第43話 悪 魔 ~純粋、故に悪~
庄野は拳銃に手をかける。
少女はクスクスと笑っている。
どこにでもいる小学生にしか見えない女の子、そんな印象しか持てない。強いて言うなら他とは秀でてるほど整った顔で可憐な少女が笑っている。
「・・・何の目的でここにいるんだ?」
「んー?ちょっと知りたいことがあってぇ?ねぇ、この前私が恐怖を与えた女の人、連れてきて?」
「理由は?」
「んーとね、私が使う魔法で死ななかった人が初めてだから!」
庄野の表情が変わる。
「・・・は?」
「私の魔法はー、解除できないの!だからみんな死んじゃうのに、生きてるから、見せてほしいの。でね!その人の脳ミソを研究して、絶対に解除できない魔法にするんだよ!凄いでしょ!」
(・・・無邪気。その一言しか出てこない。悪気は無い。しかし、まともな思考ではない。)
「それは凄いことじゃない。今すぐにでも・・・。」
「凄いことだよ!まおーさまは褒めてくれたもん!私の魔法は凄いんだよ?!それがわからないおにぃさんは嫌いだから、恐怖をあげる!」
少女は庄野の額に手をあてる。
「ぐっッ・・・!」
「あははっ!もうダメだねー、さようなら!」
(・・・過去の怖かった出来事が、洪水のように流れてくる・・・。子供の頃から今に至るまでの恐怖・・・。
・・・
・・・これが恐怖。そう、恐怖だ。
確かに・・・耐え難いものだ・・・。だが、過去に振り回されるほど俺は愚かじゃない。俺は、前に進まなければならないんだ!)
庄野は心の奥で強く決心した。
前だけを見ると、振り返ることはしない、と。
[『スキル:決して折れない心』発動]
「・・・はぁ、はぁ。・・・ふぅ。訂正するよ、凄い魔法だ。」
「へ?何で・・・平気なの?すっごく怖いでしょ?何で・・・?」
今度は少女の顔が強ばっていく。
「平気じゃない、効いたよ。だが、もうやめるんだ。これ以上やるなら、俺は君をこ」
「嘘だ!効かないわけ無いもん!私の魔法は!私の『恐怖』は絶対なんだもん!」
何度も庄野の頭に魔法を撃ち込むが1秒もしないで庄野は元通りになる。
庄野本人も理解していない、この世界では使えないとされるスキル、『決して折れない心』によって精神的に追い詰めても敵わないことを互いに理解していないのだ。
「なぁぁぁんでぇぇぇ!!なぁんでよぉぉぉぉ!!」
少女がだだっ子のように叫ぶと会議室にいた全員が外に出てくる。
「おにーさん?そろそろ始まるけど・・・その子、誰?」
「ム?童ト遊んデいたのか?」
この少女が誰なのか、魔王軍と対面したことのない二人はこの少女が魔王軍の人間ということを当然知らない。知らなければ『普通の女の子』なのだ。
その二人の後ろにいる3人は知っている。デルとアルフは殺気を放ち、サクラはあの時を思い出し今にも崩れそうになっている。
「・・・どいて?邪魔だから。おにぃさんの後ろの人間で試すから。」
「それは出来ない。」
庄野が遮るように前に立ったその刹那、デルがその少女の間合いに詰め寄り、少女の喉に剣を突き立てた。
あと数センチ腕を前に出せば確実に刺さる位置に剣はある。
しかし、デルはそこから動かない。
「くすくす・・・サリアン人が子供の私を殺すの?それでいいの?」
「・・・お前は、魔王軍の人間だ!・・・だから・・・!」
「へぇー、じゃあ早く私を殺してよ?」
「くっ・・・!」
デルの剣先は震えており、そこから前に出ない。
「くすくす・・・いいの?早く私を殺さないと、おねぇさんの部下はみんな死んじゃうよ?ねぇ、いいの?」
「どういう、ことだ?」
「あはは!じゃあ見に行こうよ!城下町の真ん中で待ってるから!!すぐに来ないと・・・みんな死んじゃうよ?」
不穏な言葉を残し、少女は黒い靄に姿を消した。
同時にサクラがその場に崩れるように膝をつく。直ぐ様、庄野が駆け寄る。
「サクラ姫?・・・大丈夫ですか?」
「・・・はい。大丈夫です、行きましょう。」
(平然を装っているが、とても震えていた。数ヶ月にあんな目あったんだ。そしてその元凶が目の前にいる。・・・サクラ姫を守るためにも・・・。)
サリアン城へ向かっている最中、カエデがデルに先ほどの件について言及する。
「ねぇ、法律を守ることは素晴らしいと思うけど。これ以上は言わないわよ?」
「・・・わかってる。」
何の事かわからない庄野は小声でアルフに聞く。
「アルフさん、法律って?」
「大昔の話ね、サリアンの全体の力を強くしようとして魔力の高い子供の遺伝子を残し、低い子供を・・・この世に残さないっていう行いがあったね。それで、魔力の低い子供に対する魔力の引き上げと言う名目の虐待があったんだね。それの名残で、『魔力の低い子供へ危害等を加えた者は死刑』っていう法があるんだね。逆に、魔力の高い子は丁重に扱うようにってね。あと・・・」
(なるほど、だから躊躇ったのか。しかし・・・そう考えれば異界から来たあの娘は使い魔を連れていなかったから彼女自身の魔力が高いのだろうか。・・・じゃあ、何で・・・。)
サリアン城へ近づくとうめき声と叫び声が少しずつ耳に入る。近づけば近づくほどその轟きは増していく。
「中は・・・最悪でしょうね。ねぇ、デル?」
「・・・言うな。何であれ、この国が原因なら・・・私が絶つ。」
「あの、てつや様?その、・・・。」
「・・・。」
「移動しながらも考え事してるのかね。いつも通りというか、なんというか、ねぇ・・・。」
庄野はこんな危機的状況の中でも分析を怠らない。
(・・・魔力が低い、だから酷いことをするな。これはわかる。魔力が高い、だから丁重にってのが理解できない。そもそも魔力が高い人間の遺伝子を残そうとして非人道的な行為があったからこそ法で死刑まで具体的に定められた。なのに魔力の高い子供へは『丁重に扱う』ってのがえらく幅のある表現で具体性が無い。まるで・・・。)
城に入ると辺りは壮絶な状態であった。
家屋は火の海に、通路という通路は兵隊、市民、商人が入り乱れて暴れておりまともな状況ではない。
「静まれ!・・・おいっ!お前達!止まるんだ!・・・くっ、無駄か。」
必死に叫ぶデルの声を誰も聞こうとしない。
「あははははっ!話しかけても無駄だよ!私の『恐怖』の解除方法は2つ!1つは自力で克服すること!もうひとつは私を殺す事!」
先程の少女が広場の噴水の真ん中に立っている。
バシャバシャと水浸しになりながらも独りで遊んでいる。
その光景だけを見れば無邪気な女の子が遊んでいる、そんな風景だ。
辺りを老若男女問わず叫ぶ人間と、その噴水の水が溜まっている部分に浮かんでいる死体を目に写さなければ。
「・・・お前っ!」
「あははっ!自己紹介をしなくっちゃ!私の名前は浅越ルリ!まおー様は『ゴル』って名前つけてくれたんだよ!カッコいいでしょ!」
無邪気に笑いながらびしょ濡れの少女はゆっくりとデルに近づきながら言葉を発する。
「あはは!!さぁ・・・私を・・・
私を殺してみてよっ!」




