笑顔
随分と長引かせてすみません
祝勝会なんて何をするのかとか全然分からないし浮かばないしで……とりあえず未来に丸投げしました
勇輝は主役として祝勝会に参加する。
となれば当然、着飾る必要が出てくる。
なので、女性陣が風呂で身を清めに行ったすぐ後に王城に勤めるメイド部隊が颯爽と現れ、あれよあれよという間に着替えさせられ、あーでもない、こーでもないと、着せ替え人形になった。
その結果選出された服を着てようやく祝勝会に出席できるようになる。
かかった時間は50分ほど。
女の子達が身嗜みを整えるのに時間がかかるのでまだ余裕があったが、勇輝本人の希望により50分ほどで済んだ。
もっとも、その50分ほどでも勇輝は疲れてしまっていたが。
そうした経緯の後に、勇輝は祝勝会へと赴く。
ちなみに、雪羅と琥珀は勇輝のその50分ほどの間、勇輝の生着替えをこれでもかというほど堪能していた。
「主人殿と湯殿を共にしたが、これはこれでまた違った趣があって……大変良いものじゃな。」
「そうですね。………ところで、お風呂を共にしたという話をもう少し詳しく……。」
「よかろう。まず、主人殿の肌じゃが、長い事療養しておったせいか日焼けもなく、きめ細やかで透き通るような肌をしておっての、それがなんとも言えぬ色気を放ち、胸元にある黒子がその白さの中で際立ち妖艶さを醸し出しておっての、それが湯に濡れてより一層魅力が増しておった。」
「おお……。それで?」
「うむ。それでな、その華奢な体には無駄な毛は一切存在しておらぬ。それがなおの事肌の白さを強調しておる。さらにしっとりと濡れた髪艶が……」
勇輝くん逃げてー!
ここに2人の変態妖怪がいるよ!
今すぐ逃げてー!
◇
変態妖怪に気づかなかった勇輝君は今から……出番を待たされていた。
祝勝会なのだから立役者である勇輝が最後になるのは当たり前。
その為に待たされているのだが、この国の王であるリリアに貴族の娘アリス、そしてもう1人の勇者である葵。
その3人の着替えが長くてずっと待ちぼうけしている。
「……まだかな?」
勇輝の着せ替えが終わってからさらに30分程経った頃、漸く3人が到着した。
会場はすでに盛り上がっており、主役たる勇輝、そして姫王様であるリリアが現れるのを今か今かと待ちわびていた。
そして遂に現れた3人は控えめに言ってとても可愛かった。
もちろんそれは控えめなので、実際はドレスやアクセサリー、そしてパーティー用に整えられた髪が3人の魅力を遺憾なく、いや、それ以上に発揮させていた。
そんな3人を見たものだから勇輝はポーッと熱に浮かされたような表情をして固まってしまう。
家族、医師、看護師、患者とばかり接していた勇輝にとってパーティーに参加するような人間と会ったことはない。
その為に一際眩しく映る。
そんな隙だらけの勇輝に対して3人は素早く行動をする。
まず葵が左手側に回り込みその腕に抱きつき、リリアは右手側に回り込む。
そしてアリスは勇輝の一歩後ろにぴったりと。
あっという間に挟まれてしまった勇輝は戸惑うが、そんなものは関係ないとばかりに3人はさっさと移動を開始する。
となれば当然、挟まれている勇輝も一緒に歩かざるを得ない。
「え、ちょっ、何!?」
「さ、行きますわよ、ユウキ様。」
「ほら、早く行こ、ゆー君。」
美少女3人に連行されながら勇輝は祝勝会会場へと向かう。
所で、今や一国の王たるリリアが異性と親しげに腕を組むということがどういうことか……それが意味する事を勇輝は全く察する事が出来ていないが、その答えは会場に入ったことで判明する。
「「「ウォォォォォォォォォォ!!!」」」
「姫王様バンザーイ!」
「勇者様バンザーイ!」
「おい、勇者様と姫王様が腕組んでんぞ!」
「ああ、これでこの国は安泰だ!」
「俺、本気でリリアーナ様の事好きだったのに……。」
「叶うわけないだろうに……。とにかく今は飲め、そんで忘れろ。な?」
とまあ、こんな感じになるわけだ。
昨日のこともあって分かりきってはいたし、こうして一国の王が異性と親しげにしているのだから、そう考えるのが自然である。
「え、何!? なんなの!?」
………訂正。
どうやら分からなかったようである。
恐らく入院生活が長すぎてそういう事には鈍いのだろう。
歓喜に沸く参加者達に向けてリリアがスッと手を上げればシンっと一気に静まる。
それに対して満足そうにリリアは頷き、参加者達は期待したような目を向ける。
ある程度盛り上がっていたが、これからが本番。
彼等はその開始の言葉を期待しているのだ。
「皆、これまでよく頑張ってくれた! この国がラベスタ帝国の脅威に晒され眠れぬ日を過ごした者もいるだろう! しかし、それも今日限りだ! 我等が勇者が悪しき帝国を打ち倒し、この国に平和をもたらした!」
ここでメイドからお酒の入ったグラスを受け取る。
そして天まで届けと言わんばかりに上へと掲げた。
「盃を掲げよ! 今こそ、勝利の美酒に酔う時だ!」
「「「おおーーー!!」」」
「勇者様に、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
宴は始まった。
リリアは無礼講だとは言わなかった。
しかしそんなことは関係なく、騎士だろうが、貴族だろうが、メイドだろうが、男だろうが女だろうが、身分も性別も関係なく、皆笑顔で今ある生を噛み締めていた。
勇輝も手渡されたグラス片手にその光景を眺める。
そんな勇輝の元に1人の少女が声をかける。
葵だ。
「どうしたの、ぼーっとして。」
「いや、うん。なんか、凄いなぁって。一騎打ちに……戦争に勝ったのは実感できたけどさ、でも、それは勝ったってだけで、ここまで凄いものだとは思えなかったんだよね。」
「まあ、ずっとアリスの家に居たからね。そう思えなくても仕方ないかもね。私もそうだし。でもね、ゆー君。これは全部、ゆー君のお陰なんだよ。ゆー君が居たから一騎打ちに持ち込めた。ゆー君が居たから一騎打ちを引き分けにできた。ゆー君が居たから勝つことが出来た。全部全部ゆー君のお陰なんだよ。」
「そう……かな?」
「そうだよ。ほら、リリアもアリスも待ってるし、早く行こ。」
「うわっ! ちょ、引っ張らないでー。」
葵は勇輝の手を引っ張り駆け出していく。
今宵は祝勝会。
老若男女問わず皆が笑顔を浮かべている。
それはとても幸せな光景であった。




