第12話 共 闘 〜空薬莢を回収するのは民間人に悪用されないためであって、ホントに戦う時は百%やらない〜
しばらくは何話かまとめて投稿します。
(……もう朝か。思ったより眠れたな。体調も問題ない。もう一度作戦会議をするからギルドに来いと言われた。出発時刻までかなり時間があるが、遅刻はしたくない。余裕を持って行くか。)
迷彩服に袖を通し、手入を済ませたれ半長靴を履き、装具と鉄帽、最後には革手袋を装着すると、庄野は屋敷の扉を開けた。
「予定よりも1時間早いな。コピードールに飯を食わせながら行ったら丁度いいだろ。よし、行くぞ」
「キュッ!」「キュッッ!!」「キュッ!」
道中はコピードールに野草を食べさせ、ちょっと休憩で座り込んで草木の香りを楽しみ、コピードールの戯れながらのんびりとギルドを目指した。
(あれだけゆっくりと来た割には、予定よりも30分早い到着だったな。……もう二人来てるのか。)
ギルドの前では鎧をまとったデルと、巨大な斧を持った岩男、ボラブが既に待っていた。
「おはようございます。早いですね」
「おはよう。ちょっと緊張しててな……落ち着かなかったんだ」
「おぉ!俺は楽しみ過ぎて、全然寝られなかったぞぉ!」
「僕も少し緊張してます。えっと……リーさんは?」
「ここにいるよぉ……ったく。朝早ぇのは苦手なんだよぉ……」
槍を背負い、眠そうな顔をしているサメ男のリーがトボトボと歩いてきた。
(……見た目や能力は違っても、同じ人なんだ。同じように悩んだり、同じようにストレスを感じたりするんだ。……少し、安心するな。)
「よし、揃ったな。中に入って作戦を確認しよう。地図はもう広げてある。」
ギルドに入り、テーブルの上に広げられた地図に目をやる。現在地と巨大トンボとの決戦となる場所、各人の待機位置の確認が終わると、すぐさま現地へと向かった。
「ここで奴を叩く。オニトンボは朝方に活動し、この辺りの家畜や人を襲うそうだ」
(デルは昨日と違って兜を被っているから、顔は見えない。首から下は昨日と同じ鎧に覆われている。中世の鎧に似ているが、手首や肘の関節部分はよく見ると動きやすいように加工されている。腰には細長いレイピアのようなものさしているな。)
「うーむ……地図でみたより起伏があるなぁ!上手く誘導すれば魔法で拘束できるぞぉ!!」
(ボラブは特に防具といったものは着けていない。全身岩みたいにゴツゴツしているんだ、この身体に合う防具は無いか。武器は斧だが……人間を片手で掴んでるみたいにデカい斧だ。一振りで木が簡単に折れそうだ。斧の先端には赤色の石がついているのが気になる。)
「まだ時間はあるだろ。オニトンボを誘導する場所、攻撃する方向を確認させてくれ」
(リーは頭には何も被っていないが上下は軽装の鎧をつけている。武器は槍か。長さはLAMと同じくらい。リーの武器にも先端に石がついている。こっちは青色だな。)
「オニトンボの到着予定時刻は0800。現在時、0700。あと一時間はあります。30分前に予行を実施して、10分前には待機位置に移動しましょう」
(俺も装備を確認しておこう。
鉄帽、防弾チョッキ、89式小銃、ナイフ、マチェット、エンピ、救急品袋、フル弾倉が1つ。一応コピードールも連れてきたが……今回は活躍してもらえなさそうだ。
『かつて、異界人が魔物を倒して英雄となった』という話。アルフさんも話していたし、この3人もそういう話をしていた。
しかし……どうもしっくり来ない。魔法っていう実質チート能力があるのに、魔法が使えない異界人が奉られる。サリアンのやっている異界人の選別制度によって強い異界人を英雄として迎え、不要な異界人を排除し、結果的に差別が横行している。この世界は『異界人は不要だ』という理念を隠しつつ、『異界人を英雄としなければならない』という強迫観念にとわられているように感じてしまう。
……やめよう。俺の妄想だ、今は目の前のことに集中しよう。)
予定時刻の10分前。4人は無言で配置についた。
到着予定時刻の5分前、になると、デルとリーが大きく手を振った。
(二人が探知でトンボを確認したサイン、ここでボラブがアレの準備をする。安全装置を解除しておこう。)
庄野は89式小銃の切り替え軸を『3』に変える。ボラブは地面を叩き、直径が1m程の岩石を何個も作り出す。
二人の準備が終わると、ヘリコプターのローターが風を切るようなバタバタという音が徐々に鮮明になっていく。
(来たな……10m近くあるトンボって話だが……うわぁ……トンボって、手の平サイズだからなんとも思わなかったけど、ここまで大きいと気色悪いな。)
「頼みます!」
「ああ、いくぞ!」
巨大トンボが一本木の上に止まる。デルは魔法によってボラブの作った数個の岩石を浮き上がらせ、巨大トンボの目の前でぐるぐると回転させながら、ゆっくりと巨大トンボに近づけていく。
トンボを捕まえる方法として有名な話で、指をぐるぐると回しながらゆっくり近づくと目を回すので捕まえられる、というものだ。これはトンボが目を回しているからではなく、動く指に注視して周りに目がいかなってしまい、動かなくなる事が理由である。
庄野が考案した作戦はまさにこれであり、『トンボの目の前で物をぐるぐる回して、そのスキに攻撃して倒す』というものであった。
(同期や先輩が知ったら、『まるで子供が考えた作戦だ』と笑われるだろうな。だが、そんなの関係ない。大事なのは結果であって、手段じゃなんだ。)
回転しながら徐々に近づいてくる岩石に対して、巨大トンボはピクリとも動かなくなった。
「よし!」
「へっ、お利口さんにしてるじゃねぇか。次は俺だなぁ!」
巨大トンボの後方に潜んでいたリーは槍を構え、地面を踏み砕く程強く蹴って空高く跳躍し、落下しながらトンボの脳天にめがけて突きを放った。
「おらぁ!死ねやぁ!」
ガァン!
槍は金属のような固いものに弾かれ、全く刺さりもしなかった。
「マジかよッ!槍が刺さんねぇぞ?」
「かぁーーーッ!そんな貧弱な槍では効かん!俺に任せろぉ!」
ボラブは両手で拳を作り、地面をドンと一発叩く。地面から立方体の柱が天に向かってボラブを押し上げ、巨大トンボの顎に向けて飛ばした。
「上が駄目なら、下だぁ!」
ボラブはトンボの顎に目掛けて下から上に斧をかち上げる。
ガァァァン!
先程とは比べ物にならないほどの金属音が響いた。
「おぃぃ!全然切れないぞぉ!」
「どっかに弱点あんだろ!このまま攻撃を続けるぞ!」
どこか別の部位なら効くのではないかと、トンボの背中や羽、全身をくまなく攻撃してみるが、金属音が響くだけだった。
次第に巨大トンボの緑色だった目が赤色に変わった。
「オニトンボが動くぞ!私が囮になる、離れろぉ!」
デルはぐるぐると回していた岩の球体を巨大トンボの目にぶつける。
「ギィィィ!」
岩を喰らった巨大トンボは機械音のような鳴き声を上げる。
「岩が効いている……?目が弱点……いや、違う。……そうかッ!ならば、これで……!」
デルは何かに気が付き、直様自分の手に持つレイピアに装着されている魔石を外した。
怒りで目を赤色に染めた巨大トンボは口を大きく開き、デルの頭部を食いちぎろうと空から急降下する。
「デルぅ!正面は危険だぁ!食われるぞぉ!」
「ちっ。援護が間に合わねぇ!」
デルは噛まれる刹那左に回転して攻撃を避け、トンボの右頬に背を当てながらレイピアを逆手に持ち替えて突き刺した。
レイピアは刃元まで巨大トンボのに刺さり、何をやっても無傷だった巨大トンボにダメージを与えた。
「おぃぃぃ!デルの武器、何で刺さったぁ?!」
「マジか!サリアンの武器は魔改造でもしてんのか?」
「この魔物、対魔法能力が異常に高いんだ!装備している魔石を外せば攻撃が通るぞ!」
ーーなるほどそういう事なら、とボラブとリーは武器についている魔石を外す。
巨大トンボは攻撃を受けた事に驚いたのか、空へ飛んで逃亡を図る。
「逃げるぞぉ!あの高さじゃあ、俺とデルは攻撃が届かないぞぉ!!」
「させねぇよぉ!これでも喰らえやぁ!」
リーは巨大トンボに目掛けて槍を投擲した。槍はロケットのように空に向かって物凄い速さで飛んでいき、巨大トンボの羽に直撃した。槍は羽に刺さっただけで、巨大トンボを落とすダメージには至らなかった。
「おいぃ!魔石を外したのにダメージが入ってないぞぉ!」
「武器の素材に魔力が含まれているのかもしれないな。」
「チッ。まぁ、撃退はしたんだ、良いだろ」
「俺がやります」
庄野は89式小銃を巨大トンボに向け、照門を起こし、呼吸を整える。
タタタン。
三発の発射音。5.56mmの弾が巨大トンボの羽と胴体に命中する。巨大トンボは空高くに飛ぼうとしているが、穴の開いた羽と傷ついた身体ではそれが上手くできない。ヨロヨロと飛ぶうちに、次第に高度が下がっていった。
(命中はした。傷は与えたが、まだ高い高度に位置している。継続して射撃を行う。)
タタタン……タタタン……。
リズミカルに三制射を繰り返し、巨大トンボに銃弾を命中させる。命中する度に巨大トンボの動きは徐々に鈍くなっていき、二十七発目が脳天に直撃した時には地面に落下し、ひっくり返ったまま動かなくなった。
庄野は切り替え軸を『ア』に戻して弾抜け安全点検を行う。その後、弾倉の中を覗き込み、残弾を確認した。
(残弾……残り三発か。……もう、89式小銃は使えないな。)
巨大トンボを討伐した庄野の顔には、喜びの表情は無かった。




