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あかだま相談所怪奇譚  作者: もふやまもこ
第一章 椿と狐と相談所
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異端者・斎藤京介とこっくりさん⑥

「走れ!」


叫んだ声の主が がっ と僕の手を掴んで走り出した。そのまま引き戸をこじ開け廊下を駆け抜ける。

その瞬間固まっていた体が緩み、僕もつんのめるようにして足を動かした。後ろを振り返ると何も居ない、ように見えるが妙に悪寒がする。


まだいるのか、あの得体の知れない何かが。


ぞくり、と胃が震える感覚。それを見透かしたように、手を引っ張っている彼が叫ぶ。


「手ぇ放すなよさいとーくん。これ以上憑かれたらどーすんだ!」


「え……?」


これ以上?意味が分からない。それになぜ僕の名前を知っているんだろう。

救世主の後ろ姿はかなり僕より小さい。中学生と見間違いそうだけど僕と同じ制服を着ている。その首筋には包帯が巻いて……あ。


彼は、図書室にいたあの死んだ目の少年だ。


僕が彼の正体に驚いている間にも、当の本人は僕の手を引っ張り走りながら誰かに電話をかけていた。どうやら相手は出なかったらしく、小さく舌打ちが漏れる。


「あぁぁあもう、あんの狐どこにいやがんだよ!

ばーかばーか! おマヌケ! 残念な美人!」


「えっと……助けてくれてあり」


「どういたしましていい奴だなあんたでも今この状況かなりやばいから油断するな、よっと!」


早口言葉のようなセリフを噛まずに言った彼はそのまま実験室のある廊下の角に素早く僕を押し込み、振り向きざま何かをカバンから取り出した。迫り来る影にそれを向ける。



ぱちっ!



いわゆるゴム鉄砲。小学生男子がよく遊ぶアレである。


しかしその先には何か紙のようなものが(くく)りつけてあり、それが空中で じゅっ と焦げた。何かが怯んだ気配がする。それを見届けた彼はもう一度僕の手を掴み逃走を再開した。どうやらものすごく怪奇現象に慣れているらしい。



「…………もしかして椿に触ったらなんとか、っていう意味分かったりします?」


「もうそんな時間ねえよ、くっそぉ今日に限って凍也(とーや)閻魔(えんま)のヤローもいねぇし……」


この人なら箱山さんのあの言葉の意味も分かるんじゃないか?と思って言ってみたものの、全く理解出来ない。それどころか状況は分からなくなるばかりだ。


「アレしかないか……」


彼は小さく呟くと、目の前に並ぶ教室の一つに駆け込んだ。何故かドアを閉めようとした僕を制し、カバンから財布を取りだす。


「その紙、くれ」


「え? これですか?」


成り行きで右手に持ったままだったこっくりさん用の紙。わけも分からず差し出すと、「さんきゅ」と奪い取られる。そのまま教室の前から数えて3番目、1番窓側の席まで手を引かれた。


紙を机に置き、そしておもむろに左手を自身の口元まで持っていく彼。


「ううう、痛いのはやだけど……」


「え」


僕は彼が半開きになった口に指を挟むのを呆然と見つめた。


ガチン。


ぶわり と彼の左手人差し指があっという間に赤く滲んだ。赤い液体が白い手を染める。


「っっっ()ぇ〜……」


「何してるんですか!?」


「んー?」


その瞬間、またもや不気味な悪寒に襲われる。

気配はもう教室に入っている。逃げ場はない。

耳鳴りがするほど冷たく恐ろしい、喉を押さえ込まれたような息の詰まる苦しさに、また支配される…………!




「餌の準備!」




対して目の前の少年は、不敵な笑みで弾んだ一言。

血に塗れた人差し指で歪に描かれた鳥居をじっとりなぞる。





宝玉花炎紅椿(ホウギョクカエンノクレナイツバキ)サマ、西の扉からお入りくださぁい!」




静まる教室。




…………。




「あ、あれ?」

「し、失敗……ですか!?」


やっちまったという顔でツーっと冷や汗をかく少年。

この訳の分からない状況で希望が見えたと思ったのに、待っていたのは絶望の四面楚歌だなんて。目の前が暗くなる。神様、僕がいったい何をした。




「……ぅ…………ぁ…………」




……うっすらと声が聞こえる。それを察知した途端、少年はパッと顔を輝かせ、恐ろしい気配が動揺したように震えたのが分かった。



「……ぁぁぁあああああ」


シュゥゥゥゥウウウウウウウ!


が、廊下から聞こえるのは、何かが高速で引きずられているような妙にシュールで場違いな音。


「あっ思ってた神降(かみおろし)の方法と違えや……」

「いややったこと無かったんですか!?」

「てへぺろ」


少年がふざけている間にも「それ」は確実に近づいてきている。


……瞬速で。



「イヤァァァァァァァァァァァ!?」

「うわぁぁぁぁぁああああああ!?」

「ぎゃっふぇぇぇえええええい!?」


どしゃぁあああん!!!



見えない力に引き寄せられているように机や椅子をなぎ倒しながら僕ら、いや僕らが使った紙に向かってぶつかってくる「それ」。思いっきりぶつかられて「ごふっ」「ぐえっ」と仲良く声をだす僕ら。


「がっ!?」


僕の頭はぶつかられた衝撃で窓にがつんと激突した。


後頭部に走る激痛。

目の前でチカチカと散る星々。


そして、暗くなっていく視界。



「………………はぁ……」



無くなる意識の中、聞こえたのは小さなため息一つ。

嗅ぎとったのはふわりと漂う花の香り。



そして、最後に見えたものは、





砂埃と夕陽に染まってより強く光る、橙色のうつくしくも恐ろしい瞳だった。

ギャグとホラーがごっちゃごちゃですな。カオス。

次回一章簡潔、かもです。

京介よ、生きろ。

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