【八話】 少年、鍛冶屋から酒場へ、新たな友を連れて
今回は後日談みたいな感じです。
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床に座り込んでいたミユに手を貸すドラグ。
「もうこれであいつら来ないと思うよ。多分」
「あ、うん」
ドラグの右手をつかんでなんとかその場に立ち上がるミユ。
ドラグは次にミユの隣で半べそ書いているシャルを立たせようとするが、
「うぅ、ごわがっだ、ごわがっだよ~う!」
そう言いながらシャルはドラグの胸にに跳びついてきた。森の時と全く一緒である。
「お、おい!泣くなよ!?男だろ?」
「ドラグざんが、じんっ、死んじゃうど、おぼっでっ!」
言葉を詰まらせながら涙声でそういってくるシャルにドラグは困り顔をしながらその金髪の頭をなでる。
「心配かけたな。悪かったよ。でも泣くのはやめて?なんかイケナイコトしてる気分になるから・・・」
しばらくドラグは、胸の中で嗚咽を漏らすシャルの頭を、子供をあやす親、ないしは弟を慰める兄のように頭をなでた。傍から見たらそのように見えただろう。
数分後、まだ鼻を啜っているいるもののほぼ泣き止んだシャルは、ドラグの胸元からようやく離れた。「うぅ、ほんとによかったよぉ」なんてまだ呟いてはいるが。
「ドラグ、本当にありがとう」
ドラグに頭を下げるミユ。
「あぁ、いいっていいってあんくらい。はいこれ」
「・・・本当に言いの?」
ドラグがミユに渡したのは、さっきの馬鹿達が持っていた銀貨30枚のはいった袋だった。
「いいって、それよりもごめんね。まさかあいつがこんなかたちで店を壊すなんて予想できなくて・・・
師匠から預けられた大切な場所だっていうのに」
「!?全然いい!あんな奴らに武器売らなくて済んだんだから。これでまだ師匠に顔向けできる」
「そっか。それはよかった」
ミユにほほ笑むドラグ。その顔を見て、一瞬頬を赤く染めるミユ。
ミユはあわてて目をそらし、その手にもった袋をドラグに差し出す。
「でも、こんな大金受け取れない」
「いいって本当に。貰いもんだし。床の修理だって多少お金はかかるでしょ?」
「しかし・・・」
どうにも納得いかない様子のミユに、どうしたものかと首をかしげるドラグ。
そしてしばらく唸ったのち、ひらめいた!とばかりに首を正面に戻した。
「じゃあさ、今度武器のいい素材持ってくるから、それでシャルに武器を作ってあげてよ」
「「!?」」
またしても反応があう2人。息ぴったしだ。
「そんなのでいいの?」
「あんなによく切れそうな剣が打てる奴に作ってもらえるなんてサイコ―だよ!シャルもうれしいだろ?ミユちゃんに作ってもらったら」
「そりぁ、うれしいですけど・・・いいんですか?僕なんかのために」
「武器屋に入って、何も買わずにハイさよならってのは失礼だと思わない?」
「た、たしかに・・・」
「ってわけで頼むよ、ミユ」
「・・・わかった。ありがとう、ドラグ」
「うん!どういたしまして」
ようやくドラグに差し出していた両手を引っ込めるミユ。その表情は少し笑っていた。
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
ミユと武器製作の約束をしたドラグとシャルは、お金は持ち合わせていないけど、もう少し武器防具を見ていいかとミユにお願いし、いまだに自由気ままに剣や盾を手に取って眺めていた。やはりそこは二人とも男の冒険者なのだ。武器を眺めていると楽しいのだろう。
「別にただで持ってっていい」というミユの申し出をドラグたちが断ったことは言うまでもない。ドラグ曰く、『敵には奢るな、女に奢れ、絶対女に奢られるな』なんだそうだ。
するとシャルはある武器の前で立ち止まる。
それは巨大な『戦斧』だった。
それは、戦斧といっても普通の戦斧とは全く違っていた。
その束はシャルの身長よりもあり、その刃はその束の半分以上に及んでいた。
はっきり言って、異常な武器だった。
「シャル、これ気になるのか?」
「あ、はい。なんか、ちょっと使ってみたいかなって・・・」
「そういう感覚は大事だよ。ミユちゃん!ちょっとコレ試してみてもいいかな?」
「ん?あぁ、それか。昔師匠が作ったものだが・・・ほぼ観賞用だぞ?重すぎて使い物にならん。それでも試したいというなら止めんが・・・?」
「ありがと、じゃあ、ほれ、シャル」
「!?」
シャルには届かない場所にあったためドラグはシャルのためにその戦斧を取ってあげる。
あたかも当然のようにその斧を持ち上げたドラグに驚くミユ。だってレベル999だもの。
「あ、ありがとうございます。うわぁ・・・!」
「!?」
これまた同じく両手で普通に持って見せたシャルにまたしても驚くミユ。だってドワーフだもの。
「なんか・・・しっくりきます!
「へぇ!よかったな!冒険者にはな、たまに、『自分の武器に出会う』体験をするやつがいるんだよ」
「『自分の武器に出会う』ですか?」
急にそんなことを話始めたドラグにシャルが首をかしげる。
「うん。店に入って、一目見て、もうそれで『あ、コレは俺の武器だ』って思うことがあるんだよ。そうするとね!その武器は今までのものとは全く違う切れ味や使い勝手をその冒険者に与えてくれるんだ!」
「今までとは全く違う切れ味や使い勝手・・・」
ドラグにそう言われて、もう一度その斧を見るシャル。
そして顔を上げて、ドラグに元気よくこう言った。
「僕のメインウェポン、これにします!」
「いいね!シャルもドワーフの男の一人だもんな!」
「はい!」
「じゃあ、今日からシャルは冒険者のなかの『戦士』だな!」
「『戦士』・・・!」
斧を持ちながら頬を紅潮させるシャルは、『戦士』という響きに感銘を受けていた。
「じゃあミユに作ってもらう武器は『戦斧』でいいのかな?」
「はい!とびっきり重いのお願いします!ミユさん!」
「!あ、あぁ・・・」
いまだにこの体が小さい美少年が超重量級の武器を持ち上げたという事実を持て余していたミユは、元気いっぱいに頭を下げてきたシャルに変な声を出して返事していた。
それもそうだ。見た目十歳の女の子みたいな男の子が大の大人さえもてない巨大戦斧を持ち上げているのだから。
しばらく戦斧を眺めているシャル。その眼はこれからの自分に夢を抱いているような、希望に満ちたものだった。
すると、
ぐぅぅ~~~~っ!
三人の腹の虫が一斉になった。
なにせ今は、すでに日が傾いてい時刻なのだから、腹が減って仕方がないはずなのだ。
三人は、誰からともなく、腹を抱えて笑った。
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
ガツガツガツッ
「うまい・・・・・うまいっ!」
ミユは泣きながら、目の前のピラフをかき込んでいた。
「そんなに焦らなくてもご飯は逃げていかないわよ」
必死に食べているミユの様子を見て、カウンターでドラグたちの料理を作っているカレンは笑いながらそう言った。
鍛冶屋デュイスで、みんなおなかが減っていることが分かった時、「じゃあみんなでご飯食べよう!」とドラグが言って、ここ、集いの酒場に来たのだった。
「こんな・・・こんなにうまい飯を食ったのは、初めてだ」
「だよな~、俺もそう思ったもんな」
「だから、大げさよ」
ドラグたちの皿が来る前に一枚食べ終えてしまったミユは、その満腹感に顔を幸せそうに緩ませていた。
その顔を見て笑顔になるドラグたち。人の幸せそうな顔というのはほかの人を幸せな気分にしてくれるのだろうか。
「はい、お待たせ。ドラグ君とシャルの分ね」
「待ってました!」「ありがとう、お母さん!」
「お母さん!?いったいどういう・・・」
「?あぁ!カレンさんはシャルのお母さんだよ」
「!?」
ドラグたちも自分の頼んだ料理が出され、嬉しそうにその皿を受け取り、食べ始める。
「それにしてもそんなことがあったなんて、大変だったわね」
カレンが食事の終わったミユにそういう。
カレンには、ミユが食事を始める前に、先ほどのことを話してある。
「えっ!?あ、はい。しかしドラグさんがコテンパンにしてくれたので大丈夫だ。ドラグさんは命の恩人だ」
「大げさだなぁ、ミユちゃん」
飯を食べながら照れるドラグ。
「ドラグさんは僕の恩人でもあるんですよ!実は昨日・・・・・」
「そんなことが」
「やめろよシャル、照れるって。ほんと恩人なんて大げさだし」
褒め殺しとはこのことであろう。ドラグはとても居づらそうである。あ、皿が空になった。
そんな風にしてイースの街の夜は更けていく。
ドラグは新たな友を得て。集いの酒場は新たな常連を得て。
酒場は、ドラグのおかげで、今日も平和だ。