第三話 非日常
僕の間抜けな声が、響く。
失言した。
そう気が付いたのは暫くしてからだ。
二十センチ。
それは一般常識からすれば人外の領分。
鉄鋼業の重機レベルの数値だ。
人が出せる領域ではない。
「異形」の領域。
まさしく人外の領域。
妖怪の領域。
現代妖怪「都市伝説」とも言うべき領域だろう。
僕の失言を聞いた瞬間、プラカードを持つ陰陽師の肩が、微かにに動いた。
「……二十センチ、ね~~」
「いや~~あの」
「十分化け物だな」
「あ~~言い間違えた二センチです」
「普通に化け物です」
「ですよね~~」
「お前二ミリなら千切れそうだな」
「余裕ですが」
「よし馬鹿」
陰陽師から罵倒された。
「馬鹿って何だっ!」
「普通は二ミリも千切れんわっ!」
「えっ!?」
「お前~~何で素で驚いてるんだ常識だろうが」
「そうなの?」
「駄目だ馬鹿が居る」
僕の言い訳を呆れを通り越して馬鹿にされた。
うん。
凄い馬鹿にされてる。
『おい』
「何だ相棒」
『人間は一ミリでも千切れない事しってるよな?』
「千切れんの?」
『千切れんわっ!』
相棒からも罵倒された。
「苦労するなアンノウンの相棒さん」
『ああ~~分かるか』
「こいつ脳筋だろ」
『ああ、此奴なんでも力技で何とかなると思ってるんだよ』
「苦労してるんだな」
『分かってくれるか』
「御気の毒」
『しかも此奴は元人間なのに常識を知らんのよ』
「うわ~~」
何か相棒と陰陽師が意気投合してるんですが?
「陰陽師さん」
「なんです?」
「僕の相棒なんですが?」
「知ってますが?」
「意気投合しないで下さい」
「知らんわ」
「ええ~~」
陰陽師さんと相棒が目を合わせ溜息を付く。
息ぴったりだな。
あんたら。
「いたたっ……」
拘束の感触が、肌に食い込む。
ギリギリと。
梵字が刻まれた鉄タングステン合金の椅子は、僕の体温を容赦なく奪う。
そのうえ呪術的な圧迫感を伝えてくる。
この呪力。
僕を束縛してる陰陽師の物だな。
見た目は若いが良い腕をしてる。
僕が以前いた現世の陰陽師と引けを取らないな。
それだけではない。
塩を塗り込まれた女の髪の縄——。
非業の死を遂げた女の物だ。
怨念を呪力で強化している。
不気味なほどにしなやかで、鋼よりも強靭な執着——。
汚れなき乙女の髪を使った縄よりも、僕の自由を完全に奪っていた。
「……相棒~~今の失言無しにできないかな~~」
『無理だな』
バッサリ言われた。
ひでえ。
『陰陽師殿本人が聞いてるのに意味が無いだろう』
「聞いてます」
『なあ』
「そうだな」
だから陰陽師さん。
僕の相棒なんですが。
良きぴったりだな。
『言霊という言葉がある』
「うん」
『言葉通り吐いた言葉は呪いとなってお前を縛る』
「つまり?」
『自業自得』
「鬼かな?」
『お前の事だ』
「そうやね」
泣きたい。




