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「え、動物の解体を見たい?
というか、やってみたい??」
朝食の席で、ヒロは聞き返した。
目の前には、先に食事をしていたコノハがモジモジと恥ずかしそうにしている。
昨夜、ヒロがこっそり1人で酒盛りをしたためか、キッチンには若干アルコールの残り香があった。
「はい」
とてもいい笑顔で、コノハが返してくる。
かと思ったら、彼女は紅茶を呷った。
その様も優雅に見えてしまうのだから、作法を叩き込まれた王族は凄いと思う。
「いやぁ、やめた方がいいと思いますよ?」
ヒロは直ぐに思い直すよう、言い含めた。
なぜなら、食育という名のもと実際生きてる動物を締めたり、またはその光景を見たりすると、その肉が食べられなくなってしまうというのはよくあることなのだ。
なにも、彼女がお姫様だからとか、女性だからとか、子供だからとかが理由ではない。
これには性別年齢は関係無いのだ。
実際、移民の知りあいは子供の頃実家で、鳩だったか鶏だったか、あるいは雉だったかを猟師の祖父がとって来て、目の前で締めるところから知り合いに見せたらしい。
その結果、知り合いは鶏肉が食べられなくなってしまったのだ。
根っからの農民、農耕士でもそうやって食べられなくなるのだ。
「そうですか」
しゅん、とコノハが悲しそうにする。
そんな彼女に、ヒロは疑問をぶつけた。
「しかし、何故いきなり解体に興味を持ったんですか?」
「いえ、その、先日の朝市に野菜を納品した時に」
「はい」
「クユリさんと少しお話しまして」
「あー、はいはい、してましたね」
「その時に鹿の臓物抜き動画を見せていただいたんです」
「何見せてんだあの野郎」
「実に興味深い動画でした」
そう話すコノハの目は、酒なんて入っていないはずなのに爛々と妖しく輝いているように見えた。
(サイコパスかよ、この姫様)
「こう、小さなナイフでまるでケーキでも切るようにスルッと腹を割いて、ぬるっと模型みたいに綺麗に内臓を抜いていたのがとても印象的でした」
「だから、自分でもやってみたいと思ったと?」
「はい!!
解体のやり方覚えたら、悪漢の口を割る時に脅しに使えるかなって」
「何言ってんですか?!」
「私、ヒロさんの元でお世話になって過ごすうちに、様々な働く女性の方とお話したんですね。
農業ギルドの受付のサチさん。農耕士の方。
中には狩猟をされている方もいて、捌いて食材になったものもみて、思ったんです。
私も、悪漢を捌いてみたい、と」
「捌いてどうするつもりですか?!
食べるつもりですか!?」
しかし、ヒロは気づいた。
どうにも様子がおかしすぎる。
コノハはこんなに饒舌では無かったはずである。
「おとぎ話の魔女じゃあるまいし。
しませんしません、そんなこと」
笑顔でそう言った彼女の足元で、ゴトン、と鈍い音がした。
見てみると、高級ブランデーの瓶が転がっている。
手をつけたばかりのようだ。
はて?
ブランデーなんて洒落た酒は、ヒロは飲まない。
飲めない訳では無い。
出されたら飲む。
なぜなら、この国ではヒロは成人で、合法的に酒が飲めるからだ。
しかし、この家に置いてあるのは清酒ばかりのはずだ。
「あ、バレちゃいましたねー。
うふふ、お父様が成人祝い代わりだって送ってくれたんですよー」
(朝っぱらから飲んだのか!?
毒味もなしに?!)
香り付けにブランデーを紅茶に入れるというのは聞いたことがある。
「子供の頃からあこがれてたんですよねぇ。紅茶にブランデー入れて飲むの。おいひいれふよ?」
「いやいやいや、これから仕事なのに何飲んでるんですか!!
あと、御家族からの贈り物でも、毒味せずに口にするなんて、なに考えてるんですか!!」
思わずヒロが叫ぶのと、彼女に酔いがまわって潰れるのは同時だった。
仕方ないので、部屋へ彼女を運ぶ。
完全に潰れていたので、抱っこすることになってしまった。
ベッドに寝かせて、退出する。
少しだけ、コノハを意識しないようにするのが大変だった。
無防備な同年代の女性。
あくまで仕事と割り切ってはいるが、全く意識するなと言う方が無理である。
心を落ち着かせようと、何気なく携帯を確認する。
すると、クユリから仕事を手伝ってほしいという旨のメッセージが入っていた。
急だが、午後に仕事を頼みたいらしい。
幸いにも畑も田んぼも午前中に終わらせられる仕事ばかりだ。
ヒロは受けることにした。
念の為に家の施錠を全て確認し、許嫁が設置してくれた防犯システムも確認する。
「大丈夫だな」
とりあえず、なにかあったらすぐ駆けつけられるシステムを、許嫁は設定してくれていた。
この三年、発動したことは無いが。
ヒロは、許嫁の仕事を信じていたので、安心して畑に出かけた。
そして、約三時間後。
帰宅したヒロに対して、真っ赤になりながら謝るコノハの姿があった。
「本当に申し訳ありませんでした」
「そうですね。仕事前の飲酒はやめた方がいい。
ですが、何故今日だったんですか?
なぜ、朝に飲んだんですか?」
「うう、私、ヒロさんも知ってるでしょう?
口下手で内気だから、思ってることって中々言えなくて。
口にしても、女性だから、子供だからってことで否定されてばかりで」
「ふむふむ。それで酒の力を借りようとした、と」
「お酒は、ほんのちょびっとお茶に垂らしただけなんです。
本当です。
その、飲んだら物凄く気持ちよくなって、なんでも出来る気がして。
だから、勢いに任せて興味のあった解体についておしえてもらおうと思って。
それと、怖かったんです。
知らない車がウロウロしてるって、このまえヒロさん仰ったじゃないですか。
だから、その怖いを少しでも楽しいに変えたかったんです」
まだ饒舌な所をみるに、酒が残っているのだろう。
「わかりました」
ヒロにも思うところはあったのだろう。
とくに、彼女が解体を覚えて、そのあとその技術をどこで使おうとしていたのか。
コノハはお姫様だ。
清濁併せ呑む、というのも大事なのだろうが、汚い仕事、特に実務は部下に任せればいいだろうに。
彼女は彼女なりに出来ることを増やしたかったのは、理解できた。
だから、
「午後からクユリに仕事の手伝いをしてくれ、と頼まれています。
狩りの仕事です。
とりあえず、まずは見学からでどうでしょう?
いきなり実技は、ハードルが高いと思うので」
気づいたら、そう提案していた。
「良いの、ですか?」
「ダメだったら、提案していませんよ」
コノハは、ヒロの言葉に驚いて、でもすぐに、笑って見せた。
酒が入っていなかったら、もっと魅力的だっただろうに、と思わなくは無かったが、それはそれである。
作中に出てきた、解体の様子を見たら肉が食えなくなったというエピソードは、身内の実話です。
動画等でも、それらは見ることが出来ますが、あまりおすすめはしません。
もし興味があり、観る場合は自己責任のもとお願いします。




