逃走の末に
再び襲う激痛の中、体を起こすと自分の体が階段の踊り場に投げ出されていることがわかった。どうやらこの建物は角柱形の建物らしい。階段が螺旋状に続いていて、その角の部分が踊り場になっていたおかげで下まで転がり落ちるのを免れたようだ。さっきのあれは医者だったのか?と疑問に思っていると、さっきの白衣の男が追ってきた。逃げなければ、あいつが医者だろうが化け物だろうが俺には逃げる理由がある。そう、一文無しだからだ。襲われたらまた金がかかるし、こんなところで捕まるわけにはいかない。階段に打ち付けた背中の痛みは、とにかくこの場から逃げ出すという目的によってかき消された。 螺旋階段を三段飛ばしで駆け下り、建物の外に飛び出た。辺りに霧が立ち込めていて視界が悪い上に気温が低い。だが構わず必死で走り続けた。街の石畳みの冷たさを足の裏に感じてきた頃、流石にもうここまでは追ってこないだろうと判断して、走るスピードを緩め、足を止めた。どこだここは。息を整えやっと辺りを見回すと、そこにはたくさんの廃墟が並んでいた。街の中を走っていたと思ったらいつからこんな廃墟が並ぶ場所に迷い込んでいたのか。こんな広大な土地が廃墟になっていたらシティボーイ(家なし)の俺なら知っていたはずだが、こんな荒れ果てた土地は生まれて初めて見た。
「ふ、ふ……ぐすん、ぐすん」どこかで誰かがか細い声で泣いている声が聞こえた。息も整ったことだし、ここがどこかさっぱり検討がつかない。人がいるなら話しかけてみようと思い、声の主を探した。廃墟の周りの草むらは深く生い茂っていて、人の気配はないように思えたが、声だけを頼りに草むらを進む。すると、崩れた廃墟の影に人の背中が見えた。どうやら草むらにしゃがんでいるらしい。
「おい、そこの君。泣いているみたいだが、少し聞きたいことがある。」
そう話しかけると
「ぐすん、ふ、ふふ、ふふふふ。えへへへへっ!」
なんだか様子がおかしい。泣いていると思ったら笑っている。
「やったぁ!見つけたよぉ。オマエ、ヒサトだろぉ?えぇ?えへへへ!」
背中を向けていたそいつは、顔をひきつらせ満面の笑みでこちらを振り返った。恐ろしいことに、その額から頬の下まで、なにか金属のようなものが刺さっていた。その顔のインパクトのせいで、相手が自分の名前を口にしたことを、聞き逃した。
「ひっ!」恐怖で小さな悲鳴が漏れた。
一瞬、ヒサトの周りの景色が揺れた。最初、自分が後ろによろめいたからだと思ったが、違った。目の前にいるそいつに胸を蹴りあげられ、後ろに吹っ飛ばされていたのだ。




