表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/50

第7話 必死で生きようとしている

 その日の午後、キャンプ場の中央に置かれた小さなラジオから、突然、緊急通報の音が響いた。


『──全国の皆さまに緊急のお知らせです』


 その声だけで、休憩エリアにいた人たちの空気がピンと張りつめる。


『現在、各地で原因不明の感染症が確認されています。罹患した場合、意識障害を起こし、錯乱状態になる可能性があります──』


「……」


 誰もが息を呑んだ。


 昨日からSNSに流れていた土気色の顔、白目を剥き、涎を垂らして暴れ回る“あの動画”。

 あれは、フェイクでもデマでもなかった。


『政府は自衛隊を派遣し、事態の鎮圧に当たります。国民の皆様は外出を控え、安全確保に努めてください』


 安全確保といわれても、ここは人里離れた山中。

 下りの道は塞がれている。

 外出を控えろと言われても、そもそも帰れない。


 キャンプ場全体が、不安のざわめきに包まれた。


 ……


 急遽、ここに残るか下山を試みるかの話し合いが行われ、意見は真っ二つに分かれた。

 結局、二手に別れることで皆が納得。

 歩いて下山する人々と、キャンプ場に残って救助を待つ人々。


「お兄ちゃん……どうしよ」


「んーー……」


 兄は腕を組み、真剣な顔で考え込んだ。

 その姿が逆に茜を不安にさせる。


「……残ろう。今のところ、ここは安全だし。食料も二、三日ならなんとかなる」


「……うん。私も、それでいい」


 二人は残る決断をした。


 家族連れの中には、父親だけが街へ様子を見に行き、母子は残ると決めた人たちもいた。

 泣きじゃくる子どもを宥め、頭を撫でながら出発していく父親の姿が、茜の胸を締めつけた。


 下山組を見送ったあと、残った人々で物資の確認が始まる。

 老夫婦の旦那さんが、落ち着いた声で自然と全体をまとめていく。


「あくまでも、個々の都合は尊重します。無理に物資を出す必要はありません。ただ……出来る範囲で助け合いましょう。一人ではどうしようもない事も、二人、三人なら何とかなるものですから」


 その姿には不思議な説得力があった。

 大企業の役員経験があると後で聞いて、茜は妙に納得した。


 皆が賛同して、慣れたキャンパーたちが話し合いで案を出して行く。

 薪と燃料は節約し、料理はまとめて調理してロスを減らす。

 夜は皆で中央のスペースに集まり、互いに様子を見守る。


 皆不安は感じつつも、笑顔で声を掛け合い、淡々と夜に備えた。


 夕食は皆で輪になって食べた。

 不安はあったものの、心強い仲間たちに守られているような安心感があった。



 ◇ ◇ ◇



 そして、翌朝──。


 テントから出てきた茜は、空へ向けてスマホを掲げる大人たちの姿を見た。


「……通話、全滅だ」

「メッセージも……エラーばっかり」

「ネットも繋がらない……」


 電波は“ある”。

 だが、どことも繋がらない。


 ラジオも砂嵐のような雑音しか流れない……。


 皆の表情が、一気に青ざめていく。


 そんな中──

 ふいに元気な声がキャンプ場へ響いた。


「ただいま戻りましたー!」


 早朝から釣りに行ったという二人の男性キャンパーが、笑顔で戻ってきたのだ。


 手にはバケツ。

 子どもたちが駆け寄り、その中を覗き込む。


「お魚だ!!」

「わぁぁ……!」


 生きの良い魚が、バシャバシャと跳ねている。


 その様子に、一瞬、沈んでいた空気が明るさを取り戻す。


「じゃあ私も」


 熟練ぽい女性キャンパーたちが近くの林へ入り、野草や木の実を抱えて戻ってきた。


「この辺、食べられるもの結構あるのよ。誰か、油持ってる?」


 人々にざわめきが戻り、笑い声すら聞こえる。


 不安はある。正直に言って、怖い。

 けれど、皆──必死で生きようとしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ