私の願いと全ての始まり
初めて貴方と出会った日。
家に帰ってからも気分が落ち着かず、どうすれば貴方を笑顔に出来るか。
そんな事ばかりを考えていた。
その日は特に何も思いつかずに眠りにつく。
数日が過ぎたある日。
その日は雨だった。
自転車通学をしていた私は雨の日には電車で通うことに決めている。
だから乗った電車の中。
そこで君を見た。
楽しげに話している他校の女子高生三人組。席が空いてなかったのか二人は座席に座り、一人は立って話していた。
そしてその女子達の隣で気まずそうに座る君。
まだ学校までは距離がある。
あと五つは駅を越えないと学校には辿り着かない。
けれど、君は一旦電車を下車した。
その後、こっそりと隣の車両に乗り込んだ君を見て私は気づく。
「ああ、席を譲るために降りるふりをしたんだ」。
三人組の中で立って話していた女子高生が譲ってもらったことに気づいたみたい。
慌てて隣の車両に駆け込んで「席を譲ってくれてありがとうございます」と声を掛ける。
君は「あ、いえ」と恥ずかしそうに照れる。
また君の新しい一面を知れた。
君の優しさに気づけた。
それだけで今日が凄く幸せな一日になりそうな気がした。
学校の最寄り駅も近くなった頃、声を掛けたくなった。
「おはよう」
なんだか普通だ。
「いい朝だね」
今日は雨だ。
「昨日のドラマ見た?」
いやいや、なんか違う。
そこで思う。
君はどんなものが好きで何が得意なんだろう。今までどんな風に生活してきたのだろう。
どういう道にに進みたいのだろう。
私は君の事を何も知らない。
もっと君のことを知りたい。
結局声は掛けられないまま、高校の最寄り駅に到着した。
傘を差しながら高校へと一歩ずつ歩んでいく。
横目で君を追うばかりの私。
寂しそうに一人で歩く君。
いつか交われたら……。
そう思っても行動出来ない自分がいる。
あの日はどうしてあんなに破天荒になれたのだろうか。
あの日のように振る舞うにはどうしたらいいのだろうか。
そう。
まるであの日の私と今日の私は別人みたい。
もしかしたら今までもこれからも、一日一日を生きる私はそれぞれ別人なのかもしれない。
なんてそんなことを考えてしまう。
そんなことなんてあるわけないのにね。
気づけば花の散った《桜の花道》を通り過ぎて校舎へと入っていた。
学校指定の革靴を脱ぎ、赤い上靴に履き替える。
階段を数段上がり、廊下を数歩歩いて教室へ。
「おはよう、花音」
そう声を掛けてくれたのは朋花だ。
「うん、おはよう朋花」
少し笑顔を意識しながら挨拶を返した。
朋花相手ならこんなに簡単に言えるのにな……。
あの日から相も変わらず教室でも独りぼっちな君。
声を掛けたい。
なのに私の中の何かが躊躇ってしまう。
何故だろう。
暗い顔をして机に向かう君の姿になんだか苛立ちを覚えてしまう。
君を一人にするこの環境に、声を掛けてあげられない自分に……
結局何も出来ないままその日は終わり、帰宅していつもの様にご飯を食べ、お風呂に入る私。
お風呂で鏡越しに見えた私の全然明るくなんかない顔に辟易する。
どうしてあの日のように笑えないんだろう。
どうしてこんなにも辛いのだろう。
何も分からない自分がいる。
自分は何のために生まれてきたのだろうか。
どうして彼と出会ってしまったのだろうか。
悩む私はお風呂で逆上せてしまってヘトヘト。
オマケに意図せず涙まで込み上げてくる。
そんな時、脱衣所の扉が勢いよく開いた。
「こら!いつまで風呂に入ってるの!」
母だ。
なかなか風呂から上がらない私を心配したのだろう。
私は逆上せた頭で浴槽から出てそのままの足で脱衣所に。
私の顔を見て呆れたような顔を見せた母は私の顔を流れているものがお湯でも汗でもないことに気がついたらしい。
慌てて濡れたままの私に抱き着いて慰めてくれた。
私は母のその勢いに負けて全てを相談した。
いつもなら恥ずかしくて出来なかった相談も逆上せた頭の私には出来た。
「余計なことは何も考えずにその子に声を掛けてごらん。多分それがその子のために花音がしてあげられる唯一のこと。花音もそう気づいてるんでしょ?」
「……うん」
「だったらそうすればいいのよ。難しく考えなくてもね」
その母からの言葉は私の重かった気持ちを開放してくれた。
「あの子に。春川千尋くんに話し掛けてもいいんだって言ってもらえたみたいで嬉しかった。
そして私は決意した。
彼を一人になんかしない。
もうあんな暗い顔なんてさせてあげない。
「絶対に貴方を笑わせてあげるんだ」
たとえクラスの皆に相手にされなくても、たとえ貴方がこの現実を当たり前だと受け入れていても……。
たとえクラスの皆が貴方のことを忘れてしまったとしても。
私は、私だけは貴方を見ている。
私だけは貴方を憶えてる。
きっと忘れない。
「はあ。服は濡れちゃたし、私もお風呂に入ってこようかな」
「あ、その……ごめん……」
「ふふ、冗談よ。今日はもう寝なさい。風邪、引かないようにね」
「……うん」
濡らした原因であるところの私は謝ることしか出来なくて、そのまま二階にある自室へと向かった。
「明日は必ず君に声を掛けるんだ」
そう決意した私はその晩、幸せな悪夢を見た……気がする。
君と出会ったあの日から話が出来ずに一ヶ月が過ぎようとしていたらしい。
明日からゴールデンウィークが始まってしまう。
なんとも間が悪い。
まず朝に教室で「おはよう」とクラスメイトに声を掛け、本命の君にも声を掛けた。
君から返事を貰うことは出来なかったけど、声を掛けることが出来たのは大きな前進だと思う。
授業が終わり、皆が明日からのゴールデンウィークの計画に勤しむ中、急遽美化委員にお呼ばれした私は放課後に行われるゴールデンウィーク前の清掃のために準備をしていた。
放課後になり、寂しそうに帰っていく君と朋花を見送った私は担当となった自分の教室である《3-A》の清掃をする。
まずは机を教室の後ろ側に動かし箒で軽く掃く。床を拭いた後は同様に床を掃いて、机を教室の前側に動かして床を拭く。
そして机を元に戻して床掃除は終わり。
その時に私は君の机にされた落書きに気づいた。
その落書きが私が知っている、というか大好きなアニメのキャラクターでビックリ嬉しかったこと。君は絵が凄く上手いんだ、と気づけたこと。
とっても嬉しかった。
だから気づくことが出来なかったのかもしれない。
皆の机を軽く拭いて、ゴミ箱の中身をまとめたら清掃終了だ。
ゴミ箱の中には細かく千切られたルーズリーフやノートの切れカスでいっぱいだった。
先のことで少しテンションが高めな私は何も考えずにゴミ袋の口をキツく結び、教室から出て廃棄所に行くと、その場にゴミを捨てた。
美化委員長に清掃完了のお知らせをした後、スキップをしながら帰宅した。
母に今日の報告と今日発見した君の新たな一面をなんとなく話しながらご飯を食べる。
今年は4日間しかないゴールデンウィークだけどなんだか幸せな気分で休みを過ごせそうでとても安心する。
そう、そして自分がしてしまったことに気がついたのはゴールデンウィーク2日目のことだった。
私は朋花と出掛ける約束をして、近所のデパートに行った。
こうして朋花と過ごすのが久々に思える。実際は学校の中でもずっと二人でいるんだけど、あんまり気に出来てなかったからね……。
二人で出掛けて、お昼になる。
デパートの中に併設されてあるファミレスでご飯を食べた。
ご飯を食べている途中で急に朋花は真剣な顔で私の顔を見て話を始めた。
「ねえ、花音はさ。あの転校生のことが好きなの?」
「……!?」
突然の質問にビックリしてしまった。
好き?私が彼を……?
そうじゃない。私はあの人に笑って欲しいだけ。一人になって欲しくないだけ。
「ね、どうなの」
「そ、そんなじゃないよ……」
詰めてくる朋花。私は否定の言葉しか返せない。
「嘘。見てればわかるもの。一昨日だってずっとあいつのこと気にかけてたじゃん!」
「ち、違う。私はそんなんじゃない。ただ、彼に笑って欲しいだけ。彼の笑顔が見たい、暗い顔なんてして欲しくない。ただ、それだけ」
そう言った途端。
朋花の顔を見て彼女の機嫌が損ねたことに気がつく。
「なんで?なんでそこまで気にかけるの。あいつの何がいいの」
「なんでだろうね。私にも分からないよ。分からない。分からないけど何かしてあげなきゃって思うの」
「それが……ッ!」
噛み締めるようにして言葉を飲み込む朋花。
なんとなく言いたいことは分かってしまった。
『それが好きだってことじゃないの……』
頭に響いたその声に違和感を覚えながらも、私は続けてみせる。
「好きとかそういうのはよく分かんない。けど気になってるのは朋花の言う通り。私は彼のためなら何だってしたいし、彼が笑ってくれるなら何だってする。もう彼を独りぼっちになんてさせてあげないって決めたんだ」
それを聞いて凄く辛そうな顔をする朋花。
頭の中で『どうして、憶えていないの……』そんな声がした。
分からないよ。
私は何も分からない。
朋花は一度「トイレに行く」と席を外した後に戻ってきてさっぱりした顔で言った。
「なら、私も花音に協力してあげるよ。あいつを一人にしないためにね」
笑顔でそう言った朋花の顔は目は笑っていなかった。
朋花が色々と手段を考えてくれる。
「二人で教室を出れば気にしてあいつは着いてくるはずだから」「私があいつを罵ったあ後、何か励ますようなことを言ってあげて。そうすれば上手くいくはずだよ」
今度は笑顔でそう告げる朋花。
なんだかんだ言って彼のことをよく見ているんだな、と感心しつつ頷いた私。
『だって、最初はこうして出会ったんだから……』
ん?どういう事だろう。
と、その思考を遮るように朋花が声を掛けてきた。
「そういえばさ。あいつ絵を描くの好きだったじゃん?」
「そう!一昨日見たね、机の落書き凄い上手かったの!」
「机に落書き……?」
「え、うん」
不思議そうな顔をする朋花。
「あいついっつもノートに絵を描いてたんだけど、それに描かなかったってことは失くしたのかな」
それを聞いた途端、頭に浮かんだのはゴミ箱の中に散々になって捨てられていたノートの切れカスのことだった。
私は彼の大事なノートをゴミと思って廃棄してしまっていた。
「あ、あああああああああ……」
「え、ちょっ!花音!」
頭を抱え込んだ。
頭の中が後悔と負の感情で埋め尽くされていくのが分かる。
どうして捨ててしまったの。ちゃんと中身を確認すれば良かった。
「ちょっと、どうしたの花音。何かあったなら言って……」
優しそうにそう問いかけてくれた朋花。
私は朋花にゴミ箱に捨てられていた切れカスのことを話した。
「……は?それってあいつのノートを破り捨てた奴がいるってこと?誰がそんなことを……」
なんだか朋花がとても怒っているように見えてしまう。
深呼吸をして呼吸を整えた朋花は「別に花音が悪いわけじゃない。誰だか分かんないけど、絶対に許せない」とそう言って怒りを顕にする。
結局その日はそのまま解散。
家に帰り着いて布団にくるまった私は考える。
どうも、朋花と彼がただの転校生とそのクラスメイトに思えなくなってしまったからだ。
朋花から一方通行な彼への気持ちがあるように見えてしまった。
普段滅多に怒ることをしない彼女があんなに怒るほどに……。
もう一つ疑問はある。
突然頭の中に響くようになった声のことだ。
『それが好きだってことじゃないの……』
『どうして、憶えていないの……』
『だって、最初はこうして出会ったんだから……』
今日聞こえたこれらは多分朋花の声だった。
人の考えていることが分かる?
いやいや、そんな超能力者じゃあるまいし……
でもだとしたらなんなんだろう……
答えは出ないまま、私は眠りについた。
ゴールデンウィークも明けた登校日。
朋花と計画通りに行動し、見事に君と話をすることが出来た。
本当なら私が「君のこと知ってる」「君を見てる」。
そう伝えるだけのつもりだったんだけど。
私が好きな歌手《瀬良凪紗》さんがオープニング曲を担当したアニメ。私も凄く好きになったアニメを君も好きだと分かったことが嬉しかった。
あの瞬間のことを思って、君に伝えた言葉。
君はどう受け止めてくれたのだろう。
そうして、数日のうちに少しずつ話すようになった私と君。
私達は友達になれた。
それが嬉しくて、何かあるごとに千尋くんに声を掛けるようになっていた私。
楽しいこと、辛いこと。なんでも君と分かち合いたいとそう思ってしまう。
気づけば学校では殆どの時間を朋花か君と過ごすようになっていた。登校、授業、昼休み。放課後も君と帰る日が増えた。
一緒に帰った道も、一緒にいた場所も私にとっては特別な思い出になった。
初めて君が名前を呼んでくれた日のことだって決して忘れはしない。
こうして一緒にいられることが嬉しくて楽しい。私はそんなかけがえのないのない時を過ごした。
凄く幸せだった。
それは夏休みのある日のこと。
君から告白を受けた。
緊張しながら「……好きです。付き合って欲しい」とそう言った君。
私は凄く嬉しかった。
そう思えてもらえていることやそれを伝えてくれたこと。
なによりも私も同じ気持ちだったこと。
「うん、私も千尋くんが大好き……!」
君に抱き着きながらそう返事をしたことは今でも忘れない。
そうして君と恋人になった翌日のこと。
早速二人でデートをすることになった。「初めてのデートだから」と緊張して選んだ喫茶店。
私も君も緊張しながら慣れない珈琲を口に運んで笑いあったこと。
忘れない。
お互いのケーキを交換し合って食べたこと。
珈琲の味に慣れなくて二人で味の違う紅茶を買って飲み比べしたこと。
忘れられない。
喫茶店の中で片耳ずつイヤホンを付けて一緒に《瀬良凪紗》さんの曲を聴いたこと。
絶対に忘れない。
私は忘れちゃいけない事を沢山頭の中の大事な場所に仕舞い込んで、君と一緒に喫茶店を出た。
君がドアを押して私が出るまで待っててくれる。
ちょっとした気遣いが凄く嬉しかった。
まさかそれが全ての終わりで始まりとは思いもせずに。
私達が喫茶店を出た瞬間に喫茶店に向かって大型バスが突っ込んできた。
君は慌てて私を射程圏外に突き飛ばし、達成感に溢れたような勝ち誇った顔でそのまま轢かれた。
潰されたと言ってもいいかもしれない。
あの時の君の勝ち誇ったような顔は今後も一切忘れようのないものになってしまった。
病院に運ばれたものの、既に死んでしまっていた君の身体は酷い有様だった。ベッドに横たわり、うんともすんとも言わなくなった君を見て涙が零れるだけで何も感じられない私。
慌てて病院に駆けつけてきた朋花は私の身代わりになって死んでしまった彼を見た後、私を抱き込むようにして大泣きした。
その後、何にも手がつかないままに高校を卒業する季節になった。
私は内部進学をすることに決め、特に勉強もしなかった。
勉強なんてしても頭に何も入ってこなかったのだ。
もしかしたらそれは今後もそうかもしれない。
けれど、この状態で就職なんて出来るはずもない。
だから私は大学進学後も殆ど学校に通わずに家に引きこもるようになっていた。
それにあの満開の桜を見るのがとても辛く思えたから。
桜を見れば君のことを思い出す。
君といた幸せな日々のことを思い出す。
ある日のこと。
ネットの記事の一節に奇妙なものを見つけた。
『何でも願いが叶う祠』というものがあるらしい。
多分一年前の私なら、「こんなの信じるわけない」と流してしまえただろう。
ただ、今の私は藁にも縋りたい思いで生きていた。
だからその噂の祠のことが気になった。
母には「少し落ち着いたから学校に行ってくる。ごめんけど、お金をください」と嘘を吐いた。
泣きながら喜んでくれた母に申し訳なさでいっぱいだった。
私は新幹線を使って二つほど県を跨いだ先にあるその祠のある神社に向かう。
私と同じようにネットの記事に充てられたのか、その神社は観光地の如く賑わっていた。
神社の鳥居で写真を撮る者、境内で花見をする者。
そのような人達を横目に私は祠へと向かう。
祠の周辺や祠の中には人は一人も居なかった。
ただ、怪しげな木版だけが異様な存在感を漂わせていた。
恐る恐る近づく私。
木版には『紺碧なる石に触れしもの、──残り───を捧げ、───り、願いを叶え、──を賜わらん』と書かれていた。
所々掠れて読めないが、ここで間違いないらしい。
暗く、鍾乳洞のように綺麗な祠。
こんな噂が立っていなくても観光地として栄えていてもおかしくなさそうな場所だった。
いや、私が知らないだけで観光地としても栄えていたのかもしれない。
祠の奥に進んで行くと、大きな紺碧の石があった。
これが『紺碧なる石』なのだろう。
一切の迷いも見せず、石に触れてみる。
すると突然、石が光り出す。
光に目が眩んだ私は目を瞑る。
目を開くとまるで光の中を浮遊しているような感覚に囚われた。
「お主は何を望んで時をやり直す?」
「え?」
目の前に突然現れた不思議な老人。
その老人からの問いの意味が分からずに戸惑ってしまう。
「まさかまだ立て札は直っておらんのか……」
一度何かに対して呆れたような顔を見せた老人。
「ならばチャンスをくれてやる。あの立て札には本来『紺碧なる石に触れしもの、彼の残りの寿命を捧げ、時を遡り、願いを叶え、未来を賜わらん』と書かれておるのじゃ」
「寿命を捧げて…時を遡る……」
「そうじゃ。お主の寿命を貰う代わりに、お主をお主の望む所まで戻してやろう」
普通の人ならここで躊躇するのだろうか。
もう、今の私には「分かりました、お願いします」と言う選択肢しかない。
「分かりました、お願いします」
だから唯一の選択肢を選んだ。
「全く躊躇せんとは……。良かろう。お主を望む時間軸まで戻してやろう。では行くぞ。お主が戻りたいその日その時間のことを頭の中で思い描け。そこまで戻してやるからの」
「はい!」
私はもう一度戻りたい。
君と出会ったあの日に。
満開の桜が咲くあの場所に。
私が頭の中でそう願うと、辺り一面が光に包まれた。
眩い光に照らされ、目を閉じた私。
そして目を開いた私がまず見たのは、あの《桜の花道》で有名な満開の桜だった。
本当に戻って来ることが出来たのか心配だった私はキョロキョロと辺りを見渡す。
そうして私は安堵した。
「ちょっと、急に不安そうな顔をしてどうしたのよ」と私の隣で私のことを心配そうに眺める朋花の顔があったからだ。
私と朋花が着ているのは正真正銘、峰北高等学校の制服。
紺色のブレザーに濃緑色のスカート。
戻ってこれたのだ。
あの日に。
「ちょっとなんなの。あんまり見られると恥ずかしいから……」
朋花がそう言って照れる。
普通じゃないけど普通の光景。
それがとても楽しく感じられて、私は笑う。
「ううん、似合ってるなって思ってね」
「は、はあ?もうこれ着るの3年目だよ?何言ってんの……」
「ははは、そうだね、3年目だね~!今年が最後の年だから見るもの全部綺麗に見えちゃうよ」
「はあ、なにそれ。花音なんか変」
笑顔でそう言い合う私と朋花。
綺麗な桜道を通り、校舎へ。
待っててね。
今、君に出逢いにいくから。
そうして私は、君と私の物語を紡いでいく。




