春川千尋。
久々の投稿です。
「みんな、宜しく!」
私が知ってる君が──君がいつも見せていたあの暗い顔が──嘘だとでも言うように明るい表情を見せてクラスメイトに挨拶をする君。
君の挨拶に笑顔で応えるクラスメイト達。
何故か懐かしそうに君を見てる朋花。
何がどうなっているのか分からないままに、居ないはずの君がいる私の二度目の中学校生活が始まった。
「じゃあ千尋くんの紹介も終わったところで、廊下に並んでね。これから始業式だから」
担任の一声で皆一斉に廊下に並び始める。
私の頭の中はまだ混乱していてぐちゃぐちゃだ。
私は数年後に死んでしまう君とまた会うために祠で願い時を遡ってきた筈なのだ。
なのに遡った先は4年前。
その上、何故なのかここには君がいる。私が生きてきた本当の中学校生活には君は居なかったはずなのに。
何がどうなっているのだろうか。
考えても考えても答えの見つからない疑問を繰り返しては自問自答をしている内に気がつけば始業式も終わり、初日の課程は終わって下校時刻になっていた。
教室は空っぽで誰もいない。
私は無意識に君の席を探して向かい、そしてそこに腰掛けた。
今日一日君が使っただけの机。だけれど、それは一目で君が使っていた物だと分かる程に机の表面は落書きだらけだった。
新しい環境で過ごすことへの期待に満ち溢れた絵。あの綺麗な桜への感動を忘れまいとする満開の桜を写した絵。
その他にも絵だけでなく、感じたこと、思いついたことなど色んなことが机に書き記されていた。
性格は正反対に思えたけど、こういう所は何も変わらないな、とそう思った。
自然と笑顔が零れ頬が赤く染まる。
彼の机に伏せ頬を触れさせながら呟いた。
「私、やっぱり千尋くんのことが大好きだ」
高校生として出会った君。
中学生として出会った君。
確かに違うところはあるけれど私が知っている″春川千尋″だ。
私が大好きな″春川千尋″だ。
そう考えて、今日一日考えていた事はどうでも良くなった。
突然中学生に戻っていたことも、君が同じ中学校に居ることも。
君がいるならそれでいいや。
君とまた一緒に過ごすことが出来るのならそれでいいや。
君のいる二度目の中学校生活を頑張ろう、っと伏せていた顔をバッと勢いよく挙げた時だった。
「花音、何してんの……」
既に下校したと思っていた朋花が私と私が座っている席を見比べながらこちらを見ていた。
とてもドン引いたような顔で。
なんて言い訳をしようか。
この時の朋花は当然の如く高校生の私と千尋くんが恋人になるなんて知らないわけだし、傍から見れば今日出会ったばかりの転校生の席に座ってる時点でおかしいし、私今すごいニヤけたような変な表情になってる気がする。
これじゃまるで変な人みたいじゃないか。
訝しげにこちらを見る朋花の目は少しキツめに見えるけど怒っているわけではない優しい時の目だけど、私の事を仕方のない子を見る目で見ている気がする。
その目はやめて欲しい。
私が少しばかり頬を膨らませてみると彼女の目は呆れたようなものに変わり、その目に対し更に膨れてみせると最後には声を出して笑いだした。
私は朋花とのこういう掛け合いが好きだった、と今になって思い出した。
前回は朋花を蔑ろにしてしまって全てを台無しにしたのだ。
その結果今があるのだから、彼だけじゃなく朋花とも上手くやらないと。
そう胸に秘めて、私は彼女に笑顔で応えた。
「まだ残ってたんだね、朋花」
そういえば、朋花はどうしてこんな時間まで学校に残っているんだろう。
今更になって浮かんだ疑問の答え彼女に問うてみる。
「先生の手伝いとか、クラスの事とか色々やっててね」
「ふーん、そういう所はこの時から変わらないよね」
「なんか言った?」
「何でもなーい!」
昔っから面倒見が良かったり、すぐに誰かを手伝おうとしていた彼女だった。
高校生の時だって寝坊助な私を毎日のように待っていてくれたり時には迎えにも来てくれていたかな。お母さんが居ない時はお母さんの代わりに起こしてくれたりもしてたっけ……。
そういう面倒見のいい所は中学生でも健在らしい。
朋花が変わってなくて安心だった。
「それより、花音こそ何をしてたのよ。今日一日ボーッとしてたと思ったら今度はそれって」
「これにはふかーい理由があってだね」
「どんな理由よ。花音、今日ちょっと変よ」
朋花の問いかけにロクな言い訳も出てこず更には変だと言われてしまった。
やっぱり私は変な人なのだろうか。
絶対違うと思う。
「ちょっと考え事してただけだよ。進路の事とか、勉強の事とか。ほら、私成績あまり良くないでしょ?そろそろ高校とかも決めなきゃだし……」
確か中学生時代の成績は中の下くらいだったはず。だからこそ偏差値が低めだった峰北を選んだはずだ。
選んだはずなのに受験前に一生懸命勉強した上で合格点ギリギリの点数だったのだ。
私の中学生当時の成績はよほど酷かったのだろう。
「花音がそんな事をあんなにボーッと考え込むなんて。明日は雪でも降るのかな、なんて。確かに成績は良くないけどまだ私達二年生が始まったばかりだよ?気が早くない?」
「そうかな?だって私、もう後悔はしたくないから。その為にも勉強はしなきゃいけないかもしれなくて」
「そっか。花音が本気で考えてることなら私も応援するよ。頑張れ花音」
「ありがと、朋花」
「うんうん」
未来を壊さないために、私は絶対に峰北に行かなきゃいけない。ギリギリで入れた程度の私じゃダメだから。
「それはともかくとして、いつまでその席に居るつもり?」
ニヤニヤ顔の朋花に指摘されて、ずっと千尋くんの席に座ったまま話をしていたことを、今になって思い出した。
「……あっ」
「もう、このおませさんめー」
慌てて椅子から飛び上がる私にそんな私を見てクスッと笑う朋花。
何気ないそんな穏やかな会話だった。
それも朋花の次の一言で崩れる。
「まさか《ちぃ》がこの学校に転校してくるなんてね」
「えっ……?《ちぃ》って誰のことを言ってるの」
「え?誰って今日転校してきた春川千尋でしょ。ほら、小学校も一緒で昔よく一緒に遊んだじゃん?」
朋花が何を言っているのか分からない。
千尋くんが実は幼馴染みだった……?
「そんなの知らない……」
「花音、憶えてないの?」
私の中にそんな記憶は無い。
私が初めて彼とあったのは確かに高校生のあの日だ。
強いていえば。高校時代の話を取っ払って考えるならば今日、初めてあったはずだ。
「ほら、よく思い出してみなよ。一緒に花火大会に行ったりもしたじゃない?修学旅行だって私達同じ班で一緒に観光地巡って……」
「そんなの私知らない!」
3人の思い出を語る朋花。その声を遮って私は叫んだ。
私にそんな記憶は無いのだ。
私は叫んだ後、朋花の顔を見た。
以前に何度も繰り返し見た朋花の驚き、怒りや悲しみを含んだような表情だった。
『なんで、憶えてないの』
そしてまた朋花の『声』が聞こえた。
今日、初めて訪れた学校で緊張しながらもクラスメイトと何とか打ち解けた。
中には何故なのかとても気にかけてくれた女子生徒もいて、とても面倒見が良さそうな人だった。学級委員長とかが向いていそうだなって思った。
その生徒は始業式が終わってからずっと一人の女子生徒を気遣っているようにも見えた。
多分友達か何かなのだろう。
「久々に三人で話をしよう?」
そう声を掛けられた。今日初めて会ったのに「久々に」という意味は分からなかったが、この子と話はしたいと思っていたので特に考えずに返事をした。もう一人はこの子が気にかけていた女子生徒だろうか。
早速、話が出来るクラスメイトが出来るのならとてもありがたい。
そう思った。
教室の前で待機するように言われてから10分近くが過ぎたと思う。
突然、聞こえてきた「私は知らない!」という声に驚く。
何か揉めたのだろうか。
僕は中の様子が気になって覗いて見た。
頭を抱えて「知らない、知らない」としゃがみ込む女子生徒とそんな彼女を見て暗い顔をしたあの子。
「あの、どうかしたんですか?」
僕は面倒見のいい彼女にそう声を掛ける。
僕の言を聞き、彼女はキツい目をコチラに向け聞いてきた。
「あんたはこの子のことを憶えてないのか」と。
だから僕は正直に答えた。
「はい、名前もまだ聞いてないくらいで……。彼女が良ければ仲良くなりたいですけど」と。




