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それなりに会話ができると思っていた。
それこそ、早朝の仕事もあったし、少しだけコノハとは打ち解けられたかなぁとヒロは考えていたのだ。
しかし、昼食、夕食と一緒に過ごしたが会話が嘘のように弾まなかった。
振る話題が悪かったのか、彼女にとって嫌な質問をしたのか、どうにもよくわからなかった。
そうやって数日過ごしてみたが、早朝の野良作業時はともかくそれ以外ではあまり会話はうまくいかなかった。
もしかしたら、マナー的なもので話しかけること自体が迷惑だったのかもしれないと、ヒロは考え直した。
どこか、ミリオーネと同じように扱っていたというのもそうだ。
ミリオーネはよく喋る女の子だ。
ミリオーネだけではなく、農業ギルドの新人受付嬢サチだって話すことが好きなタイプだ。
こちらから話題を振っても振らなくても勝手に話してくるのが、この二人だった。
そのため、勝手にヒロは思いこんでいたのだ。
コノハもきっと、話すことが好きな子なのだろうと。
しかし、違った。
ヒロが振る話題によっては、とても困った顔をするのだ。
それを見て、ヒロも困ってしまう。
そんな日々が続いていた。
とは言っても、関係がぎくしゃくするということは無かった。
何故なら、
「登校日、ですか?」
コノハの言葉に、ヒロは聞き返した。
登校日のことも、事前に聞いていた。
「はい。明日は学院へ行く日なのです」
どこか申し訳なさそうに、コノハそう返してきた。
すぐに、ヒロの中でアンク王とのやり取りがよみがえる。
「あぁ、はい伺ってますよ。
では、明日車を」
言いかけて、思い出した。
この家には現在三台の車と、それ以外の農作業用の特殊な車が存在していた。
前者は軽自動車、軽トラ、大型トラックである。
後者は耕うん機等である。
普段、街へ出かける時は仕事でない限り軽自動車を使っている。
しかし、ちょうど車検に出していた。
どうせ軽トラがあるから、といつもの癖で代車を断っていたのが運の尽きだった。
返ってくるのは、明日である。
なによりも、早朝の仕事と朝市の納品のこともある。
仮に軽自動車が車検に出していなかったとしても、軽トラで送迎することになっていただろう。
そのことを申し訳なさそうにコノハへ説明すると、彼女はどこか楽しそうに微笑んで、
「構いませんよ。軽トラで送迎してくださいな」
なんて言ってきた。
変わったお姫様である。
***
「知人に頼まれて、その知人の子を送迎して今帰るところです」
翌日。
コノハを送迎した後のことだ。
女学院周辺で、あまり見かけない不審車両が停車している、そんな通報を受けた警察がやってきて、ヒロに職質をしたのである。
そういえば、職質にもレベルというかそういうのがあるらしいと聞いたことがあった。
任意同行を求められていないから、あくまで変な人でないかの確認なのだろう。
免許証と、農業ギルドと冒険者ギルド、それぞれで発行してもらった身分証、軽トラの車検証を見せて、聞かれたことに対して素直に答える。
今までの経験上、反抗的な態度をとっても逆効果であることをヒロは知っていた。
警察官の方も、ヒロの協力的な態度と、なんなら送迎した生徒の親御さんに連絡をとってもらって構わない、と予めアンク王から渡されていた連絡先を教えようとする行動に納得したのか、それ以上の追求は無かった。
むしろ、
「こっちもね、通報があったからには動かなきゃいけなくてねぇ。
これから通勤通学のラッシュのピークだから、最近事故も多いから、気をつけて帰るんだよ」
そう言われた。
「はい、お気遣いありがとうございます」
そんな感じでその場は終わった。
帰宅して、普段のルーティンをこなす。
午後にはひと段落ついたので、久しぶりに掲示板を見に行ってみた。
この数日のことを誰かに聞いてもらいたかったのである。
この際だし、とヒロは自分でスレ立てをしてみた。
フェイクをいれつつ、おもしろおかしくコノハとの日常を書き込んで、会話が中々弾まないこと等を相談してみた。
駄目元ではあったが、意外にも有益な情報というか助言を得ることができた。
「なるほど、ホットケーキか」
子育てをしているママさんからの助言だった。
ホットプレートを使って一緒にお菓子作りでもしたらどうか、という内容の助言だった。
近々やってみようと思った。
というより、善は急げ、思い立ったが吉日というやつで、さっそく翌日のティータイムにやってみた。
スーパーで買ってきた素を使って生地を作り、一緒に焼いて食べた。
その工程を、コノハも楽しんでくれているように見えた。
「あ、そうだ。コノハ様、市販のものと比べると色は少し悪いですけど。
いちごジャム、使います?」
そういって、自家製のいちごジャムを冷蔵庫から取り出す。
色が悪いのは劣化のためではなく、純粋にイチゴと砂糖しか使っていないからだ。
市販の物より黒い、というか暗い色をしているジャムだった。
ヒロが先に、自分のホットケーキに塗って食べて見せた。
美味しそうに食べるヒロを見て、コノハもそれに倣う。
色はともかく、普通のいちごジャムだった。
というより、添加物が入っていないぶん純粋なイチゴの味を楽しめた。
「美味しい」
「砂糖代わりに紅茶に入れても美味しいですよ。
本来は舐めながら飲むらしいですけど。
ミリオーネ、あ、許嫁の子がこの飲み方が好きで、他にも色々ジャムを作ってストックしてるんですよ」
「へぇ、仲がいいんですね」
「将来、尻に敷かれるのは目に見えてますけど。
そうですね、彼女とはずっと仲良くしていきたいと思っています」
「ふふふ、ちょっと会ってみたくなりました。
ヒロさんの許嫁の方に」
その言葉に、ヒロは思った。
(そういえば、アイツも一応お姫様と言えなくもないんだよなぁ。
魔王の娘だし)
とりあえず、掲示板での助言はとても役にたった。
この際だし、とヒロは少し突っ込んだことを訊ねてみた。
「そういえばコノハ様の好きな食べ物ってなんですか?
王宮のシェフにはかなり負けるのは重々承知ですが、今度作りますよ?」
すると、コノハは嬉しそうに答えてくれた。
彼女の好物は、ふわふわとろとろのオムレツだった。




