ユピティック・ペーパーズ《木星文書》③『一つの指輪《ワン・リング》』作戦
◇チャプター4・『一つの指輪』作戦
最初のの発射から約30時間後――。
SSDF第四艦隊・木星防衛艦隊〈ベル・マルドゥク〉は、テューラ作戦指令率いるVS艦隊の主導の下、〈リバイアサン・グォイド〉攻略及び、グォイド・スフィア弾発射阻止作戦――『一つの指輪』作戦を開始した。
グォイドとの木星での戦いは、事ここに至るまで人類はグォイドに常に一歩先んじられてきたが、一点だけグォイドを出し抜けた部分があった。
木星UVキャノンの最初の発射から、木星圏の大部分のSSDFの艦艇・施設が被害を受けることを免れ、温存できただけでなく、木星UVキャノンによって木星圏SSDFが掃討されたことを擬装できたことだ。
つまり木星に巣食うグォイドは、木星圏のSSDFが被害はあれども健在であることを知らない……それが数少ない勝算であった。
作戦は三段階の攻撃により行われた。
大赤斑外周部内壁のガス雲に潜伏し、〈リバイアサン・グォイド〉を監視中の〈ナガラジャ〉からの位置情報を元に、まずガニメデの影に隠した実体弾投射艦部隊が、大赤斑斜め上方から砲撃第一波を開始。
ガニメデと木星の重力を利用し、ガニメデに隠れたまま曲射をすることで、木星UVキャノンに発射元であるガニメデを攻撃させず(ガニメデを破壊すると後のグォイド・スフィア弾発射の障害物となるためグォイドはガニメデを撃てない)に〈リバイアサン・グォイド〉を攻撃、〈リバイアサン・グォイド〉にはその実体弾の迎撃のみに集中させる。
ほぼ真上からくる実体弾群迎撃中の〈リバイアサン・グォイド〉に対し、続いて大赤斑周囲の雲海表層から接近した実体弾投射砲部隊が、木星ガス水平線の影から砲撃第二波を開始。
一度に二か所に迎撃はできない〈リバイアサン・グォイド〉は、水平方向からの実体弾に対処ができず、これをUVシールドで受け止める他ない状況に追い込む。
さらに大赤斑周囲の実体弾投射方部隊の後方から、かき集められたUV弾頭ミサイル搭載艦艇より、発射され飛翔中だったミサイル群が〈リバイアサン・グォイド〉に殺到。
同グォイドのUVシールドを貫徹し、とどめを刺す……はずであった。
テューラ司令が参謀陣や戦術AIなどの意見を加味し、立案したこの作戦は、ほぼ予定通りに進み、〈リバイアサン・グォイド〉に目標以上の命中弾を与えることに成功した。
だがこの段階ではダメージこそ与えられたものの、まだ同グォイドの殲滅を果たすことはできなかった。
重力を利用した曲射を行ったため、実体弾の弾速が落ち、破壊力が減じてしまったこと。
〈リバイアサン・グォイド〉のUVシールドが思いのほか堅固であり、また同グォイドが巨大過ぎたため、命中したUV弾頭ミサイルのダメージが分散してしまったことが、殲滅に至らなかった理由と考えられる。
『一つの指輪』作戦の最初の攻撃は失敗に終わった。
だが〈リバイアサン・グォイド〉を撃破し損ねただけでは済まされなかった。
『一つの指輪』作戦実行部隊に対する〈リバイアサン・グォイド〉の反撃が始まったのだ。
ガニメデの影に潜む艦隊への木星UVキャノンによる攻撃はできなかったが、大赤斑の周囲ガス雲表層から攻撃してきた艦隊へは、〈リバイアサン・グォイド〉が高度を下げた上で木星UVキャノンを偏向することで、ガス雲ごと貫いて発射することが可能だったのである。
ガス雲越しの砲撃は、正確な照準など不可能であったが、実体弾砲撃の位置から逆算して放たれた木星UVキャノンは、ヒット&アウェイで移動中のSSDF艦艇にとって、命中せずとも、大爆発したガス大気の衝撃波により、大赤斑周囲の木星表層部に潜む艦隊に甚大なダメージを与えるのに充分であった。
成功に思われた木星圏SSDFによる〈リバイアサン・グォイド〉への攻撃は、一転SSDF側の窮地へと変容した。
正確に狙ったわけではなくとも、大赤斑下層より〈リバイアサン・グォイド〉の放つ木星UVキャノンは、ガス大気に発生させた衝撃波によって、一隻また一隻と『一つの指輪』作戦・木星表層部攻撃艦隊の艦艇を確実に沈めていった。
座して事態が好転することはないと判断したテューラ作戦指令は、すぐに新たな攻撃に打ってでた。
切っ掛けは、〈ナガラジャ〉より送られてくる現在
の〈リバイアサン・グォイド〉の映像を分析した結果、リング状となり、高速回転することで真円を維持している同グォイドの回転軸が、僅かにズレていることが発見されたことであった。
無数の巨大棒状船体を、幾本ものワイヤーで繋げることでリング状となっている〈リバイアサン・グォイド〉であったが、その棒状船体の一つが損傷を受けた結果、重心バランスが崩れ、回転に乱れが生じたのだ。
〈リバイアサン・グォイド〉は、これまでの攻撃で決してダメージを受けていないわけではない……それがテューラ作戦指令による〈リバイアサン・グォイド〉再攻略のヒントとなった。
先の攻撃により、すでにダメージを負っている〈リバイアサン・グォイド〉の棒状船体の一つに、続けて攻撃を集中させることができれば、たとえ完全な破壊が叶わずとも、船体全体のバランスが崩れ、高速回転による真円のリング状形態が維持できず、〈リバイアサン・グォイド〉は勝手に崩壊するはずだ。
それが無理でも、木星UVキャノンを偏向させることが不可能になるはずだ。
これがテューラ作戦指令の見出した勝算であった。
もちろん高速回転中の数ある棒状船体の一つに対し、命中弾を集中させるなど不可能なはずであった…………常識的には。
だが今、大赤斑の外縁部には〈リバイアサン・グォイド〉を監視中のVS‐805〈ナガラジャ〉がいた。
木星のもつガニメデをはじめとしたガリレオ四大衛星の影から、再び実体弾の曲射砲撃が開始された。
目的は前回と変わらず、〈リバイアサン・グォイド〉を真上方向への迎撃に集中させるためだ。
その上で、大赤斑周囲のガス雲表層に潜伏中だったSSDF『一つの指輪』作戦・木星表層部攻撃艦隊の残存実体弾投射艦は、再び〈リバイアサン・グォイド〉への水平方向からの実体弾砲撃を試みることになる。
ただし今回は、スマート・ブリッドと呼ばれる発射後に若干の誘導が可能な弾体を用いてだ。
スマート《賢い》・ブリッドは一隻につき数発しか搭載されず、非常に使いどころの難しい弾体であったが、この特殊弾と〈ナガラジャ〉の【ANESYS】を合わせれば、着弾地点を正確無比にコントロールでき、〈リバイアサン・グォイド〉のダメージ部分にピンポイントで命中させることが可能なはずであった。
が、人類は半歩出遅れた
ガリレオ四大衛星からの陽動実体弾が〈リバイアサン・グォイド〉直上に達し、迎撃の開始が予測された正にその時、同グォイドのリングを潜り、穴と化した大赤斑の底から、約150隻もの軽駆逐艦サイズのグォイド艦が射出されたのだ。
その軽駆逐艦級グォイドについて、木星上空作戦指揮所はそれが【ザ・トーラス】内のグォイド・スフィア弾で生産されたものだという情報を、すでに〈じんりゅう〉から送られたデータにより把握していた。
そしてそれが今放たれた理由も、すぐに推測がついた。
大赤斑周囲に潜伏したSSDF攻撃艦隊を狙って放たれたことは明白であった。
大赤斑より出現した軽駆逐艦級グォイド=以後レギオン・グォイドは、その半数が、囮実体弾に真正面から突っ込み破壊されたが、残る半分は大赤斑周囲に散り、SSDF攻撃艦隊に襲い掛かった。
テューラ作戦指令は即座に『一つの指輪』作戦第二号の実施を命じた。
指令を受けた〈ナガラジャ〉はただちに【ANESYS】を起動、大赤斑周囲でレギオン・グォイドの襲撃を受けている最中の実体弾投射砲艦に、スマート・ブリッドを発射させた。
それらは飛翔しながら【ANESYS】の超高速情報処理能力により精密誘導され、真上からの陽動実体弾砲撃を迎撃中の〈リバイアサン・グォイド〉の、ダメージ部分に集中して着弾した。
が、僅かに足りなかった。
レギオン・グォイドの襲撃を受けながら、スマート・ブリッドを放つことができた実体弾投射砲艦が、当初の想定より少なかったからだ。
さらに真上からの陽動実体弾攻撃が、スマート・ブリッド群の半数が着弾した時点で尽きたという要因もあった。
陽動実体弾の迎撃の必要が無くなった〈リバイアサン・グォイド〉は、リング状の船体をくねらせることで、残りのスマート・ブリッドを回避してしまったのだ。
『一つの指輪』作戦第二号では、〈リバイアサン・グォイド〉撃破にはいたらなかった。
だが〈ナガラジャ〉の【ANESYS】統合思考他体は諦めなかった。
『一つの指輪』作戦第二号は〈リバイアサン・グォイド〉の撃破には至らなかった。
が、〈ナガラジャ〉の【ANESYS】の思考統合時間限界までには、まだ幾ばくかの猶予が残されていた。
〈ナガラジャ〉クルーの統合された思考は、その残された時間を、〈リバイアサン・グォイド〉と〈ナガラジャ〉との一対一の戦いに使うことに決めたのであった。
〈ナガラジャ〉は砲口となった大赤斑中心に居座る〈リバイアサン・グォイド〉のさらに下方から、急上昇急接近し、UVワイヤーを用いた必殺の超近接斬撃スターピーラー攻撃を慣行した。
だが、結果的にこの攻撃をもってしても、同グォイドに対し追加ダメージを与えれども撃破は叶わなかった。
が、それで充分であった。
スターピーラー攻撃が失敗し、大赤斑上空から離脱を図る〈ナガラジャ〉に対し、〈リバイアサン・グォイド〉が最後に放とうとした木星UVキャノンが引き金となった。
一部分に集中攻撃を受けた同グォイドのダメージ部が、木星UVキャノンを偏向させる際の負荷に耐え切れなかったのだ。
リング状だった〈リバイアサン・グォイド〉は、一部分から引きちぎれ、己の同胞の放つ武装によって爆発四散していった。
こうして木星UVキャノンの砲口を守るグォイドは退場した。
射角が大きく減じられた木星UVキャノン砲口たる大赤斑に対し、SSDF攻撃艦隊は容易く接近できるようになったはずであった。
が、戦いはまだ終わらなかった。
大赤斑より現れたレギオン・グォイドとの戦いがまだ続いていたのだ。
そして、SSDFに残された時間も、もうわずかとなっていた。
太陽系の各惑星の配置と、木星の公転自転の位置から、グォイド・スフィア弾の目標が地球であり、間もなく発射するのに最適なタイミングとなることが分かっていたからだ。
というわけで木星文書③をお送りいたします。
自分自身がEP3でこんなこと書いてたんだ……と他人事……じゃなかった客観視できたり出来なかったり……。
この試みが有意義であることを願って描き続けております。
質問ご指摘リクエストなどなどお待ちしております。




