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壊すしかできない出来損ないの聖女として捨てられた私、不滅の鬼神将軍に拾われて世界で唯一の"討滅の聖女"として溺愛される  作者: 蒼城レイ


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第1話 祈れば祭壇が砕けるので、聖女は廃位だそうです

私が祈ると、祭壇が砕ける。

白い大理石に手を触れ、女神への祈りを口にした瞬間、ひび割れの音が大聖堂の天井まで駆け上がった。供花が一斉に黒く縮れ、聖水盤の水が灰色に濁る。参列していた貴族たちが悲鳴を上げて後ずさり、誰かが「やはり破滅の聖女だ」と吐き捨てた。


またか、と私は思った。三歳で初めて祈った日も、母の墓前の花を枯らした日も、そうだった。ヴィオレッタ・ロートリンゲンが祈れば、世界は壊れる。癒やすことも、芽吹かせることもできない。聖女とは、傷を塞ぎ、病を払い、大地を潤す者のはずなのに。


「見たか。これが我が国の"聖女候補"の正体だ」


祭壇の前に立っていた婚約者——第二王子オスヴァルトが、芝居がかった仕草で両手を広げた。金の髪に整った顔。その口元だけが、隠しきれない侮蔑に歪んでいる。


「ヴィオレッタ・ロートリンゲン。お前は聖女ではない。"破滅"だ。祈りのたびに祭壇を砕き、花を枯らし、民を怯えさせる出来損ない。——本日をもって、お前の聖女候補位を剥奪する」


ざわめきが波のように広がった。その波の中心で、純白の聖女衣をまとった少女が、勝ち誇るように微笑んでいる。私の異母妹、アンネリーゼ。


「姉さま、残念ですわ。でも、女神は嘘をつかない。本当の聖女は……わたくしですもの」


彼女が祭壇に手をかざすと、淡い光が灯り、黒く縮れた供花のいくつかが、わずかに色を取り戻した。歓声が上がる。「聖女アンネリーゼ」の名が、いくつもの口から零れた。


——けれど、私は見ていた。


光が触れたのは、花の"表面"だけだ。茎の根元、土に近い部分で、黒い染みがじわりと滲み広がっていく。それを止める力は、妹の癒やしにはない。私だけが、ずっとそれを灰に変えてきた。誰にも気づかれないまま。


「何か言いたげだな、ヴィオレッタ」


オスヴァルトが顎をしゃくる。私は背筋を伸ばし、まっすぐに彼を見返した。涙は、もうとうに涸れている。捨てられることには慣れた。けれど——黙って捨てられてやる義理は、ない。


「ひとつだけ、申し上げますわ」


声が、思ったよりも静かに響いた。


「枯らしたのではありません。私は、芽吹く前の災いを灰にしていただけ。あなた方が忌んだこの手は、あなた方を守っていた手ですのよ。——いずれ、思い知るときが来ますわ」


「世迷いごとを」


王子が手を振った。衛兵が私の腕をつかむ。引きずられながら大聖堂を出る間際、妹の囁きが耳をかすめた。


「ごめんなさい、姉さま。でも、あなたがいなくなれば、誰がわたくしの聖女を疑うの?」


——ああ。やはり、お前は知っていたのね。


その日、私は王都の南門から国境の外へ捨てられた。馬車も護衛もなく、聖女衣の代わりに薄い旅装一枚で。背後で門が閉まる音は、ずいぶんと軽かった。


歩いた。北へ、ただ北へ。なろうの聖女物語なら、こういうとき森で行き倒れた令嬢を王子が拾うのだろう。けれど私を拾ったのは、王子ではなかった。


日が暮れ、凍えた風の吹く荒野で、それは現れた。


犬ほどの大きさの、灰色の獣。輪郭が陽炎のように揺らぎ、通った跡の草が音もなく崩れて灰になる。獣が触れたものは、命を失い、二度と芽吹かない。私を見て、それは低く唸った。


逃げる気力は、もう残っていなかった。だから私は——両手を、その灰色の獣へ向けた。


祈った。女神にではなく、ただ「終われ」と。


手のひらから、音もなく白い火が走った。獣は声もなく崩れ、さらさらと灰になって風に散った。あとには、不思議なほど澄んだ静けさだけが残った。祭壇を砕いた、あの忌まれた力で。


——そして、その様子を、闇の中から見ていた者がいた。


黒い外套。鞘に収めたままの大剣。背の高い男が、ゆっくりと荒野を歩いてくる。月明かりに、その顔が浮かんだ。氷のように整い、感情の読めない、けれど不思議と目を逸らせない顔。


「……今のを、お前がやったのか」


低い声だった。私は警戒して身構える。男はそれに構わず、灰の散った跡をじっと見つめ、それからもう一度、私を見た。


「灰の獣を、灰に還した。封じるのではなく、滅ぼした。……何百年も、誰にもできなかったことだ」


「あなたは、どなた」


男は、ほんのわずか、目を細めた。それが彼の——後に知ることになる——精一杯の表情だったと、そのときの私はまだ知らない。


「ジークヴァルト・フォン・アイゼンブルク。北辺グレンツェの辺境伯だ。人は俺を、鬼神将軍とも、死なない化け物とも呼ぶ」


死なない、と彼は言った。その言葉の重さに、私はまだ気づかない。


「お前を、王都が捨てたと聞いた。"破滅の聖女"だと」彼は私の前に立ち、まっすぐに告げた。「違うな。お前は——壊す側だ。壊せるということは、守れるということだ。俺の辺境には、お前の力が要る」


差し出された手は、傷だらけで、温かかった。


捨てられた聖女を、王子は拾わなかった。けれど、死なないと噂される将軍だけが、私の"壊す力"を「要る」と言った。


その手を取った夜から、私を捨てた王国が灰に沈むまで——そう長くはかからなかった。


お読みくださりありがとうございます。

「破滅の聖女」ヴィオレッタの物語、第1話でした。次回、凍えた辺境グレンツェへ。死なない将軍の領地で、彼女の"壊す力"が何のために要るのか、その答えが見え始めます。

——そして第3話、彼女の祈りが「災厄を灰に還す唯一の力」だと、辺境のすべてが思い知ります。

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