だから言ったろ、お嬢さん」
芋団子の店主が笑いながら、呆れた目で見てくる。
いいえ、これが正解です!
私は熱い物は熱いうちに食べたいタイプだ。猫舌なんて可哀想。口の中が火傷したって、出来立て熱々が食べたい。私の一番好きな状態で食べれて幸せだ。
「はふっ。美味しい!」
少し甘いマッシュポテトを団子状にして、揚げてあるようだ。
外はカリッとしていて、ポテトの部分はもちもち食感。真ん中に甘辛い野菜と肉を合えた物が入っている。
ドイツの芋餅クヌーデルに少し似ている。あれは茹でて作るけど、揚げたらこんな感じかなぁ。
みごとに口の中を火傷したみたいだけど、後悔はない。
芋団子を食べながら屋台通りを歩いて行くと、奥に行くほど、朝市の雰囲気が変わって来た。
手前には飲食、食品関係が多かったけど、奥に進むと食べ物のお店はなくなり、雑貨、衣料品、土産物、植物……いろいろな種類の店が続く。
途中から少し店が離れて、屋台通りの終わりが見えてきた。
だんだん動物独特の匂いがしてくる。動物園のあの匂いだ。
芋団子は一つ手付かずで残っているけど、この匂いの中で食べる気分にならないな。袋の口を閉じて、しまっておこう。
「あ、鶏だ」
やがて見えた来たのは鶏だ。フィーネさんの家でみた夜行性の鶏と同じ種類だった。
夜行性だから今はとても大人しく、大半が眠っている。
ヤギもいるし、よく分からない動物もいた。
屋台通り最後は家畜のエリアらしい。
家畜屋の隣。
本当に一番最後にその店はあった。
看板も何もない、商品も並んでいない場所だった。
店主らしい男が一人椅子に座り、三人の人間が横並びに立っている。
一人は大人の男。残りの二人は子供の男女だ。三人とも汚い身なりで、髪も身体も薄汚れている。前髪が延び放題のため、三人の顔がよく見えない。
その姿を見て、私の身体は硬直したまま動けなくなった。
三人の手首には、手枷がつけられていた。
「これは……何……?」
「お嬢さん、田舎から来たんだろ」
家畜屋のおじさんが、私に話しかけてきた。
この光景を見ても誰も気に止めない。日常の事なのだろうか。
「あれは奴隷だ。
マルファンみたいな大きい街には奴隷商館があるんだ。借金、犯罪……奴隷にもいろいろいるが、朝市に連れて来てるってことは、『呪い持ち』だな」
「……呪い?」
「呪いをかけられたら、徐々に生命力を奪われるんだ」
家畜屋のおじさんは暇なようで、丁寧に教えてくれた。
呪い持ちは誰かに呪われた人物だ。呪われると行動の制限が多く、命じられたこと以外、身体の自由が効かないらしい。生きる人形と呼ばれている。
呪う方もリスクを伴い、自分の身体の一部を生け贄にしないといけない。
「呪われた身体は、五年もすれば弱って死ぬな。
その変わり、普通の奴隷よりかなり安い。あの男なら鉱山の労働力として買われるかもしれないが、子供はなぁ……どっちも娼館だろうな」
「……呪いは解けないんですか?」
「いや、教会で解ける。ただ金額がかなりかかるな。
呪い持ちを買って呪い解呪するくらいなら、普通に奴隷十人くらい買うほうが、ずっといいだろうな」
呪いを解かなければ、余命五年。呪いを解くには高額なお金が必要。使い捨てとして投げ売り価格で売られる……。なんだか納得出来ないな。
そもそも奴隷制度があることが、日本出身の私にはあり得ない。地球にも昔はあったみたいだけど、私には想像もつかない世界だ。
どんな人が奴隷になるのか、どんな人が呪いを受けるのかは分からないが、あんな子供が奴隷で、余命五年だなんて。
ん!? ちょっと待てよ。
私はお金をどんどん使わなければいけない立場で、さらに住み込みで使用人を探している……。
「私にぴったりじゃない!」
突然大声を出した私に、家畜屋のおじさんはビクリと肩を震わせた。
驚かせてごめんなさいね。いろいろ教えてくれてありがとうの気持ちを込めて、芋団子の残りをあげると喜んでくれた。
よし! この三人を買おう!
そして教会で呪いを解いて、家の使用人になってもらう。奴隷なので、裏切られない。
普通に使用人を雇うよりお金も使うし、信用も出来る。
よし! よし! よし!
「すいませぇ~~ん」
奴隷商の店主に声をかけると、椅子からたちあがって営業スマイルを浮かべた。
「いらっしゃいませ」
「そこの三人、買います」
「は? ……はい、はい、はい! 毎度ありがとうございます!」
店主は一瞬ぽかんとした顔して、またすぐに営業スマイルに戻った。
揉み手で笑顔は気持ち悪いから辞めて欲しい。
「お客様は運がよろしいですねぇ。『呪い持ち』はなかなか入荷がないんですよ。それも三人も一度になんて、なかなかありませんよ。価格はお安いですが、まだ四年以上は働けますからねぇ。お得ですよ」
さすが商売人で、あれよあれよと言う間に書類を準備して、サインを求められた。
すごいな。私が買うと言ってから5分くらいしかたってないよ。
よほど『呪い持ち』の奴隷を早く売りたいのかな。
余命五年と言われているなら、早く売らないとどんどん価値が下がるからね。
私はすぐに呪いを解くつもりだけど。
ああ、サインを書かなくては……。でも書けません。覚えていません。まだこの世界の文字で名前書いたの五回だし、それも真似して書いただけだしね。
「私、他国出身なので、この国の文字は書けないんです。読めはするんですけどね」
思わず読めることを付け足したのは、識字率の高い日本出身としてのプライドなのもしれない。
この世界の識字率は知らないけど。
私が言い訳めいたことを考えている間、店主は気にした様子もなかった。
「では身分証をお願いします」
身分証を渡すと、手のひらサイズの黒い箱にかざす。そのサイズの箱、初めて見たよ! 謎の黒い箱にもバリエーションがあるのか……ますます気になるな。
「身分証をお返しします。
マイカ・イシカワ様ですね。
ここでの手続きは以上になりますので、役所に向かいましょう。役所で追加の手続きをして、お支払いをして、完了となります」
「あ、じゃあ役所に集合でいいですか? まだ朝市で買いたい物はあるので」
「はい。ただ、本日中に役所に来ていただかないと、契約違反となって罰金が発生してしまうので、お気をつけ下さい」
「大丈夫です。遅くなりません」
ドタキャンが出来ないシステムになっているようだ。本当は一緒に役所に行く方が、迷わないで良かったのだけど、衣料品店に寄らないとね。三人の身なりを整えないと屋敷には入れたくないな。
契約が終わったら公衆浴場に行こうか。汚れた奴隷でも入れるか聞いてみなくてはいけないな。公衆浴場は役所の途中だったはずなので、後で寄って聞いて見よう。




