第13話 経験値 ~初めてのレベルアップ~
(……89式小銃の弾は残り三発。もう銃を使った戦いは出来ない。拳銃はあるが、射程と戦術的な要素を考えたら、心許無さすぎる。どうしたもんか、と悩んでもしょうがない。無いものは無いんだ。今あるもので最大限の戦いができるように、これからについて考えていこう。)
これからの戦いをどうすればいいのか、次の戦いについて考える庄野とは対象的に、他の三人は巨大トンボへの勝利に歓喜していた。
「やったな!オニトンボを倒したぞ!」
デルは兜を外しながら喜びを表す。
「そうだぁ!勝ったぞぉ!おいおい、そんな顔をするなぁ!」
ボラブは庄野の背中をバシバシと叩く。
「てかよぉ、そんな強ぇ武器があったら、俺ら無しでも勝てたんじゃねぇの?」
リーは悪態をつきながらも、ニタニタと笑って嬉しそうにしている。
「アハハ……そうですね。」
庄野は乾いた笑いで返答し、巨大トンボの方へと近寄って行く。その行動を不思議そうにし、デルが庄野に声をかける。
「どうした?何かあったか?」
「いえ、ちょっと……。」
(これだけ巨大な身体なら、弾が体内に残っている可能性がある。回収して、もう一回弾として再利用出来るかもしれない。ちょっと探してみるか……。
ん?頭部にある弾痕、何箇所か反対側に貫通してない所がある。ってことは、弾頭が体内に残ってる可能性があるぞ?)
庄野はマチェットで巨大トンボの頭部の一部を割き、覗きこんだ。そこには弾頭が刺さった、子供の大きさくらいの紫色の石が埋め込まれていた。
(弾頭もあったけど……石みたいな塊があるな。さっき言ってた、魔石ってやつか?それにしても、形が独特だな。
……何だ。この石は……一体どうしたら、こんな……。
この三人に言っていいものか?……とりあえず、姫様とアルフさんに相談してみるか。)
庄野は切断した部分を元に戻し、三人の元へと戻る。再びデルが庄野に声をかけた。
「何かあったのか?」
「さっき、俺の武器で攻撃した弾が体内に残ってないか見てました。貴重なものなので、可能なら回収しようかなと……」
「安心しろ。この魔物は要請があったギルドに素材として解体される予定だ。今回はサリアンのギルドからの要請だから、サリアンで処理をすることになる。解体時期は明後日だから、その時にギルドで受け取れる。
あぁ、ついでに報酬の話もしておこう。今回のように魔物を倒したら、解体して素材として売られた額と討伐成功の依頼料が貰える。
……しまった、庄野はギルドに登録してなかったな。ギルド未登録者へ報酬を渡す事は出来ない事になってるんだ。私から西の都に報酬を支払うから、サクラ姫から貰ってくれると助かる」
「報酬も大事だがぁ!何よりぃ!」
「経験値が多く入った、だろ?ふぅ、やっと遠距離攻撃用のスキルが習得出来るぜ」
庄野はポカンと口を開ける。
(……命を失う可能性のある戦いをして、一旦一休みもなく、いきなり金銭の話をされたと思ったら、今度は経験値の話で盛り上がっている。この世界ではこういう命の軽重が薄い感覚が当たり前なんだろうか。)
「あぁ、お前は異界人だから、経験値が入ったかどうかわからんだろう。変わりに経験値はお前の連れに入ってる。ほら、レベルアップしたようだな」
「そんな事わかるんですか?」
「かぁーーー!そんな事も分からんのか!見ろぉ!レベルアップしたから、体力が全回復してるだろ!ほら、よく見ろ!」
庄野はまじまじとコピードール三人匹を見る。言われないと気がつかないが言われると確かに戦う前よりも毛並みが良く艶々になっている。
「キュッ」「キュッッ」「キュッ」
「言われてみれば……そうですね(全然わからないんだが……)」
「ま、異界人からすりゃわかんねぇだろうな。でも、三匹ともレベルが上がったんだ。喜ぶことだぜ?」
「そうですね」
庄野はコピードール達の頭をワシャワシャと撫で回した。
(複製を覚えるのはレベル3になってから。あと一つか。こういうふうに魔物を倒せばレベルがあがるっていう事が分かっただけ収穫はあったな。……ふぅ、先は長いな。)
「よし、ギルドへ戻るか」
四人はギルドに戻り、庄野以外の三人は受付から金貨がたんまり入った袋を受け取っていた。
「さぁ、これから宴だ!……と言いたい所だが、私は今回の件を王に報告する必要がある。また機会があれば是非手を貸して欲しい」
「あぁ!!また、一緒に戦える日を楽しみにしているぞぉ!」
「お前達と一緒なら、いつでも大歓迎だぜ。個人的には……庄野、お前と話したいことが沢山あるんだけど、それは次の機会に取っとくわ。じゃな」
三人がギルドを出ると、酒を飲んでいる輩達がコソコソと話を始めた。
「おいおい、見たか!三国の英雄達が、パーティーを組んでたぞ!?」
「あぁ、見りゃあわかるよ。全身鎧甲冑の女は『サリアン軍の団長』だな。全属性の魔法を操り、武器のレイピアはどんな強固な鎧でもその隙間を縫って身体を突き刺す。サリアン人で勝てるやつはいねぇよ」
「あのガラ族は『破壊王ボラブ』じゃな。その腕は山を砕き、その斧で山を割るという、怪力の持ち主じゃよ」
「じゃあ、槍を持つ魚人ってのは……『海神チャン・リー』か!海中最強と言われるリヴァイアサンをたった一人で撃退したっていう、あの……!」
「あのパーティーならオニトンボを討伐しても納得だな」
「討伐した?!撃退じゃなくて、倒したってのかよ!」
「しかも、トドメを刺したのはあの三人じゃないって話だぜ?」
「おいおい!その話、詳しく聞かせてくれよ!」
始めはコソコソと数人で話していたのだが、徐々に人が集まり、最後には口喧嘩でも始まるのではないかと思わせる程の声量で有る事無い事を語り合っていた。
(そうか、西の都で聞いた各国の英雄達って彼らの事だったのか。しまったな、俺が見たものについて、言ってよかったかもしれなかった。まぁ、しょうがないか。)
「さて……俺たちも西の都に帰ろう。報告があるからな」
「キュッ!」「キュッッ!!」「キュッ!」
庄野は荷物をまとめ、西の都へと帰った。
「姫様、アルフさん。ただいま戻りました」
「お帰りなさい。てつや様。その……怪我はなかったですか?」
「はい、心配してくださってありがとうございます。でも、怪我はしてません」
「おかえり、庄野さん。魔物退治を手伝ってたらしいね。今日は疲れただろうから、早めに休んだ方が良いね」
「そうしたいんですが、ただ、その……。姫様、アルフさん。ちょっと、聞きたいとこがありまして……」
「何でしょう?」
「ほっ。この老いぼれで分かることなら、答えましょうね」
(……単刀直入に聞いても良いのだろうか。聞くことによって、何か迷惑をかけるんじゃないだろうか。
そもそも……この二人に聞いて大丈夫なのか?俺は異界人と呼ばれている。この人達からすれば余所者だ。それに、俺には使えない、圧倒的なチート能力である魔法を操れる集団だ。もし、聞きたい内容が、外部の人間が知ってはならないものだったら……俺もああなるかもしれない可能性はゼロじゃない。
……確実性を重視するなら、この人達を簡単に信用しない方が良いな。)
「いえ、やっぱり、大丈夫です。何でも、無いですよ……ハハハ。今日は疲れてるんで、早めに休みますね、おやすみなさい」
「そうかね?それなら良いけど……おやすみ」
庄野は荷物を床に起き、そのままベッドに横たわった。
(……強引すぎたかな。いや、良いんだ、これで……。俺一人で調査すればいいだけだ。明日の朝にもギルドに行ってから考え……ん?足音がするな。誰か来てるのか?)
直様寝たフリをして、じっと様子を伺う。足音は徐々に近づき、庄野のいる部屋の前で止まった。
コンコン、と扉をノックする音と「まだ起きてますか?」という可愛らしくも少し震えた女性の声が寝たフリの庄野を起こした。
「サクラ姫ですか?起きてますよ、どうぞ」
ガチャリと扉が開くと、花柄のフリルがついた薄ピンク色のパジャマを着たサクラが立っていた。
「入っていいですか?」
「どうぞ」
(何やら深刻な表情に見える。夜這いって雰囲気じゃなさそうだな。)
サクラは部屋に入ると、庄野が先程まで横たわっていたベッドに腰をかける。庄野もそれに合わせて、サクラの隣に座った。
「えっと……どうかしましたか?」
「……なんで……なんで、何も言ってくれないんですか?」
声を震わせながら、サクラは問いかける。
「なんで……話してくれないんですか?私とアルフの事……そんなに信用できないんですか?」
「いや、そんな事……」
「じゃあ……なんでっ……何も、言っ……ぐれないんでずが?他のぐににいげばいいんじゃないんでずがって言っだごど……怒っでるんなら……謝りまずから……」
「怒ってないですよ。その……すいません」
「女の子を泣かしたら駄目だね。庄野さん」
再び扉が開く。今度はアルフが庄野の部屋に入ってきた。
「庄野さんが、ワシらの事をどう思ってるか知らないね?でも、ワシはサクラ姫の事も庄野さんの事も、同じ家族だと思ってるね。そんな家族が、何か悩んでいるのに、その悩みを話してくれない。それは、とても悲しいね」
「そんな簡単に信用していいんですか?」
「ホッホッホ。ワシも長年生きてるけどね、お前さん程この世界で誰かの為に頑張るお人好しはそうそういないね。サクラ姫の為に命を張る、全然自分には関係ない事で、実力が足りるかどうかもわからないのに魔物退治を引き受ける。そんな庄野さんだからこそ、信用してるんだね。ねぇ、姫様や」
「……ゔん……だから……私達に不満があるなら……言ってくだざい」
(……自分の事ばかり考えてたな。こんなに俺の事を見てくれてたのに、俺は……。
そうだな、黙っておいても何も始まらない。虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うし、話すか。)
庄野は意を決して、今日見た事を全て話す事にした。
「実は、魔物の頭部を開いた部分に、人間の身体をそのまま魔石みたいにしたようなモノがあったんですが」
「何だって!庄野さん、ちゃんと説明するね!」
「え……そんな……だって、もう無いはずなのに……」
(藪蛇、だったかな……)




