【九話】 少年、美少年を弟子とす
生い茂る木々、その隙間からこぼれる日の光と、
「フゴッ!」
豚鼻の化け物。
ドラグは今、オークの森に来ていた。
「お、お願いします!」
弟子となったシャルと一緒に。
なぜこうなったか。それは昨晩のことに遡る。
~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~
鍛冶屋で一悶着あった次の日の夜。
ドラグはいつも通り街の散策が終わり、集いの酒場に戻ってきていた。
「もうそろそろ稼ぎに行かないといけないかな・・・ん?」
店の扉を開けると、カウンター席には一人の先客が座っていた。
その先客は筋骨隆々の男であった。
背はドラグほどかそれよりもしたかもしれない。しかし、その完璧と言える肉体は、その体を大きく見せていた。
髪は短く乱雑に刈られた金髪。
その顔の左頬には斜めに入った傷跡があった。
着ているものは汚れた半ズボンにタンクトップで、地元の親父臭がするが、もしこれで鎧でも着込んでいたら少し近寄りがたいほどに恐く感じるかもしれない。
その先客は、どうやら常連のようで、酒の入った木製のジョッキを傾けながらキッチンの中にいるカレンと楽しそうに話していた。
するとカレンがドラグに気づき、声をかける。
「あ、いらっしゃいドラグ君」
「あ、どうも」
「おぉ、お前が最近できた常連か!」
どうやらその男は、カレンからドラグの話を事前に聞いていたようだ。
「はい、ドラグ・ベンです」
ドラグが自己紹介する。するとその男もドラグに対してこう言った。
「ダン・ロー・ランド。シャルの親父だ。息子が世話になったな」
「えーーっ!お父さん!?」
確かそのドワーフの特徴となる美しい肉体。そしてその短く切られている金色の髪は、その男、ダンがシャルの父であることを暗示していた。
シャルの父親ということは、と、ダンの腕を確認すると、確かに話に聞いた通り、左腕が上腕を半ばから失っていた。
「そ、そうなんですね・・・」
「今ちょうどドラグ君の話をしていたのよ」
「この街の裏番をぶちのめしたって?すげぇじゃねえか。歳は?」
「17っす」
「若ぇのにそんだけ力あるなんて、将来有望だな!」
「どーも・・・」
目の前で豪快に笑うダンに圧倒されるドラグ。
するとダンが唐突に席を立ち、店の奥に行く。
するとダンは店の奥にあった丸いテーブルを持って、ドラグの前まできてそれをドカッっと置いた。
何をするつもりなのかドラグが分りかねていると、ダンはそのテーブルに肘を置き、ドラグに手を差し出してきた。
「一発やろうや?」
「!いいっすね」
『腕相撲』
それは単純に個々の腕力の優劣によって勝負が決まる、純粋な力比べ。
「カレン!合図だしてくれ」
「はぁ、分ったわ。ごめんね、ドラグ君。うちのは強い人をを見ると居ても立っても居られないの」
「いえいえ」
ダンの手をとり、机に肘をつくドラグ。
カレンはドラグにそのように謝りながら、キッチンの中から外に出てきた。
「準備はいい?よーい、ドンっ!」
腕に力を入れるダン。その右腕には、血管が浮かび上がり、力瘤がその存在を強く主張していた。
しかし、
(んなっ!うごかねぇ・・・!?)
ドラグの腕は、そのドワーフの生まれ持った膂力、さらに冒険者時代に手に入れたレベルによる力補正をもってしても、びくとも動かなかった。
「ふんっ!」「!?」
ドラグが一気に力を入れる。するとダンの手の甲はあっさりと机についた。
「いやぁ、まさか負けるとは思わなかった!そりゃピラルフのやつが負けるわけだ」
軽く額に汗を浮かべながら笑顔でそういうダン。
「?知り合いなんですか?」
「まぁな、昔ひと悶着あったんだ。俺が勝ったけどな」
どうやらダンと、昨日きたチンピラは前にあったことがあるらしい。意外と世の中は狭いものだ。
テーブルをはさんでそんな話をするダンとドラグ。そんな店内に、勢いよくドアを開けて入ってくる人が一人。
「ただいまー!お母さん、買い出し行ってきた・・・あ、ドラグさん!いらっしゃい」
「おう」
「お父さん!久しぶり!」
「おー、シャル!元気にしてたか?」
「うん!」
どうやらダンはシャルとは一緒に暮らしていないらしい。
ダンのもとに、手に持っていた荷物を床に置いて走り寄るシャル。ダンは飛びついてきたシャルを受け止め、そのまま抱きかかえる。
「うちの旦那、今は腕失くして冒険者やめたけど、昔は強くってね?結構有名だったから、王様の目にとまって、今は王都で兵の教育係として働いてるのよ」
「あ~、なるほど」
この始まりの街イースは、『グランド王』を王様とする王国、『グランド王国』の領知のうちの東の東に位置する田舎町だ。そのことから考えるに、ダンは王都に住み込みで働いているようだ。
どうやら久しぶりに再会したシャルとダン。二人は楽しそうに言葉を交わす。
「大きくなったか?」
「大きくなったよ!」
「ははっ!そうかそうか」
「お父さんあのね、このドラグさんはね」
「カレンから聞いたぞ。恩人なんだってな?」
「うん!それはもうカッコよくてね!」
「シャルやめて!恥ずかしいから!」
今日も平和な集いの酒場の夜は、今日もまた更けていく。
幸せんな雰囲気に包まれている店内。そんな中、シャルは急に神妙な面持ちをしてダンに話し始めた。
「お父さん、あのね」
「ん?どうした」
「僕・・・僕、冒険者になりたい!」
「!」
驚きで一瞬固まるダン。だがすぐに笑い始めた!
「はっはっはっ!そうかそうか!お前も冒険者になりたいか!」
「うん!」
「そうか!いいぞ~冒険者は!冒険者は自由だ!どこかに旅するもよし。街の人を助けるのもよし。魔境に行って魔物を倒すのもよし。仲間を作るのもいい。好きな女に一生貢ぐのも自由だ」
「やだわ~あなた」
カレンが頬を赤くする。
誇らしそうに話すダンの話を、シャルはキラキラと目を輝かせて聞いている。
しかし、
「でも、危ないわ。」
先ほどまで照れていたカレンが、冷静にそういった。
「冒険者はいつ死ぬかはわからない。帰ってこなかった友人を何人も知ってる。・・・・・・死んだ仲間もいるわ」
「!?」
目を見開くシャル。
冒険者は、本当にいつ死ぬかわからない。通常、人間より強い魔物に立ち向かっていくのだから。
それに同業者のほとんどが気性が荒い。トラブルにも巻き込まれる。
死と隣り合わせの職業、それが冒険者だ。
「だからシャルには、なってほしくないのよ」
「で、でも・・・!」
沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは、ダンだった。
「ドラグ、お前さん、シャルを弟子にしてくんねぇか?」
「はい!?」「お父さん!?」
唐突過ぎる言葉に、この場にいる全員が驚く。
「確かに冒険者は危険だ。なら、強くなればいい。
ドラグはいい男だ。強くて優しい。一緒に居させてもらって、強くなればいいさ。それなら文句ないだろ?」
「あなた、急に何言って・・・!?」
「シャルは、どうだ」
「へっ!?」
「ドラグの弟子になって、強くなってみたくないか?」
ダンはシャルに問いかける。
その問いかけに少し悩むシャル。そして、
「ドラグさんが、よければ・・・・」
申し訳なさそうにそう言った。
するとダンが、
「ドラグ、俺は王都で仕事しなくちゃいけねぇ。だから、お前さんが、シャルの面倒見てやってくんねぇか?俺の自慢の息子だ。頼む」
そう言ってドラグに頭を下げ始めた。
突然のことに戸惑うドラグ。
(えぇぇ~~っ!?何急に話進んでんの!?シャルが俺の弟子?いや、ムリムリムリ!俺、人に何か教えるような人じゃないし?そもそもシャルは俺でいいのか?)
「ほ、本当にシャルは俺で、いいの?」
「は、はい。ドラグさん強くて、優しくて、あの、その・・・かっこいい、ですし」
顔を赤らめながらそういうシャル。
(!?だからなんでこれが13歳の男なんだよ!)
「まいったな・・・」
頭をかくドラグ。
そして、しばらく「うーん・・・」と唸った後、あることに気づいた。
「なぁ、シャル。今までさ、俺と一緒に街歩いてたじゃん?」
「?はい」
「それってさ、俺からなにか、こう、学ぼうとしてたんだよね?」
「き、気づいてたんですか!恥ずかしながら・・・その通りです」
「それってさ、言ってみれば、弟子が師匠にすることと同じだよね?」
「・・・え?」
一瞬の沈黙。そして、
「なんだ、シャルはもうすでにドラグの弟子だったのか!はっはっはっ!」
ダンはまたしても沈黙を破った。
「そうみたいですね」
「あ、あの・・・ドラグさん?」
「シャル、俺の弟子になる?」
「え、え?あ、あの、、いいんですか?迷惑じゃ・・・」
「もう同じようなことしてたんだし、全然迷惑じゃないよ?」
「ホントですか?」
「うん」
シャルはドラグの返事を聞くと、顔をぱぁっと明るくさせ、
「あ、ありがとうございますっ!シャルロット・ロー・ランド、ドラグ師匠の弟子として、全身全霊で好みを尽くさせていただきます!」
「あ、う、うん。あ、ありがとう。よろしくね?」
「はい!よろしくお願いします!ドラグ師匠!」
「師匠づけやめて!」
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という風に、その場のノリでトントン拍子で話が進みあれよあれよとシャルがドラグの弟子となったのだった。
(本当にこれでよかったのか?)
ドラグは昨日の夜から、本当によかったのか、と頭の中で考えていたのだが・・・
「ま、いいか」
目の前でとても嬉しそうに、これから始まる師弟生活を楽しみにしているのを見ると、ドラグはこれでよかったのかもしれないなと思ったりした。
新しくドラグとシャルの師弟関係が始まった。




