第42話 葛 藤 ~理解可能、納得不可~
「問題だと?!国を愛し、国のために戦うことに何の問題があるのか!私は・・・この国のために、何年も・・・!それを!」
デルは机を強く叩く。
衝撃と音が広間に響き渡る。
「何に問題があるッ!問題あるのは、むしろそこに座ってる男だ!そいつはッ!」
「デル、貴女の志には尊敬するわ。でも、そうやって自分の主観だけで全てを判断しようとしてるその様、はっきり言って国を治める人間がやることじゃないわよ。」
「・・・なんだと?」
「私が言いたいことは2つ。まず1つ目。 何故、あの大災害があった時に最も被害が少なかったサリアンに援助を求めたのに手を貸してくれなかったのか。」
「・・・こちらも災害の被害はあった。それに・・・あのタイミングで現れた魔物の対応で兵をさけなかった。」
「ふーん、そう・・・。」
(ん?召喚魔法で魔物が出現したのはの・・・?)
「まぁいいわ。2つ目。何故庄野哲也が対魔王軍の編成に含まれていないのか。」
「ふん、愚問だ。こいつは異界人で、魔王の仲間だからだ。」
(・・・異界人で、か・・・。)
「魔王の仲間という根拠は?」
「服だ。それ以上語る必要はない。それより、この質問に何の意味がある?いい加減本題に・・・。」
「デル。この2つの質問の意味を教えてあげる。1つ目は貴女を信頼出来るかどうか。」
「信頼もなにも、我々は同盟を結んでいる。苦難があれば共に手を取り合い解決する。前の王は酷かったが、私はあんな事をしない。」
「あら、ちなみに召喚魔法から魔物が出たのはサリアンの復興が概成した次の日よ。半日あればソーラに来れるのに、全兵力を来るかどうかもわからない魔王に対して置いてたの?それとも、別の目的で人を使ってたのかしら?」
「っ!それは・・・対魔法能力の高い魔物が出現して苦戦を強いられていたからだ。」
「そうなの?アルフおじさん。」
「そうだねぇ・・・確かにマジックゴーレムには苦戦してたね。でも、戦ってる兵が少なかったね。もっと数で押してれば苦労しなかったと思うけどね。」
「デル、貴様ハ何かヲ隠そうトしテいるルのカ?」
「・・・隠し事は無い。兵が少なかったのは城下町の住民避難をさせていたからだ。」
(毅然とした態度・・・に見えるが、先程明らかに動揺していた。・・・何かあるのか?)
「2つ目は貴女の問題よ。デルが大切にしてるのは国?それとも自分の意志?」
「国だ。それが何だ?」
「私も国の長として一言言わせて貰うわ。何故、彼を『異界人で、魔王の仲間』と言ったの?」
「事実だろう?魔王の仲間だ。」
「違う、『異界人』という言葉を使ったことに言ってるの。今回、異界人が戦いを仕掛けてきたのは長年かけて大きくなった我々への不満よ。ソーラではそういった差別を撤廃するよう常に心掛けてきた。前回の対魔王軍編成の話をしたときも強く言ったわよね?暴動が起きないよう、戦いが終わったあともそういう差別意識が無いよう、敵対意志のない異界人は丁重に扱うって・・・。それなのに、国の長である貴女が『異界人で』と言うのは何?」
「それは・・・。」
デルは黙りこむ。一瞬の静寂が流れる。
「デル。お前さんが異界人を嫌ってる理由が・・・母親の一件を引きずってなら、今回の件は降りた方が良いね。」
「アルフ殿は、母の・・・やはりあの事件を知ってるのですか・・・。」
アルフは天井を眺めながら話し始めた。
「ワシと同じくらい年の連中はみんな知ってるね。・・・サリアン城地下・・・新型の魔石実験。異界人でもサリアンの人間と同じように魔力を持てるようにする実験ね。禍々しいものではなく、目的はワシらと異界人の差を埋めるため、差別を排除するために行っていたね。その実験をしていたのが、当時女王だったデルの母君と一人の異界人。そして・・・その異界人が魔石を装備した瞬間暴走して、回りの人間に危害を加えたね・・・。」
「その事件で母と暴走を阻止しようとした何人かは亡くなった。あれは魔石の事故とされている・・・だが、それは・・・違う!あの男は母が邪魔になった。だから魔石により母を殺し、空白となったサリアンの玉座を得た。あの魔石は・・・母の努力の結晶、それを奪ったッ!だから・・・私は・・・。」
流れる涙を吹きながらデルは思いの丈を吐き出す。
その様にカエデも彼女自身の思いを強く伝えた。
「・・・だからこそ、皆が手を取り合って、国を、世界をどうにかしなくちゃいけないの。デル、これは貴女個人の問題じゃない。今回の復興に関する件についてはこれ以上言及しない。その代わり、手を貸して。」
「・・・わかった。それと、庄野。お前の事を人間として誇らしいと思う。サクラに対する忠誠心、誰かのために動く献身的な姿勢は騎士として素晴らしい。だが・・・私はまだ異界人を許すことが出来ない。辛く当たったことは謝罪する。」
先程までの重苦しい空気は風に流され、3国の対魔王軍の編成について改めて検討されるようになった。
「・・・で、いいわね?」
「異論はない。」
「うム、問題なイ。」
「最後なんだけど、魔王軍の動きについて何か情報はある?若しくは戦い方を知ってる人がいればいいんだけど・・・。」
カエデはチラリと庄野を横目に見る。
「ある程度なら。」
平然と庄野は答える。
「・・・なんて言ったの?」
カエデが不思議そうに聞き返す。
「ある程度なら、と言いました。」
何事もなかったかのように同じ言葉を発する。
会議に参加した全員の視線が庄野に向けられる。
「・・・冗談ハ許さんゾ。ナラば、今後の魔王軍がドう動くカ説明シロ。」
「はい。」
庄野は説明を始めた。
「では・・・魔王軍の襲撃時期ですが、主力の攻撃はまだ来ないと考えます。しかし、小部隊での偵察、若しくはこちらの出方を伺う小規模の攻撃がかなり早い段階でくると思います。」
紙を取り出し、必要なことをメモしながら続ける。
「兵力ですが、もし各国で失踪した異界人のリスト、可能なら連れている魔物についても分かれば、そこから算定して概ねの人数でわかると思います。ただ、彼等は水面下で魔石の研究もしていました。前回戦ったトンボには魔法耐性を強化した魔石が埋まっていました。故に、異界人全員がそれを装備している可能性が高いです。魔法だけでは苦戦すると思います。そのため、守り方としては・・・」
全員のあいた口が塞がらない。
庄野の説明は突拍子もないものであるが、その戦い方や考え方はまるで庄野自身が魔王ではないかと錯覚するほどであった。
それもそのはず、魔王と呼ばれる杉村、そして庄野は同じ教育を受けて同じ戦術の知識を持つ自衛官である。当然、同じような戦い方の考えを持つ。同じ考え方を持っていれば、相手の行動を読むことはそこまで難しくない、むしろ自然と同じになるという話である。
「・・・という訳です。また、先日の召喚魔法を使って魔物を出してきたのはこちらの兵力と対応方法の情報を得るために使ってきたと考えれば、相手にこちらの戦い方を知られている状態です。同じ戦い方をすれば確実に負けると思いますが・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
(・・・誰も反応しない。間違ったことを言ったようだ。この国の戦術に対する考え方がわからない、何より自衛隊の考え方がそもそも間違っているのかもしれない。しゃしゃり出で話すべきでは無かったか?)
「・・・あの、おにーさん?」
「はい、庄野です。」
カエデが何とも言えない表情をして庄野に問う。
「その・・・そこまで言いきれる根拠は何なの?」
「魔王、とは前の世界で同じ環境にいました。同じ居住区、同じ服、同じ生活リズム、同じ食事・・・そして同じように戦いに関する教育を受けました。俺もあいつも戦い方については同じ考えを方を持ってます。だから・・・。」
庄野は必死に説明をするが、皆が沈黙し言葉を失う。
(あー、この感じはダメだな。理解も納得も出来ない、言ってることが分かりませんって顔にかいてある。これ以上話しても進展は無い。)
「やっぱ、必死にスライム倒してる自衛官なんかじゃ役にたたないですよね。」
吐き捨てるように小声で呟くと庄野は着席する。
「ちょっと休憩でもするかね。」
アルフの一言と共に庄野は一目散に外に出た。
(今回の会議、デルとの確執を何とかすることが目的だった。その為にわざと俺を会議に参加させただけ。それ以上の話は特に求められていない、杉村の事を何か知ってれば運が良い位のものだろう。そうだ・・・期待されることは無い。いつも通り、何とかするしかないんだ・・・。)
空を見上げていると見覚えのある一人の少女が庄野の前に立った。
「ひっさしぶりー。元気にしてた?」
「お前・・・杉村と一緒にいた!」




