第六話 痛車
失言の代償は重い。
それはもう鉛の如く。
プラカードを持つ陰陽師が、手帳に「鉄柱20cm、曲げる能力アリ」と、書いていた。
まるでお買い得商品のポップでも書くような軽やかさでメモを走らせた。
丸文字で。
……。
可愛いじゃねえか。
男だよな?
この陰陽師。
多分。
顔が何でか見えないので分からんが気配と所作から男と思う。
胸無いし。
声も低いし。
「何だ?」
「いや」
うん。
声は男みたいだな。
「なあ~~相棒」
『何だ?』
「陰陽師達の顔が分からないんだが……何で?」
『認識阻害の術だな』
「へえ~~」
『音声変換術式も起動してるみたいだ』
「敵性種族に術者の情報を渡さないため?」
『無論だ、髪の毛や真名を媒介にした呪術対策も施されてるな』
「やべえ~~元の世界の陰陽師よりヤバくない」
『ああ……問題はだ』
「なに?」
『我々から見たらヤバイ高度な術を平然と片手間に起動してる事だ』
「元の世界の陰陽頭クラス。下手すればそれ以上じゃん」
『それが此の国に仕える陰陽師の最低基準みたいだな』
やべえ。
ガチでやべえ。
更に、プラカードを持つ陰陽師が、手帳に「脳筋」と、書く
カラフルな色の筆ペンに変えて可愛く丸文字で書いてた。
うん。
何でペンを変えた?
意味わからん。
「……相棒」
『何だ脳筋』
ツッコめねええ~~。
「今の、記憶から消去してくれないか?」
『無理を言うな。お前の失言を録音して再生してやりたいくらいだ』
「ですよね~~」
泣きてええ~~。
リアカーは「キュルキュル」と、音を立てて進む。
軋む様な音を立てて。
機械油をさして欲しい。
うん。
僕を縛る塩を塗した女の髪の縄が、酷く食い込む。
髪に宿る女の怨念が僕のわずかな動きに反応したせいだ。
生き物のようにギリリと締め付けを強めた。
湿った重みと、かすかな香油のような香り。
あるいは古い埃のような匂いが鼻を突く。
年代物だな。
女の髪で作られた縄は古くから呪物として知られている。
怪異を縛る呪物として。
特に古ければ古いほど呪物としての効果は高い。
これは可成り強力な呪物だ
僕クラスの怪異を縛る呪物としては。
そんな僕らの脇を、ごく自然に追い越していく「日常」があった。
信号待ちの怪異に出会った。
それは交差点で赤信号に捕まった時の事だ。
僕のリアカーの隣に並んだのは、一台の軽トラックだった。
……ただの軽トラではない。
「朧車」の軽トラ仕様ですね。
ええ。
どっからどう見ても。
うん。
元の世界の牛車に慣れてる僕にとって違和感が酷い。
何というか。
「痛たたたっ」
『どうした?』
「違和感が酷くて「痛車」に見える」
『同感』
荷台には大量のキャベツ。
しかし、フロントガラスがあるべき場所には、巨大な老人の顔が埋まっている。
うん。




