異端者・斎藤京介とこっくりさん④
「お!京介やっと帰ってきた〜」
「おかえり京介きゅん♡ やっぱりイケメンは目に良いわー」
「きゅんって何? ただいま」
こんな感じで、僕は普通に学校生活を楽しんでいる。そこそこ愛想も良く我ながら顔も悪くないので、僕を含めて四人のいわゆる『一軍』という立場のグループに属している。
ノリで生きている連中だから話は非常に中身がない。だけどこういう所に身を置いていた方が楽だしやりやすい。
「ねえねえねえキョースケ君、こっくりさんやらない?」
「いきなりだね天海……どうして?」
「京介は知らねえと思うけど、この町ってソーユー都市伝説とか多いんだ。ま、俺は見たことねぇけどな」
都市伝説、か。ふと図書室にいた少年の暗い瞳を思い出す。
……『図書室の黒目の少年』とか。
……いやいや流石に違う、よね?
「もし会ったら、俺らでばーっとゴーストバスターズしちまおうぜ!」
ぱこん!
そう言ったリョーヘイの頭をアヤカの丸めた教科書が襲った。
「もう!男子はこれだから乱暴でやだなぁ…あのね、こっくりさんで呼び出される精霊?が、恋の神様なんだって〜!」
「乱暴なのはどっちだよ……」
教科書に襲われたリョーヘイのぼやきを華麗に無視し、アヤカは顎をひいて僕を見つめた。
「へえ、アヤカ好きな人いるの?」
「うん…いるよ?」
可愛らしく小首を傾げて上目使いに僕を見る。僕も恋愛経験が無いわけじゃないから意味は分かるが、今はそういうことに飽き飽きしている。適当に撒こう。
「そっか。アヤカは可愛いからきっと叶うよ」
とにこり。
「京介ぇ! この鈍感野郎!」
「さっすがキョースケ君! クールでやっさしいと思ってたらまさかの天然系イケメン! 属性多いね〜〜」
鈍感野郎はどっちだよ、と言いたくなるリョーヘイとイケメン鑑賞に目がない天海。そして僕に恋しているらしいアヤカ。悲しいことにこの三人がイツメンになりそうだ。
ふぅ、と自分の席に戻ろうとした時。
「……さ、斎藤くん」
「えっと……箱山さん? どうしたの?」
箱山さんは、自己紹介の時から何故か僕を怖がっているクラスメイトだ。まさか彼女から話しかけてくるなんて。
「こっくりさん、やるの?」
「うん、やるけど……?? あ! 箱山さんも入る?」
「いやっ! あ、あの……そうじゃなくて。」
なんて言えばいいのか、と視線をうろうろさせている。こっちに目は合わせてくれないようだ。
「あのね。この町、本当に出るんです。幽霊とか、妖怪とか、都市伝説とかそういうの。」
「……」
「だから、本当に、」
「そっか! なら楽しみだな!」
「え」
「一回もそういうもの見たこと無かったし。」
「……でも、」
「心配してくれてありがとう。でも、本当に酷い事態になったら逃げるから。ね?」
こっくりさんは多分成功しないだろう。何故彼女が恐怖対象(理由は分からないけど)の僕を心配しているのは分からないけど、とりあえずフォローはしておこう。
「………………」
「あ、もう授業だ! 箱山さんも席につこう?」
「……本当に、」
俯いていた彼女が きっ と顔を上げた。
栗色の胸までの長さのツインテールがふわっと揺れる。緊張しているらしくぎゅっと眉を寄せているが、なかなか可愛い顔立ちだ。
右になきぼくろのある、ぱっつんの前髪から覗く目が、やっと僕の目と合った。
「本当に、やばいと思ったら……この町にある椿を触ってください。」
「…………えっと、」
椿。ツバキ科ツバキ属。普通は冬から春に咲く花だけど、この町では不思議なことに特産品らしく年中咲いていると聞いた。雪に映える鮮やかな紅色がうつくしいが、花ごと地面に落ちる姿がどこか不気味な、あの椿。
予想もしていなかった発言に目を瞬く。
そう思っていたのが伝わったのか、箱山さんは慌てて弁明した。
「あの、その、変な奴って思うかもしれないけどお願いします、覚えておいて……」
「……分かった! 箱山さん心配症だなあ。」
でもありがとね、とやや引きつった顔で笑いかけた。なぜ椿。先生を呼ぶでもなく用務員さんを呼ぶでもなく、椿。謎だ。箱山さんはやはりちょっとおかしいんだと思う。
さて、放課後まであと二時間。
怪奇現象起こそうとしたら流石に長すぎたよ……
前置き長くてすみません、どうかお付き合いください