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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第三部 第一章・燃える聖王国【帰還編】

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1-01 ただいま戻りました ①

第三部の開幕です。全四章予定。

週に1~2話投稿を予定しています。よろしくお願いします。





 タリテルド聖王国、トゥール領西にあるカロー子爵領。

 深い森に囲まれたこの土地は豊富な果実を使用した果実酒が有名だったが、幾つかの果実が収穫時期だというのに、収穫する民の姿は見られなかった。

 そんな領内の森の中を一台の馬車が進んでいた。

 こんな田舎には不釣り合いの立派な、四人乗り一頭引きの馬車。その前面の小窓が突然開くと、御者をしていた緊張気味の女性騎士に明るい声が投げかけられた。


「サラちゃん、方角は合ってるわ。もう少しのはずよっ」

「フェルさ~ん……やっぱり戻りましょうよぉ」

 金髪のメイド服の女性――フェルの言葉に、赤毛の騎士の女性――サラが情けない声で泣きを入れる。

 二人ともヴェルセニア公爵家所属の侍女と騎士であるが、平民出身のフェルと下級貴族とは言え騎士家出身のサラとの間に、身分差のようなものは感じない。

 そんな二人の会話に、馬車に居たもう一人の女性が、横手の扉から身を乗り出すように口を挟んだ。

「ダメですよぉ、サラちゃん。リア様やヴィオの為にも“紅玉”を手に入れなければいけないのですからぁ」

「ミンさ~ん……」

 同じ公爵家勤めの先輩であるミンにも言われて、サラはガックリと肩を落とした。

 他の公爵家どころか大抵の貴族家では貴族家出身の人間のほうが立場は上になるが、ヴェルセニア公爵家では主人と夫人の性格上、それを良しとせず、そもそもヴェルセニア公爵家の“ラスボス”と呼ばれる公爵令嬢がそんなことは欠片も気にしない性格なので王家さえも文句が言えないそうな。

「姫様~…早く帰ってきてくださ~い」


 全員が二十代半ば。そのうち二人の侍女は人妻だと言う妙齢の女性達が、どうしてこんな場所に居るのかと言うと、敬愛する公爵夫人リアステアと、同僚であるヴィオの為にある物を求めていたのだ。……危険があるにも関わらず。


「ちゃっちゃと行って、さっさと戻れば大丈夫よ」

「そんなこと言ってもフェルさん、だいぶカロー家の勢力域から出ていますよ。あいつらどこでも湧いてきますよっ。やっぱり、ここの兵士に手伝って貰ったほうが良かったんじゃ……」

「ダメですよぉ、私達の我が儘でここの戦力を使う訳にはいきません」

「だったら、うちの子達でも連れてくれば……」

「「リア様の警護を薄くするのはダメです」」

「……ですよねぇ」


 聖王国タリテルドでは半年ほど前より、南部方面騎士団の反乱による内乱が始まっていた。

 これは南部の護りを受け持つベルローズ公爵家と、その派閥である侯爵家と伯爵家がその反乱を支持してタリテルドの半分ほどが戦渦に包まれている。

 西方に位置するヴェルセニア公爵家のトゥール領も例外ではなく、反乱軍から護りを固めるにしても、当主であるフォルトは王族の一人として、外務大臣としても外交面で他国を牽制する為に王都に詰めており、家族だけが極秘裏にカロー子爵領まで疎開していたのだ。

 本来ならばもっと安全な――以前は犬猿の仲であったカペル公爵家の新当主が、ヴェルセニア公爵家令嬢を崇拝しているので、そちらに疎開する案もあったが、最悪の場合はフォルトの姉が嫁いだ西方にあるシグレス王国へと逃れる為に、こちらを疎開地に選んだ。

 それに夫人達は、あまり遠くへ旅を出来ない理由もあった。


「ほんとぉに、そろそろユル様には帰ってきて欲しいね」

「1~2年って言ってたのに、もう2年になりますよ~」

「ユル様さえ居れば、あんな反乱軍なんか、聖女様のお力で物理的に蹴散らしてくれたのに……」

「えっとぉ……聖女様としてそれはどうなの?」


 実際に民の間では【聖女様】が居てくれれば、反乱は起きなかったのではないかと言われている。

 これは自分を犠牲にしてでも世界を救った(と思われている)“伝説の聖女”への深い感謝と信頼感から来ており、その仲間である【聖王国の勇者】と【聖戦士】の二人もそれを認めていた。

 現状王都への反乱軍の進行は、その二人を中心に食い止められているが、逆にその二人が前線で釘付けにされているので、反乱軍の拠点を攻めあぐねている。

 そのせいで戦線が無駄に広がり、各地で小競り合いが続いていた。

 それはこのカロー子爵領でも例外ではない。


「まぁ、そんな簡単に出会ったりしないわ。聖王国だって広いのよ?」

「だよねぇ。こんな、内緒で出掛けたたった一日で、反乱軍に遭遇するなんて、どんだけ運がないのよ、って話よねぇ」

「あははははー……」

「「「…………」」」


『こっちに誰か居るぞっ! 兵を回せっ!』


「「「やっぱりキタ――――っ!」」」


 森の奥から聞こえてきた兵士達らしき声に、三人は同時に叫びを上げる。

「フェルが無駄にフラグ立てるからぁ……」

「ええ~~~……ミンだって同じじゃない?」

「盛大に立てまくってましたね……」

 戦闘職が一人居るとは言え、まだ若い女三人で敵兵に見つかったというのに、どうにも緊張感が足りない。

 それは逃げる手段がある訳でも、奥の手を用意していた訳でも無く、見た目が人間離れしている公爵令嬢と付き合う時間が長いほど【精神耐性】が上昇する弊害で、顕著な例としては、生まれた時から公爵令嬢を見てきたメイド三人は、あらゆる状況で冷静に対処出来るスペシャルメイドとして、公爵家の使用人達から畏怖されていた。

 簡単に言うと、人として“やばい”ほど緊張感が足りていない。


「お二人とも逃げてください。ここは私が食い止めます」

 三人の中でも比較的【精神耐性】が上がっていない女性騎士のサラが、御者台から飛び降り、緊迫感を滲ませながら腰から剣を抜く。

「……ねぇフェルぅ。あなた、御者出来る?」

「ミンは何を言っているの? 街育ちの私がしたことあると思う?」

「お二方……」

 何か言いたげなサラに、ミンは優しげに微笑みながら馬車から降りて、サラの額に浮かんだ汗を拭いてあげる。

「一人で無理しないで」

「サラちゃんを見捨てたなんて言ったら、ユル様に叱られるわ。何とか三人で逃げられる術を考えましょ」

 二人の根拠のない笑顔に、サラは背中にびっしょり汗をかきながらも、強く頷いて剣を握り直した。


「居たぞ、こっちだっ!」


 森から現れたのは、南方軍の記章を付けた五人の兵士。

 思ったよりも数が少ないのは斥候隊か分隊だからだろうか。重装備の騎士のような者はいないが、それでもサラ一人の手には余る。

 メイド二人を庇うように前に出るサラ。そんな三人に分隊長らしき男が声を掛ける。

「女三人か……。大人しくしろっ、抵抗するなっ」

「隊長……この女達は」

「そうだな。どこの家の者だっ! 隠すと為にならんぞっ」

 南方軍にとってこの地域の貴族家は、大方が敵対状態にある。それでも中立を守る貴族家も存在するので、どの家の者か誰何するのは当然なのだが、それよりもある目的があって、とある貴族家の関係者を捜していた。


「我々は商家の者でございます。主の命にて青果物の買い付けに参りました」

 見た目が一番しっかりしていそうに見える(・・・)フェルが、静かに歩み出て分隊長に頭を下げた。

「こんな時勢にか……? どこの商家だ?」

「こんな時ですので、どこも流通が滞っております。我々ピンキリ商会はまだ零細ですので、私どものような者でも遊んでいる訳には参りません」

「……ピンキリ商会? 聞いたことがないな」

「もう少し名が知られれば、買い付けも上手く行くのですが、歯がゆいところですね」

 自然な笑顔を浮かべながら、フェルがペラペラとデタラメを話す。

 一応はフェルも残りの二人も、好みの差はあるが美人の範疇に入る。

 美人は得である、と言うことを示すように、ほとんどの兵士がそんな彼女達に絆されかけていたが、

「……その馬車、記章を板で隠してあるな。おい、あれを外してこいっ」

 だが、分隊長は残念なことにお稚児(ちご)趣味であった。

 それ故に若干年齢が高めな美人である三人に興味もなく、兵に武器を向けられている状況で、あまりにも平然としすぎているフェルに違和感を感じたのだ。


「えいっ」

 分隊長の命令に兵が動こうとした瞬間、ミンが唐辛子と胡椒の粉末を兵士達に投げつけた。

「たぁあああっ!」

 顔を引き攣らせたサラも同時に手近な兵士に斬りつける。

 三人は、兵士達が自分達を探索していたことに気付いていた。

 口八丁で誤魔化せるのならそれでも良かったが、攻めに転じるのなら相手が半信半疑の今が絶好のチャンスだと考えた。


「やはり、ヴェルセニア公爵家の関係者かっ!」

 三人の行動に分隊長が吠える。

 彼らのような斥候に出る部隊は戦闘経験が多くなる。フェル達の奇襲は一見上手くいったように見えたが、目潰しの粉を避ける為にサラは一歩踏み込めずに兵の腕を浅く斬るに留まり、小さな袋に入れた粉は思ったよりも広がらず、一人の兵士が目と喉を痛めただけで分隊は体勢を立て直した。

 兵士達が散開して逃げ道を塞ぐと、再び分隊長が語りかけてきた。

「最後のチャンスだ。投降しろ。逆らえば斬り捨てる」

「「「………」」」

 フェル達の正体がばれた時点で分隊の目的は半分以上達成されている。

 後は本隊に報告して、本隊がカロー子爵家に進軍してヴェルセニア公爵夫人を捕らえるまで、フェル達三人を拘束すれば良い。

 それは生きていても死んでいても、どちらでも問題はない。


「こうなったら……」

 フェル達の勝利条件は、兵士達を誰も帰還させずに拘束するか、三人の誰か一人でも帰還して危機を知らせればいい。

 決死の覚悟で懐の短剣を握るフェルを、分隊長は嗤う。

「はははっ、無駄なことを。女騎士とメイド二人で何が出来るかっ」

「女を甘く見ないでよねっ!」

「無理を承知で挑んでくるか? こちらもお前達の命を助ける必要もない」


 公爵家の家人がいるのなら、反乱軍でカロー子爵領を攻めるだけでも、王家に対して圧力を掛けることが可能になる。

 分隊長が受けた命令は、ヴェルセニア公爵の家族がここにいる証拠を見つけるだけなので、ほぼ達成されているが、出来れば明確な居場所が判明すればそれに越したことはない。

 だからこそ必要のない会話をしてまでも、フェル達の心を折ろうとしていた。


「お前達も不幸だな。あのような主人に仕えたばかりに、こんな場所で命を落とすことになるとは」

「お屋形様に何ということをっ!」

「お前達もこんな危険な場所に出されると言うことは、精々下級貴族だろう? こんな不当な扱いをされて悔しくないのか?」

「私達は自分の意志で此処に居る。裏切り者のあなた達と一緒にしないでっ!」

「そうね」

「裏切り者か……。魔王との戦いでは中央や北方ばかりが主力になり、南方は捨て置かれたではないか」

「そんなの反乱の理由にはならないわっ」

「それに裏切りと言うのなら、お前らのところの聖女はどうだ? もう二年も経つのに音沙汰がない。裏切ってどこかの国に亡命したのではないか?」

「それはないなぁ」

「ユル様は、世界の為に戦ったのよっ!」

「それなら何故帰還しない? 本当は嫌気がさして逃げたんじゃないのか?」

「そんなことあるはずないっ」

「どうだかな? お前達の言うことが本当なら、帰ってこないのは、負けて逃げたか、死んだんじゃないのか?」

「ユル様は負けないわっ! 絶対に帰ってくるんだからっ」

「うん」

「「「……………」」」


 思わずその場の全員が、微妙な顔で黙り込む。

 全員が妙に揃ったゆっくりとした動作で横を見ると……。そこには黒と銀のドレスを纏い、黄金の髪を靡かせた美しい少女がふんわりと笑顔を浮かべていた。


「ただいま」


「「「出たぁああああああああああああああああああああああっ!!!!!」」」


 人も通らぬ静かな深い森に、全員の叫び声が木霊した。




 日曜にもう一話投稿します。


 次回、戻ってきたユルが見たものは。

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― 新着の感想 ―
折角帰還したのにまるでお化けか妖怪にでも会ったかのような「出たぁああああああああああああああああああああああっ!!!」 ユルさま、泣いてもいいのよ?
[良い点] 妖怪扱い
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