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「見慣れない車があるけど、ディケちゃんのとこのお客さんかい?」


 一輪車で、取れたばかりの玉ねぎを運んでいた時だ。

 自転車に乗った、ご近所さんの一人である中年女性がそう声をかけてきた。


「いいえ? 今日は客なんて来る予定ないですよ」


アルバイト(研修生)の子関係じゃないの?」


「違いますねぇ」


 そんな話があったら、事前にフェリオ伝手で王宮から連絡が来ているはずだ。


「それに、農業ギルドの車だったら車にエンブレムが描いてあると思うんですけど、ありました?」


「無かったねぇ」


 エンブレムがあったら一目瞭然だ。

 中年女性が気にとめたのは、いつもと違ったから。

 その()()()()()()()()()()()()()

 田舎というのは、見慣れないものに敏感だ。

 仮にちゃんと農業ギルドのエンブレムが描かれた車だったなら、それも秒速でその情報が拡散するだろう。

 それが田舎というものだ。

 そして、事情を知ってるかもしれない人間に、それとなく探りを入れるのもよくあることだ。

 この中年女性は、車の件を出しつつコノハの事を少しでも聞き出そうとしているのだ。

 聞き出せなかったら聞き出せなかったで、あること無いことを触れて回るのだろうけれど。

 噂は娯楽だ。

 田舎に住む、老害たちにとっての娯楽。


アンク王(王様)は、その辺理解してなさそうなんだよなぁ)


 情報が物を言うのは、特権階級、上級国民の世界だけではないのだ。

 もし、田舎のその辺の事情を理解していたなら、たかが二回国の危機とお姫様の危機を救った程度で国の宝である王女様を預けよう等とは考え中ったはずだ。


(つーか、ほんとどこの誰だよ?

 王様助けて妙な信頼得て、田舎の諸々を勘違いさせたやつ。

 見つけたら一発殴る)


 田舎とは、そんないい場所ではない。

 夢を見るのは勝手だが、ある種の理想郷扱いするのは本当にやめてほしい。

 中年女性との会話はほどほどで終了した。

 彼女もなんだかんだと忙しいのだ。

 念のために、ヒロは話に出てきた車を確認しようと考えた。

 中年女性の話から察するに、道に迷ったわけでも、おそらくドライブの途中での小休止でもなく、ずっと停車している、不審な車。

 その車がヒロの家の近くに停めてある。

 中年女性の話では、ドライバーは寝ていたように見えたらしい。


「防犯ブザーは使われてない、大丈夫か?」


 ヒロは そのまま家に戻った。

 中年女性の話していた車は、見つけられなかった。

 コノハは作業小屋と母屋繋ぐこれまた小さな小屋で、井戸水を使って大根を洗っているところだった。


「ただいま戻りました。なにか変わったことはありませんでしたか?」


「おかえりなさいヒロさん!

 えぇ、お客様もなかったですよ?

 あ、でも」


 言いつつ、コノハは大根を洗う手を止める。

 そして、乱雑に野菜が転がっている作業小屋へヒロを連れてきた。

 そこには、野菜だけではなく時期が来れば収穫した米を乾燥させる巨大な乾燥機が鎮座していた。

 その乾燥機と壁の間を覗くように言われる。


 言われたとおり、覗き込んだヒロは、見えた光景に頭を抱えることになった。


「お前、またここで産みやがったな」


 野良猫が子猫とともに密集していたのだった。

 家畜小屋の藁置き場でも別の猫が子猫を産んだばかりだったりする。

 ヒロの顔が見えたからか、コノハには警戒していた親猫の真っ黒な猫がトコトコと隙間をこちらに歩いてくる。

 そして、甘えた声で鳴いたのだった。

 まさに猫撫で声という、甘えた声だった。

 そして、ヒロの足に体をこすり付け、スリスリしてくる。


「うわぁ、可愛い」


 そういって、コノハが猫を撫でようかがんで手を伸ばすと、危険だと思ってまた隙間に戻っていってしまった。


「あらら、残念」


「仕方ないですよ。あいつアレでも野良ですから」


「ヒロさんにはなついているのに」


「そうでもないですよ。

 何回も去勢手術しようとしたんですけど、その度にアイツ逃げるんですよ。

 お陰で里親探しが毎年大変なんですよねぇ」


「飼ってるわけじゃないんですね」


「飼ってたらコノハ様がここに来た初日に紹介してますよ。

 あ、そうだ、一応伝えておきますね」


 猫の話題から一変、ヒロは不審な車についてコノハへ報告した。

 途端にコノハの顔が曇る。


「情報が洩れている可能性が考えられます。

 王宮の、いえ、お父様のアンク王にも個人的に報告をいれておきます」


「わかりました。よろしくお願いします」


 少しだけ暗くなった空気。

 そんな空気を読まず、こちらに寄ってくる存在があった。

 それは先程の黒猫が産んだ、子猫の1匹だった。

 恐る恐る、でも興味津々にコノハへ近寄ってきた。

 そして、黒猫と同じように、まるでコノハを気遣うようにその子猫は、彼女の足に体を擦り付けたのだった。

 コノハは慎重に子猫へ手を伸ばし、触れた。

 今度は逃げなかった。

 むしろ気持ちよさそうに、コノハに撫でられていた。

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