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夢に現れるもの 〜原子力警備員が見た夢と現実〜  作者: ゆずさくら


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 海。

 暗く曇った空と、同じ色を映す暗く濁った海。

 波は岩にぶつかって、しぶきが上がる。

 その岩場に這い上がってくる者がいる。

 肌の色は濃い。ウェットスーツでも着ているのかと思うが、違う。ちぎれた布切れをまとっただけの、裸のような姿。

 後ろから、後ろから、次々に海から上がってくる男たち。

 防潮堤の上から、それを見ている。これは『誰の視線』なんだろう。俺はふと考える。

 荒れる海から立ち上る雷。

 その光で、沖に船が見える。

 鋼鉄の大型商船。

 船はどんな力を与えられたのか、真っ二つに折れ、沈んで行くところだった。

 男たちは捕まえられ、檻に入れられ、治療が不十分で死んでいく者や栄養失調で死んでいく者もいる。

 やがて男たちは、プレハブの建物に住むことになった。

 バスが来て、乗りむと、連れていかれる先は原子力発電所。

 燃料保管庫の改修作業者だ。俺は思った。

 夢だ。

 また、アラームが鳴っている。

 俺は必死に手を伸ばす。目が開き、覚醒する。

 施設の自分の部屋にいることが目で見て確認出来る。一体何の夢だったのか。

 俺はメモに書き残す。

 誰の視線だったのだろう。その誰か、這い上がってくる男たちを見たのだろうか。

 いや見ていないだろう。俺と同じようにただ海を見ていたに違いない。

 管理人の言っていたことを思い出す。この施設に来て、自殺した人がいる。夢は変な言葉をしゃべる人の夢。宗教儀式のようなもの。俺が見ている夢と同じではないのか。その宗教儀式をしているのは、難破した船からやって来た外国人。そいつらは今、原発内で改修作業を行っている。

 もしかして、これが全てで、これが今も繰り返されているのではないのか。

 消息を絶った商船から、また人が流れ着いてきている。宗教儀式を行う。静まる。

 変なこのサイクルが回っているのではないか。何も根拠はないけれど、繰り返し沖で船が難破しているなら過去にも同じことがあったのではないか。プレハブに住む彼らに、何故船を『子牙沖』に向かわせたのか、どんな宗教儀式なのか話を聞くべきではないのか。

 俺はもうその根拠のない考えに、憑りつかれていた。すべての出来事が、この考えを裏付けしているように思えてきた。

 着替えて、食堂に行くと朝のニュース番組を流していた。

 早い時間には珍しく、すでに全国放送から地域の放送局のニュースに切り替わっていた。

 食事をしながら見ていると、夜の映像だったが、あの改修作業者たちが住んでいるプレハブが映った。

『入国管理局は不法入国者が入り込んでいるとして、外国人が多く滞在している子牙村の住宅の捜索を行いました』

 異国の言葉が交わされ、警官や入管、外国人がもみ合いになる映像。我が国では珍しく警官が拳銃を抜いて威嚇発砲する。映像に遅れて、アナウンサーが興奮気味に発砲したことを告げる。

 すると経産省の田村が食堂にやってきて、ニュースを見て言った。

「俺たちがタクシーで通過した後の出来事だな」

 灯りもなく、やけにプレハブ小屋が静かだったのは捜査が入ることを察したからなのだろうか。

「不法入国者はおそらく、行方不明になった商船の乗組員だろう。しっかり調べれば沈んだ船も発見できるだろうな」

 田村は食事のトレイを運びながら勝手に話し続ける。

「ここの連中は全く進歩がない。数年前にも船が沈没して、多くの外国人が岸に上がった」

「えっ、それって」

「子牙村のプレハブに住んで、燃料保管庫の改修作業をしている連中だよ」

 田村は俺の横に座ってきた。

「その前にも同じように船が沈んだ。何か同じところで船が沈む要因があるはずなんだが、それを調べ切れていないんだ」

「……」

 俺は『クスルー』に船が沈められたと言いたくてたまらなかった。理由もなくそうだと決めつけたいぐらいだった。

 商船はクスルーがいるルルイエの浮上に伴い、引き寄せられるように、そこを目指すようにやってきて、船はクスルーの生贄(いけにえ)になる。

 船や積み荷以外の船員が岸について、この土地に住み着いた。

 ルルイエはこんな場所ではなかったはずだ。確か南太平洋…… 俺はバカなのか。し本当のルルイエの位置を示して、国の諜報機関や軍がルルイエを探し、利用しようとしたらどうする。本当に位置を知っていたとしても、緯度・経度を小説に書き記すわけがない。

 いや、何か根本的な視点が間違っている。

 俺は自分の考えが妄想に基づいたもので、意味のないことだと自分を納得させた。

 何度も何度も、空想小説の内容を現実に混ぜ込んで考えてしまう。変な夢もすべて自分の不安定な精神が引き越したものに違いないのに。

「どうした。船が沈む原因に思い当たることがあるのか」

 俺は言葉で表すことが出来ず、子供のように首を横に振った。

「近くの漁師に海域のことを聞けば、すぐにでも分かりそうなものだが」

「周期があるかもしれませんよね」

「なんだ、急に」

「すごく長いサイクルで変わる要因で船が沈むとしたら、漁師でも気付かないかもしれない。さっきの話しからすると毎年この時期に船の事故があるのではなくて、何年か間が空いているわけでしょう」

 俺は自分で言っている意味が分かっていなかった。その周期でルルイエがこの子牙沖に現れる。それを目指して、それに誘導されて船がやってくるのだ、その結論に持って行こうとしている。馬鹿げている。それは空想小説の……

「なるほど。あり得ない話しじゃないな」

「いや、あり得ない」

「なんだ。自分で言っていて」

「ありえないんだ。忘れてくれ」

「だからなんでその可能性がないと言い切れるんだ」

 俺は立ち上がって、田村の首を絞めた。

「何でもいい。あり得ないんだ!」

「くッ!」

 一瞬で俺の見ている世界が一回転半回った。

 激しく床に体を打ち、仰向けに天井を見つめていた。

 埃を掃うような仕草をして、田村は言う。

「ずいぶん衝動的な行動だな。これが、勤務中だったら、一言会社に言って、クビにされているところだ。もっと考えて行動することだな。あと、悪いが、俺も武芸(マーシャルアーツ)(たしな)んでいるから、そう簡単にはやられんぞ」

 田村に上から見下ろされている状況で、俺は言った。

「申し訳ありません。しかし、今言ったことは忘れてください。船が沈む理由を知っている訳でも何でもないんです」

「……妙な言い方だが、まあいい」

 俺を乗り越えて、田村は食事のトレイを片付け、食堂を出て行った。

 俺はゆっくりと立ち上がる、床で打った腰が痛い。

 廊下側からの視線に気づく。

「大丈夫? すごい音したけど」

 管理人の娘だった。学校に行くところなのだろう。紺のセーラー服を着て、コートを抱えるように持っていた。こんな雪国なのに、スカートを上の方に上げて、太ももの上の方から、下まで生足だった。俺の中で下劣な感情が湧き上がった。

 慌てて視線をずらし、俺は食堂側の壁を見ながら言った。

「痛いけど、大丈夫だよ。これから学校?」

「……ちょっと気になったから言っとくね。関連があるか知らないけど、船の事故がある時には、この施設で自殺者が出るの」

「えっ……」

 管理人の娘は、そそくさとコートを羽織り、マフラーを首にぐるぐる巻くと外に出て行ってしまった。

 船の事故と、自殺者が同じ時期というのは、どういうことが考えられるだろう。地磁気などが狂う周期とか、気候の変動のサイクルとか、ルルイエの浮上とか、何か繰り返す出来事があり、その出来事が船の事故や自殺を促す原因となり得れば、それも頷ける。

 地磁気が狂って人が死ぬだろうか。死ぬならこの施設だけでは済まないだろう。気候の変動だとしても同じだ。では、ルルイエの浮上とクスルーの思念を受けたことが原因なら。特定の者のみがそれに影響を受け、船を向かわせ、海に入っていくことはあり得るのではないか。俺の考えられる要因のなかですべてに説明が付けられるものがクスルーだとしたら、もうそれが正しいと思っても良いのではないか。

「おい」

 呼びかけられて振り返った。

 そこには管理人が立っていて、俺を睨んでいた。

「娘は何を言った」

「べ、別に」

「娘に手を出したらただじゃおかないからな」

「あ、管理人さん。過去、施設の自殺者出た年を教えてください」

 管理人が記憶を頼りに口頭で言ったことを俺はスマフォにメモを取った。

「ありがとうございます」

 俺はそのまま、外に出ると原発に行くバスに乗り込んだ。

 すでに経産省の田村はバスに乗っていた。

 バスが出発する。

 プレハブのあるところで、いったんバスが止まる。ドライバーはタバコを吸うが、今日も燃料保管庫の改修作業者は乗ってこなかった。

「今日も休みだと」

 ドライバーは戻ってくると、タバコ臭い息でそう言うとバスを出発させた。

 原発に到着すると、田村が正門の監視カメラ映像と見たいと言うので、俺は言った。

「電力会社側の許可を得てください」

「ふん」

 俺と田村はそのまま管理棟に向かった。

 管理棟に入ると、俺は警備室に声を掛けてから、田村を総務の若月さんの所に連れていく。

 しかし、総務部に若月さんの姿が見えない。

「今日若月さんは?」

「昨日入院されて、そのままらしいです」

 そんなに重症だったのか。ただの寝不足じゃなかったのだろうか。

「君も総務だね? 警備の監視カメラ映像を確認したいんだが、許可を出してくれ」

「あなたはどちら様で?」

「経産省の田村だ」

 突然立ち上がって、オクターブ上がった声で話し出す。

「はっ、失礼いたしました。至急手続きをいたします。先にご覧いただいて構いません」

「そうさせてもらう」

 田村が警備室へ戻っていき、俺を手招きする。

 俺はむかつきながらも、田村の後をついていく。

 警備室に入ると、田村は正門の監視カメラ映像を見せろと言った。

 俺は周りの連中に『電力会社の許可は取っている』と言って説明してから、映像を見れる端末の前に座った。

「頬に傷のある男。やつは絶対に原発に戻っているはずなんだ。だから昨日の晩の映像をしらみつぶしに見て、入って来ていないか探すんだ」

 入って来たのであれば、監視カメラで捉えるだけではなく、センサーが警報を鳴らしている。

 センサーの警報があれば、警備がカメラを、必要に応じて現場を確認する。

 だから警備で認識できていないとしたら、絶対にカメラ映像には残っていない。俺の中では明確な答えが出ていた。

「映っているなら、警備の者が対応しているはずです」

「建前を言うな。カメラだって、センサーだって万能じゃない。もちろん人だって……」

 俺は経産省の田村に逆らうように、言葉を遮って言う。

原発(ここ)を探す前に見るべきところがあるんじゃないですか? 市街地の監視カメラとか」

「教えてやろう」

 田村が言いかけた時、俺は何げなくモニタ映像を見て固まってしまった。

 正門の警備室に人が入って来た映像だった。

 俺はその人物に驚いた。

 俺の様子に気付いたのか、田村もようやくその画面を見た。

「若月さん」

 俺はそうつぶやくと、管理棟を飛び出していた。

 若月さんは、正門の警備室を出て、構内を歩いていた。

 俺は走り寄って、若月さんを呼んだ。

「大丈夫ですか?」

 しかし、若月さんは俺の呼びかけに反応しなかった。何か様子がおかしい。

「若月さん、大丈夫ですか?」

 やはり反応しない。無言のまま歩き続けている。

 若月さんに追い付き、肩を叩くと、一瞬振り向くが、俺を認識したのかしていないのか、無関心な表情のまま先に進んでいく。

「若月さん」

 俺は大きい声をだして、腕を掴んだが、若月さんはその腕を振りほどいて前へ前へと歩いて行く。

 歩いて行く方向を見ていると、管理棟ではなく、発電棟に向かっているように思える。

 後から追い付いて来た田村が言う。

「どこにいくか、後を追ってみよう」

 俺は無言でうなずいた。

 若月さんは発電棟に入り、燃料保管庫の方へと移動していく。

 俺と田村も後追いで入室許可申請をして、追っていく。

 若月が工事現場である燃料保管庫に入ると、室内の建築資材が置いてある一画に進んだ。

 これ以上先に進むところはない。

「わか……」

 呼びかけようとするところを、田村が俺の口を押えて止めた。そして、口の前に指を立て『黙れ』と合図する。

 若月さんは資材を置いている棚に体重を掛けて、引っ張り、動かし始めた。

 壁との間にわずかな隙間が出来たと思うと、その棚の下の方の段に、寝転がるようにすべり込んだ。

「!」

 床の微妙な凹凸に足を取られてよろめき、俺は田村に寄りかかった。

「……」

 俺と田村は顔を見合わせた。

 俺たちが一瞬目を離した隙に、若月さんの姿を見失ってしまった。

「バカな」

 田村は声を出して、建築資材の並んでいる棚に進んだ。

 良く見ると若月さんが引っ張って少しずれているはずの棚が、きちんと壁に沿うように立っている。

 周囲に移動したことも考え、周りも一通り探すが、若月さんの姿は見えなかった。

 警備室に連絡して、発電棟に呼び出しの放送が流れ、滞在時間オーバーしている若月さんの捜索が行われた。

 発電棟に滞在できる時間制限もあって、俺と田村は、若月さんを見つけられないまま、発電棟を後にした。

 管理棟に戻ると、俺は田村の意見に負けて、監視カメラ映像をしらみつぶしに探していた。

 何も手がかりになる映像が見つからないまま、映像をチェックしているとふと気づいた。

「あれ?」

「……」

 田村が俺を睨む。

 俺は映像を戻したり進めたりして確認を続ける。

「おい。なにがあった」

「いえ、別に」

「いいから言ってみろ」

 俺は仕方なく田村に説明する。

「ここからここまでの時間の映像なんですが」

 俺はシステム管理画面から映像ファイルの容量を見せる。

「なんだこれは」

「映像のファイルサイズです。昨日の晩の映像のなかで、この時間帯だけ極端に小さい。他の日の同じ時間と比較しても、です」

「単純に圧縮が掛かりやすい映像だったのでは」

「細工されたとは考えられませんか。あるいは別に用意した映像ファイルにすり替えたとか」

「電力会社のネットワーク・セキュリティは完璧とは言わないが、悪くない。映像ファイルを差し替えるような大胆なことが出来るほど穴があるとは思えないし、そんなことをされたら、なんらか異常を検出しているだろう。聞いてみるか」

 田村は電力会社側に電話して、ネットワーク・セキュリティに問題がなかったかを確認する。

「今連絡した。差し替えることが出来なかったとしても、カメラ映像が変化しなければ圧縮率が高まって、ファイルサイズは小さくなるな」

 どうやってカメラ映像が変わらないようにしたかは不明だが、細工された可能性が高い。

 もっと長期的に時間帯ごとのファイルサイズを調べれば明確になるだろう。

 それよりも何のために映像に細工をしたのか。

 映ってはいけない『何かが映らないよう』にしたに違いない。

 つまり頬に傷のある外国人が夜中に原発の中に侵入した。頬に傷のある男とは決まっていないが、映らないように細工した時間帯に何者かが侵入したことは間違いないだろう。

「警察に」

 俺が言いかけると、田村はそれを制して言った。

「警察が被害もないのに調べるわけないだろう。男は何の為に入った? 儀式を完結する為? 金品を盗むため?」

 確かに動機が不明だ。中に入って何があるわけでもない。下手に入れば被曝して健康を損ねるだけだ。

「さっきの電力会社の若月の行方も気になる」

「我々が若月さんを見失った場所は、改修作業のエリアで、監視カメラが外されている場所です。だから若月さんを映像で探すことは出来ない」

「……他の映像ファイルのサイズが小さいカメラの位置を教えろ。昨晩通過した男は、そのカメラを順に通過しているはずだ」

 俺はサイズを確認しながら、カメラの位置を図面に記した。

 確かに今日若月さんを見失った辺りに行くつもりだった、と言ってもいいような軌跡が図面に現れた。

「もう一度、若月を見失った場所に入れないか」

「きょうは時間的に無理です」

 田村は時間を見て、納得したように思えた。

「……入管に電話して連中に話を聞こう。お前も来い」

「俺は仕事が……」

「原発のセキュリティに関わることが仕事なんだから、付いて来い」

 警備室長に言って俺は経産省の田村に同行することになった。

 入管とやり取りした結果、検挙した外国人たちは一部を除いて村のプレハブに戻っているということだった。

 田村は原発内の建築事務所にいる通訳と話しをつけて、三人でタクシーにのり、原子力発電所から村のプレハブへ向かった。

 タクシーを待機させ、俺たちはプレハブへ向かう。

 窓から俺たちを警戒するようにジロジロと見ている。

 室内は暗いようで、肌の黒い連中の表情は良く見えない。ただ白目がハッキリと見え、たくさんの視線だけが感じられた。

 俺はプレハブ内に入ったら、連中に殴り殺されるのではないかという恐怖に体がすくんだ。

 田村も、通訳も同じことを思ったのかはわからないが、プレハブの前まで来ると立ち止まった。

「君たちの代表者がいたら、ここに出てきてくれ。逮捕することはない。話がしたいだけだ…… 訳してくれ」

 通訳が、少し間をおいてから、大きな声で言った。

 声を聞くと、中から外国語が交わされるのが聞こえてきた。

 騒いでいるような声が治まると、プレハブから一人出てこちらに来た。

「代表者は入管から戻ってきていない。年長者だから代わりに話をする、と言っています」

 田村は通訳者の方は一切、見ずその出てきた男だけをじっと見ていた。

「頬に傷がある男がいるはずだ。どこに行った」

 通訳者が訳して伝え、年長者が答えて、通訳が言った。

「お前たちが病院に連れて行った。その後は知らない」

「昨晩病院からいなくなっている。男は原発に入ったと思われる」

 田村の言葉を翻訳して伝えると、プレハブの中がざわついた。

「そんなことは知らない」

「では、原発の中で行った儀式の意味を教えろ」

「神と対話する儀式だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「では聞く。原発の中に神が存在するのか」

 通訳がその言葉を翻訳して話した後、田村が通訳に言う。

「プレハブの中から聞こえる言葉を少しでもいいから訳せ。何故ざわついているのか、どんな雰囲気かもわからない」

「神とか地震という言葉を連呼していますね。彼らの宗教には詳しくないんで、それ以上のことは分かりかねます」

「神、地震……」

 結局、外国人たちは田村の言葉に答えなかった。

 田村は別のことを聞いた。

「地震と神は関係しているのか?」

 通訳が言うと、言葉より先にうなずいた。通訳が言う。

「地震は神が引き起こすものだ」

「……あの時の震度6の地震か」

 と田村がボソリと言った。

「!」

 あの地震が震度6だということを、なぜ田村は知っている。

 俺は後で何度調べても震度は3でしかなかった。

 あの時、船の上のように床が揺れて、立っているのも怖いくらいだった。あれが震度3のわけがない。

 俺は田村肩を引っ張って、振り向かせていた。

「おい。お前は、なんで震度6だって知っている。新聞やテレビ、どこを見ても震度3としか情報がないのに」

「逆にお前が震度6だと思っている根拠の方が問題だろう」

「取り込み中悪いんですが」

 と言って、通訳の者が俺の肩を叩いてきた。

「『年長者』が、あなたを知っていると言ってます。『監視者(ウォッチャー)』だと」

「俺を?」

「『監視者(ウォッチャー)』なら頬に傷がある男がどこに行ったのか知っているはずだと」

 田村も通訳も『年長者』も、プレハブの中の人間も、ここにいる全員が俺を見ている。

 俺は頭が混乱してきて、心臓の鼓動が激しくなってきた。

「何か知っているのか」

「『監視者(ウォッチャー)』とは神の行為を見届ける者を呼ぶと言っています」

「おい、何か言え」

「……」

 視野が暗く、暗転していくのを感じると、何も考えられなくなっていた。




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