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「ヒィちゃん、相変わらず容赦ない蹴りだな」
青年が復活し、馴れ馴れしくヒロに言ってくる。
「ヒィちゃん言うな」
「なんだよ~。マブダチじゃんかよ~」
寂しいこと言うなよ~、と青年は泣き顔である。
聞きなれない言葉に、コノハが首を傾げる。
「マブ……?」
「親友って意味だよ、新人ちゃん。
あ、俺の名前、クユリね。よろしく」
クユリの言葉に、ヒロが訂正を入れる。
「ゴブリンに捕まって丸焼きにされそうになってた所を助けてから、絡まれるようになっただけの関係です」
「なぜそのような事態に??」
これにはクユリが答えてくれた。
「あー、元々俺、師匠とあちこち旅してたんだけどね。
その師匠が卒業試験だって言って、ゴブリンの巣に放り込まれちゃって。
いきなり過ぎて、捕まっちゃったんだよ。
もうゴブリンの餌になるか、って諦めてたとこにヒィちゃんが来て助けてくれたってわけ。
ヒィちゃん、人助けるのが好きだからさ」
「お師匠様、ですか」
「そ、名前聞いてわかるかなぁ?
今から十五年前の大災害、知ってる??
その時に活躍した英雄エルリー、大聖女エルリーって言った方がわかりやすいかな?
俺の師匠なんだよねぇ。
大災害の時、当時俺十歳でさ。師匠の言いつけで怪我人とか治療してたんだ」
「え?!」
「お、その反応いいねいいね。知ってるって顔だ。
ヒィちゃんはその辺の反応淡白でねぇ」
それは仕方ないことだった。
何故なら彼は移民で、元々この国には住んで居なかったのだから。
「えぇ、とてもよく知ってます。
大聖女エルリー。
蘇った魔神の軍団を仲間ともに封印した現代の英雄ですね。
その時の功績が評価されて大聖女の称号を与えられ、そう呼ばれるようになった、と聞いています」
「そーそー、それで合ってるよ」
ちなみに大災害とは、この魔神復活による一連のゴタゴタの総称である。
そのため、数年前の邪龍復活とそれに関わる天災のことを災害と呼称し区別している。
「ただねぇ、師匠は最初、聖女の称号を拒んだんだよ。
なにせ、仲間が二人犠牲になったから」
そこで、クユリは何故かチラリと興味なさげにしているヒロを見た。
しかし、すぐにコノハへ視線をもどして続けた。
「犠牲になった二人とは学生時代からの友人だったんだってさ。
それも、片方は初恋の人だったって言うんだから、ほんと驚いたよ。
それでしばらく落ち込んでたなぁ、師匠。
懐かしい」
「凄いひとのお弟子さんなんですねぇ」
「そーそー、もっと褒めていいんだよ?」
なんていうコノハとクユリのやり取りをみて、ヒロは盛大に溜息を吐き出した。
「ならなんで農業なんてやってんだよ?」
言外に、そんな凄い人の弟子なら、肩書きだけで食べていけるだろと言っている。
「んー。なんとなく?
いや、半分はヒィちゃんの影響なんだけど。
それに、俺の場合兼業農家だし。
むしろ、野菜育てるのが副業で、本業は魔物を討伐する冒険者稼業がメインだし」
ヒロに答えつつ、コノハにも説明を忘れない。
「ヒィちゃんには時々、その仕事も手伝ってもらってるしねぇ。
ただ、ヒィちゃんは魔物と動物の区別がついてないのが玉に瑕なんだよ」
クユリの言葉を受けて、コノハはヒロを見た。
ヒロは疲れたように息を吐き出し、頭を怠そうに掻きながら、コノハへ説明した。
「覚える気が無いんで、みんな同じに見えるんです。
いまだに蛇と龍の違いが分からない程度には、覚える気無いんです」
それを聞いたコノハは、冗談だと思ったらしく無邪気に笑ったのだった。
さて、そんなこんなで朝市から戻ると、先にコノハへ、冷蔵庫と電子レンジに入れておいた朝食の場所を説明する。
「米はジャーに入ってるし、スープは自分で温め直して食べてください。
オカズは電子レンジと冷蔵庫にあります。
昨日の残り物で恐縮ですが、これも食べる時に出してください」
「分かりました。あの、ヒロさんは食べないのですか?
シャワーは??」
「これから牛の世話があるんですよ。
まずはアイツらにもご飯を食べさせなきゃなんで。
風呂も朝ごはんもそれからです。
毒が心配なら、そこの戸棚に缶詰と未開封のパンもありますので。
あ、そうだ多分大丈夫だと思いますが」
そう前置きして、ヒロは自分の部屋へ行き何かを取ってくる。
それは、防犯ブザーだった。
「何かあったらこれを使ってください。
最新式の防犯ブザーです。
どこに居ても、飛んできますから」
なんて言って、ヒロは出かけていった。
コノハは防犯ブザーを受け取って、ヒロを見送る。
それから、着替えをとってきてシャワーへ向かった。
体を洗い流しながら、初めてなことだらけだったこの数時間の出来事を思い返す。
身体中泥だらけになったのも、あんなに大きなカエルに飛びかかられたのも、初めてだった。
農家への視察にも行ったことがあるけれど、収穫はともかく草刈りなんてやったことが無かった。
収穫した野菜を農業ギルドに卸に行くのも初めてだった。
初めての経験だらけで、疲れた。
でも、公務とは違う仕事を本格的に経験できるのは、こんな状況だと言うのに楽しい。
それに、
「ヒロさん、優しいなぁ」
今まで接してきたどの貴族の令息とも違う。
そう、どちらかと言うと、
「お父様、みたい」
アンク王に少しだけ似ているように、感じたのだ。
もちろん外見も雰囲気も、性格も、何もかもが違う。
けれど、ただ一点。
接し方が、アンク王と同じように感じたのだ。
どこがどう、と聞かれると説明に困ってしまう。
そんな感覚的なものだ。
けれど、ここなら安心出来る、そう思えたのだった。




