4-28 また伝説になりそうです ④
悪魔っぽい詭弁が入ります。
こんにちわ。ユールシアでございます。
現在目の前には、若干涙目になったセフィラが、憎しみ一杯の瞳で私のことを睨み付けていらっしゃいます。
いや、ホントにゴメンねっ! 私にも悪気はなかったのっ。悪魔だけどっ。
まさかセフィラが【最初の勇者】で、この世界の平和のために長年動いていたとは思っていなかったんですもの。
「えっと、お疲れ様……?」
「ふざけるなっ」
酷い。カルシウムとミネラルが足りてないんでないかい? 乾燥ワカメを食べる? 睨まれた。
「お前は何が目的だっ!!!」
セフィラが戦闘態勢に入る。そろそろ口調がおかしくなっているね。
亜空間収納はスキルじゃないのか、その全身が瞬く間に鈍い銀色の鎧に覆われ、セフィラは同じ素材の刀っぽい片刃の両手剣を上段に構えた。
「良い剣ね。もしかしてオリコン?」
「……オリハルコンだ」
やばい、セフィラに青筋浮かんでる。
えっと、ほら、セフィラが現代の地球人かどうか確かめる為に、わざと間違えたんですよ。
ゴメン、嘘です。私のファンタジー知識って、ゲームをやってた勇気くんより少ないんです。
無言で振り下ろされたセフィラの刀が衝撃波を放つ。考え込んでいたら、思わず油断してまともに食らうところでした。
さすがは【最初の勇者】です。威力はカンちゃんよりも数段上ですね。これだとうちの従者達でもやばいかも。被害が出るかも知れないから、この場に精霊達が居なくて良かったわ。まぁ、私が来ただけでみんな逃げ出したみたいだけど……。
どっちみち、こんな場所までは従者達【大悪魔】は来られないから、どうでもいいんですけど、そのくらいこの場所はやばい。
人間達生き物が住む【物質界】と、精神世界の一つ【精霊界】の狭間。
ここでなら人間の魂でさえも拡散しないほど魔素に満ちているけれど、ここは精霊界に近すぎるので、悪魔である私とは相性が悪い。
例えれば、突然街の中から砂漠や雪山に放り出された感覚でしょうか。
私は冷暖房完備の【人間】の属性を持っているから他の悪魔よりもマシだけど、逆にセフィラは光の属性を持つ【勇者】なので、突然高地から平地に移ったアスリートのようにその力が倍増している。
「私の目的はねぇ、友達の汚名返上かな。あとはその“ついで”だったんだけど」
「そんな理由で、私の邪魔をしたのかっ!」
「『夜の槍』」
私が作り出した漆黒の槍とセフィラの刀が触れて、盛大に火花を散らす。
「闇系魔術だとっ」
「セフィラこそ、本当の平等なんて、本気であると思っているの?」
「な、」
「全てを平均にするなんて出来ない。運があるものが生き残り、実力があるものが勝ち残る。それがすべてよ」
「そんなことはないっ! 私が……ボクが人類を導くんだっ!」
「それじゃ、あなたが特権階級なのね?」
私がニコリと微笑んでそう言うと、セフィラの目が大きく見開かれた。
「あなたが救うのは人間だけ? 食べる物はどうするの? 家畜には自由に生きる権利すらないと? 言葉が通じないから、知性がないからと【平等】から外れるの? 生物は生きる為に他を虐げて生きているのよ?」
「………そ…それは」
「植物だって生きているわ。この世界なら知性のある植物も居る。彼らが同族である野菜を食べるなって、【平等】を求めてきたらどうするの?」
「………」
「そうね……。全ての生き物を殺さず、満足するほどの食べ物を支給出来るのなら争いはなくなるかも知れない」
「そんなこと……」
「出来ないよね。そして人間は“上”を求める。その欲望があるからこそ発展してきた。全ての争いを無くすには、全ての欲望を満足させないといけない。でも、人間達が求める“勝利”と言う最大の甘美をどうやって満足させるのかしら? そして満足したその瞬間から衰退が始まる」
動物の世界にも植物の世界にも平等は存在しない。
良い場所に生まれれば生き残り、路面に咲けば踏まれて枯れる。
「だから人は足掻くのよ。より良く生きたいから必死に戦うの。必死に努力するの。平等な世界なんて、生きる努力を否定された“自由のない世界”なのよ」
「…………」
セフィラの剣が鈍る。千年以上孤独に戦ってきた勇者の心が揺れている。
弱者が全て不幸な訳じゃない。
強者が全て幸せな訳じゃない。
「喩えAAカップでも毎日豆乳を飲んで努力して恥ずかしがる姿にキュンとするのよ。大きくても実際重いと肩が凝るらしいし、この歳でこの大きさだと結構ジロジロ見られるからそんなに良いことでは……」
「……………」
突然、セフィラの攻撃が苛烈になった。
隊長っ、対象の説得に失敗したでありますっ!
どこがいけなかったの!? そんな大層な代物を二つ揺らしているのに狭量な。
……あ、偽乳疑惑があるんだっけか?
「……それ、どうなってんの?」
私は、セフィラの胸部メロンがどうしようもなく気になって、ある場所へ移動する。
「そ、それに触れるなっ!!!」
セフィラが私の行動に気付いて狼狽した声を上げた。
でも私は、これでも魔界最速の悪魔です。ほほほ、捕まえてごらんなさぁい。なんてやってる場合もなく私は、巨大な水晶――【スキル使用契約書】に辿り着き。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「……『砕けろ』……」
パキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィン……
私の指先一つで【スキル使用契約書】が粉々に砕け散る。
その瞬間、世界が鳴動したように感じた。【スキル】がこの世界【テス】から失われたのだ。
レプリカを弄っただけでは完全に消せなかった【特殊スキル】もこれで消える。
まぁ多分だけど、自力の努力によって会得したものや、大精霊クラスが直接与えたようなスキルは完全には消えないと思うけど、要するに勇者のようにチートで手に入れたスキルが消えれば問題ないのですよ。
少し残ったスキルも、あと百年もすればほとんど消えてしまうでしょう。
「………あ、…ああああああああああああああああああああっ」
おや? セフィラの様子がおかしい。
てっきり水晶を砕かれて愕然としているのかと思っていたら、その姿が変わり始めていた。ここでBボタン連打しても仕方ないから見守っていると、そこには細身の少年?少女? 何というか中性的な若者が私に憎悪の瞳を向けていた。
あのセフィラの姿は【スキル】だったのか……。乳情報を持ち帰るはずだったのに、ティナになんて言ったらいいんだろ……?
いや、そうじゃなくて。
「あなた……」
私にはセフィラが“女性”にしか見えなかった。でもファニーはセフィラが“男性”だと言っていた。
どうしてそう見えるのか? 【スキル】だからと言って、【魔神】や【大悪魔】の目を誤魔化せるのだろうか?
そしてスキルが消えた今も分からない。でもこの感じ……どこかで、…ううん。私が意識した瞬間、【魔神】としての知識が流れ込んできた。
「両性……いえ、もしかして“無性”なの?」
「…………」
セフィラは何も答えない。でも私を見つめるその瞳の憎しみの色が増した気がした。
だから……か。
男でも女でもないから。すべてから差別される“弱者”だからこそ“平等な世界”を求めて、偽乳を装備したのか。
「……大嫌いだ」
「……ん?」
ぼそりと呟いたセフィラの声に私も声を漏らすと、セフィラは顔を上げた。
「……人間が嫌いだ。学校が嫌いだ。親が嫌いだ。差別をする世界のすべてが嫌いだ。女を道具としてしか見ていないキョージが嫌いだ。男に生まれることが出来たのに女になろうとするカンゾーが嫌いだ。女に生まれたのに女を捨てているミンキチが嫌いだ」
膝を突きブツブツと呪いの言葉を呟いていたセフィラが勢いよく立ち上がる。
「代々の勇者なんてみんな同じだっ! 他を見下すしか脳がない脳筋どもだっ。だから戦争に出てくる勇者を殺して純魔力を奪って、これまで生きてきたっ! あの風の勇者も同じだっ。生まれも力も全てに恵まれていながら、さらに努力で強くなる? だから他の勇者を煽って殺させたっ! あいつの純魔力は、ボクの力を増してくれたよっ! これでこそ真の平等じゃないかっ!」
「……………」
そっかぁ………勇気くんが死んだのは、そんな理由があったんだね。
「………ぁ?」
セフィラの顔が唖然としたまま表情が固まる。
じっと私を見つめるセフィラの顔が徐々に強張り、恐怖に変わっていく。
あなたは何を見ているの? あなたは何を怖がっているの?
「さよなら」
私がそう呟くと、セフィラの身体は粉々に砕け散って、そのどす黒い魂は私に吸収されて消滅した。
……けぷ。失礼。ごちそうさま。
セフィラが見た私はどんな表情をしていたんだろ? うん。たぶん悪魔らしく朗らかに嗤っていたんだよ。きっと。
さて、あらかたの用事は済んだけど、何か忘れているような……
「……うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
その時、意識から完全に外していた存在が、雄叫びを上げて飛びかかってきた。
「ユールシアぁああああああああああああああああああああああああっ!」
そちらに転がったセフィラの刀を構えて、水の勇者である京時が私の油断した瞬間を狙って襲いかかってきたのだ。
勇者である京時なら、この場所で回復出来るのか。
あ~…ダメだ。目がイっちゃってる。そしてタイミング的に躱すのが難しい。
でもね……
「おかえり」
私は彼に向けてふんわりと微笑む。
それは京時に向けての笑みじゃない。こんな自分でも恥ずかしくなるような笑顔は、【彼】にしか見せていない。
「ただいま」
ぽとりと京時の手から刀が落ちて、小さな褐色の手が、背後から京時の心臓を貫いていた。
「お前がくれた勇者二人分の【魂】と【純魔力】は受け取ったぞ、ユールシア」
「動けるようになって良かったわ。凜涅」
土気色になってピクピクと痙攣する京時を挟んで、私とリンネは穏やかに微笑む。
いまだにリンネの見た目は4~5歳程の獣人の姿をしている。猫耳が可愛い。
それでもたっぷりと純魔力を含んだ魔宝石と、二人分の勇者の魂は、彼をこんな世界の狭間に来られるようになるまで回復させたみたい。
「さて仕上げだ」
背が小さいのでふわりと浮かんだままのリンネが、京時の耳元で“悪魔の囁き”を行う。
「お前の望みを叶えよう。お前は強大な力が欲しいか?」
「……ぁ………」
救いを求めるように私に瞳を向ける京時の手に、私はそっと粉洗剤の箱を握らせた。
「ご契約ありがとうございまーす」
私が清々しいまでの満面の笑みを浮かべると、何と失礼なことに京時の瞳が絶望に染まり、その身体は魂ごとリンネに吸収されていった。
最強の一角にはなれるでしょうけど、意識が残るなんて契約内容には含まれておりません。
「こんなものか」
「あらぁ」
気がつくとリンネの身体は、見た目二十歳前後にまで成長していた。幼児と京時の中間ってこと?
結構背が高い。私より頭一つ分は大きいんじゃないかな? 顔立ちは、あの可愛らしい獣人の幼児の面影を残して、若干和風。
少し薄めの綺麗な褐色の肌で、中東辺りの“王子様”みたいな雰囲気です。
でも、そんなことはどうでもいい。
「リンネッ、猫耳が無くなってるっ!」
「……それ、大事なことか?」
呆れられてしまった。
でも良く聞いてみると、今は【人間モード】で【人型悪魔モード】に変わると猫耳が生えてくるらしい。良い仕事をしている。
これでリンネも完全に悪魔として【顕現】出来た訳です。良かった良かった。
「良くはない。そろそろ戻らないと拙いぞ。俺はお前ほどここで力を出せない。遠くから複数の大精霊の気配もする。それにここは時間の流れが適当だ。現世では数ヶ月経っているかも知れんぞ」
「うわっ、それは戻ろう」
これ以上時間を掛けるとまた聖王国に帰るのが遅くなる。
どこから知識を得たのか、貴族が令嬢をエスコートするように差し出されたリンネの手を取って、私達は従者達が待つ現世に帰還した。
リンネを人型にするのに随分と掛かってしまいました。
年齢は悩みましたが、ユルに比較的近くしてあります。
次回は第二部の最終回?





