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悪魔公女Ⅱ ~ゆるふわアクマ旅情~【書籍化&コミカライズ】  作者: 春の日びより
第二部 第四章・素晴らしき腐った世界 【異世界テス編】

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4-29 また伝説になりました

 ……寝坊しました。

 第二部の最終話になります。


 




 数多ある異世界の一つ……【テス】。

 世界そのものである【テス】の大いなる“意思”は安堵にも似た感情を得ていた。

 思考形態が生物とはあまりにも掛け離れているので、それが“安堵”かどうか確かめる術もないが、世界を包む大気は以前よりも穏やかに感じられた。


 世界の意思とは、いまだ存在が確認出来ていない惑星そのものの“意思”である。

 世界は一個の生命体として存在し、生命維持活動を行うために、デジタル式演算機と似たような構造の、ある種の【思考】を持つのだ。

 だが、【世界の意思】イコール【神】と言う訳ではない。


 人間やその他の生物は、【世界】という一己の生命体にとっては“腸内細菌”のようなものだ。悪い菌が多くなり始め、世界を蝕んだとしたら、人間が“整腸剤”を飲むように他の世界から【異世界人】の血を取り込み、体内を活性化させる。

 もし体内に寄生虫でも巣くおうものなら、【勇者】と呼ばれる“薬剤”を体内に取り込み、“虫下し”のような役目をさせる場合もあり、酷い時には“下剤”を飲んで、大洪水を起こして全てを流してしまう事もある。

 それは世界にも負担がかかるし、新たな腸内細菌が揃うまで体調も悪くなるが、悪玉細菌が増えることで病気になるよりマシだろう。


 意思はあっても【世界】は何もしない。

 ただ自分の生命維持活動を行い、体内環境を整えるだけだ。

 腸内細菌の一部が暴れた程度では気にしない。気にしないと言うよりも気付かない。

 人間でも腹が痛くなって初めて不調だと気付くのだから似たようなものだ。


 まだ若い【世界】である【テス】はしばらく不調を感じていた。

 体内で酸素を運ぶ赤血球のような役目をする【精霊】が、【腸内細菌】との間で勝手なルールを作り、体内活動に異変が起きていたのだ。

 そのせいか最初はかなり活性化されて調子が良かったのだが、しばらくすると世界の血液である【魔素】が減少し、貧血のような状態に陥ってしまった。


 そこで【テス】は思考する。

 体内にはびこった【スキルシステム】と言うルールを破壊する必要がある。

 だが、人間が自分の体内に直接触れられないように、【テス】が世界に直接手を出すことは出来ない。

 数千年ではびこってしまったルールを破壊する為に、【テス】は二つの物を用意した。


 一つは、そこに住む全ての生命を滅ぼし、洗い流す下剤である【大規模天変地異】。

 一つは、文明だけを完全に破壊する、劇薬である【真の魔王】。


 どちらも身体に負担はあるが、【テス】は復調に時間の掛かる【天変地異】よりも、比較的効果の早い【真の魔王】を体内に導入しようと思考した。

 【真の魔王】もかなりの劇薬である。寄生虫のように発生する【自称魔王】も、それを駆除する為の【勇者】も含めて、知的生物は瞬く間に死滅するだろう。

 だがその時、異世界【テス】は他の世界からやってくる【毒薬】の存在に気付いた。

 毒も量を保てば薬にもなり得る。それでも【劇薬】には違いないが、【真の魔王】に比べれば、半分ほど“優しさ”で出来ているように感じられた。


 異世界【テス】の意思は、念の為にその【薬剤】に【真の魔王】の効果を若干付与して、自分の体内に取り込んだ。

 そして【テス】の思惑通り、その【薬剤】は歪になった世界のルールを破壊して、体調を元に戻してくれた。


 いづれその存在も、用が済めば自分の体内から居なくなるだろう。

 その存在に与えてしまった【真の魔王】の効果も、【毒薬】自らがあえてそれに触れようとしなければ効果も発動しない。


 世界は何もしない。ただ己の生命維持活動を行うのみである。


   ***


 異世界テスに住む人々は混乱した。

 これまで自分の中にあり、生活の一部でもあった【スキル】が、ある日突然使えなくなったのだ。

 【スキルシステム】は、一度会得すればその能力が下がることはない。

 それが、料理スキルを極めていたある料理人は、片手を振るだけで適量に入っていた調味料の分量や火加減が分からなくなり、地道に料理の腕を磨いていた見習いに頭を下げる羽目になった。

 剣術スキルのみで、身体を鍛えることをしなかったある貴族は、スキルが消えて剣を振り続けることさえ困難になり、騎士隊長を辞職した。

 だが、混乱はしても困った事態に陥ったのは、【スキル】の恩恵に頼りきりだった一部の者だけで、一般庶民の生活はさほど変わらなかった。

 【スキル】とは技能を数値化して自動的に行えるようにしたシステムであり、真面目に研鑽を積んだ者ならば、たとえ自動化が無くなっても大きな影響は出ないのだ。


 ただし、【戦闘スキル】が消えたせいで、人類の戦闘能力はかなり下がる事になる。

 これまでのように、数十人程度の騎士で大型の魔物を倒すような真似は出来なくなるだろう。


「これで良かったのかもね」

 王城のテラスから青い海と城下町を見下ろしながら言う、セイル国の第一王子であるフィヨルドの言葉に、新たな近衛騎士となった男が顔を上げる。

「なにが、でございましょうか?」

 この男は一番最初に黄金の聖女に絡んだ騎士であり、その時、ヌイグルミに負けて、聖女から直々に癒されたことで何か思うところがあったのか、真面目に剣の腕を磨いていたことからスキル消失でも影響が少なく、新たにフィヨルドの護衛騎士隊長に抜擢されていた。

「だって、【スキル】が無くなっても庶民は変わらずに生活している。魔物などの被害も増えたけど、そのおかげで【闇の勢力】とも和議を結べたじゃないか」

「なるほど……」


 人間を中心とした【光の勢力】と亜人を中心とした【闇の勢力】が争っていたのは、スキルによる戦力向上によって、【外敵】と言う【脅威】が居なかったからだ。

 皮肉なことだが、人類を発展させるために生み出された【スキルシステム】が、人類同士の争いを生み出していた。

 そのスキルが消えて、この世界の強者は人類だけでなくなり、他の脅威から身を守る為に、人類は再び手を結ぶことになったのだ。


「彼女のおかげかもね……」

 真の【魔王】となって人類の脅威となることで世界を纏め、新たな英雄達によって救い出された黄金の聖女は、面会謝絶になっていた病室から、従者達と共にどこかへ消えてしまった。

 あの【勇者】達ですら逃亡した本物の【魔王】。その戦いは苛烈を極めたが、その被害は思っていたよりも、……いや、不自然なほど少なかった。

 それはあの物静かで清らかな聖女が、魔王に取り込まれながらも必死に戦っていてくれたからだろう。

 その後に彼女が消えたのは、【魔王】を完全に滅ぼす為、敵地に向かったのだと兵や民達が噂し、吟遊詩人が讃えるように謡っていた。

 このスキルが消えた事件もそのせいだろうか……。

 おそらく真の魔王と黄金の聖女の戦いは、世界の理を壊してしまうほどに激しいものだったのだろう。


「ユールシア姫……また、逢えますよね」

 フィヨルド王子の漏らした声に、騎士も微笑んで頷く。

 世界は急速に変わりつつある。

 勇者達が世界の裏切り者となって、勇者を召喚していた四大国の立場が悪くなり、もう異世界から【勇者】を呼ぶことは出来なくなるだろう。

 セイル国だけでも王陛下が心労で倒れ、勇者達に入れ込んでいた第二王女のビアンカはその責任を取らされ、王位継承権を放棄という形で辺境へ行くことになり、まだ幼いフィヨルドが表舞台に立つことで国を立て直そうとしていた。

 勇者が居なくなったことで、人々はさらに魔物の脅威に曝されることになったが、国家に属さない新たな【英雄】達が世界を旅して人々を救っている。

 その英雄達は……



「大地、私のドーナツ食べたでしょっ!」

「ええええっ!? 燈火、ダイエットするって言ってたじゃんっ」

「後で食べるのよっ!」

 後っていつだよ、とか思わなくもないが、ダイエットする事と、甘いものを我慢するのはイコールではないらしい。

 森の道を愉しげに喧嘩しながら追いかけっこする二人を、風太と瑞樹の二人が呆れながらも顔を見合わせ、吹き出すように笑い出した。


 瑞樹はあの【魔王大戦】と呼ばれる戦いで仲間達と共に人々を救い、魔王に取り込まれた聖女を救い出した功績から、勇者に変わる新たな英雄と呼ばれるようになった。

 彼らの功績は【闇の勢力】にも認められ、全権大使であるダークエルフの双子の姫からの希望で、彼らの手により停戦協定が結ばれ、数千年に及ぶ長い戦争の幕を下ろした。

 新たな英雄となった彼らは国家に属することを望まず、人間や亜人と言った垣根を越えて人々を救うために四人で旅をしている。


「ユルちゃんは、見捨てても良かった私達を保護して、生きる為の力をくれた。だから私達は、それを見知らぬ誰かに返していくの」


 そうしてこの世界の人々は【畏れ】を思い出し、この異世界【テス】は、歪んでいた【世界の理】を徐々に正常に戻していくことになる。


   ***


「ユールシア様、凜涅様、お帰りをお待ちしておりました」


 私とリンネが精霊界との狭間から戻ると、従者達が揃って出迎えてくれた。

 さすがに【大悪魔】の彼らでも精霊界はやばいからね。私達を待っている間、結構心配してくれていたらしい。

「ユールシア様ぁ、暇だったから“らーめん”って物を作ってみたんだけど、食べる?」

「………後で食べるわ、ファニー」

 本当に心配してたんだよね……? そのどす黒いスープの“原材料”が気になるわ。

『ガウ』

『……(ひょい)』

 恩坐くんとギアスも元気そうです。ただ二人とも、あの計画で色々と無茶をさせていたから、まだヌイグルミ状態だった。しばらく人化は無理そうね。

 まぁ、それはいいんだけど……


「……ティナ?」

「何でございましょう。主様」

 ……ティナの様子がおかしい。正確に言うと、ティナの一部がおかしい。

 従者達には、私達があっちに行っている間、【スキル使用契約書】レプリカの調査をさせていた。

 最終的にはあの石板だけで有用な極一部のスキルを使えるか、私達でも扱えるように出来るか研究をさせていたんですけど……

「それは何?」

「………何のことでございましょう」

 ティナの胸部が、メロンどころかスイカ並みに膨れあがっていた。

 ファニーも年齢のわりに大きいけど、現在のティナの胸部はあまりにも不自然だ。

「セフィラのスキルが見つかったの?」

「………私は無実です」

 ほほぉ、そうかそうか。

「てい」

「あああっ」

 私が真紅の爪で(つつ)くと、ティナの胸部は空気が抜けるように消えてしまった。

 ……なんだ、このスキル。

「そんな変な物に頼らなくても、何とかしてあげるから待ってなさい」

「……はい」

 両手と両膝を大地に付きながら、ティナがかろうじて返事を返す。

 何とかすると言ったのは気休めじゃないよ。

 現代知識を使った【神聖魔法】の応用で頭皮を治療したように、この世界で培われた【勇者の秘術】の応用で、胸部を成長させる魔法が実用段階まで来ているのです。

 聖王国に戻ったら、また一儲けいたしましょう。

 ……まぁ、個人差もあるから、全員が確実に育つ訳でもないんだけど。


「それで、聖王国の座標は見つかった?」

 ようやく本題に入る。何故か分からないけど、この子達と会話していると話が逸れまくるのよね。

「はい、ユールシア様。あの古城にあった石板を全て調べたところ、過去に地球以外からの勇者を召喚しようとした記録がございました」

 私の質問に、執事悪魔のノアが眼鏡を掛け直してから書類を捲る。……それ、伊達眼鏡だよね?

「その中に、聖王国のある世界【アトラ】らしき記述があり、座標は確定しましたが、そこが【アトラ】である確証はありません」

 そこまで言ってノアがチラリと私を見る。

「了解。私が確かめればいいのね」

 私だけがそこをアトラだと確認出来る術がある。空間系が得意なファニーに教えてもらいながら、私はその世界に意識を向けた。

 ………ある。そこに聖王国がある。少なくとも私の【魂】と繋がりのある人物が二人居る。私の【名付け】をした人達。

「お父様とお母様がいる……」

 お父様が私の名前を考えて、お母様が私に名を付けた。だから私が名を付けたリンネと魂の繋がりがあるように、私は二人を見つけることが出来る。

 ……すごく微弱だから、方位が分からないと無理だけど。


「それでは、いよいよ聖王国に帰還します」

「あ、ユールシアさまぁ、ちょっと待って」

 早速帰還しようとしたところ、のんびりとしたニアの声が待ったをかけた。

「ん? どしたの?」

「実はみんなでこんな物を用意したんですよぉ」


 やっぱりと言うべきか、どうやら私達が、時間がいい加減な精霊界との狭間に行っている間に、現世では数ヶ月経っていたみたい。

 聖王国では秋初めの月に差し掛かり、私はもうすぐ13歳になるらしい。

 11歳で【悪魔公(デモンロード)】と半年間戦い、その後罠に掛かって半年間過去に幽閉され、その後でこの【テス】に来たけれど、もう二年近くになるんだね。

「みんな……」

 このままでは聖王国帰還中の異次元の中で誕生日を迎えるかも知れないので、地球の知識がある恩坐くんなどのアドバイスで、お誕生日ケーキではないけど、“似たもの”を製作したんだって。


『……ォオオオォオォオオォオオオォオオォオォオオォオオォオォォ……』


 そこには、13本のローソクを立てた【らーめん】の中で、どす黒いスープに浮かんだ無数の人の顔が、怨嗟の呻き声をあげていた。

「…………」

 このらーめんは、後でスタッフ(恩坐くん)が美味しく戴きました。


「さぁ行こうか、ユールシア」

「うん」

 今度は普通に差し出された、ノリに付いてこれずに若干呆れたようなリンネの手を握って、従者達が開いてくれた異次元の扉へ足を進める。

 私達はようやく聖王国タリテルドに帰還する。

 懐かしい両親や友達にやっと会えるのです。

 でも………私は気付かなかった。

 もし私に自分のステータスを見ることが出来たなら気付けていたかも知れない。

 【魔神】【魔獣】【聖女】などの称号の他に、新たに一つ……


 全てを滅ぼす【真の魔王】の称号が記されていたことを……。


  

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 異世界巡業編はここまでとなり、第三部の帰郷した聖王国編へと続きます。

 第三部は、また新たに始めようかとも考えたのですが、あまり小分けにしても読みづらい気がしましたので、このまま第三部もここで続けたいと思います。

 リメイク前の【ネタバレ倉庫】のほうですが、何かあるかと思い連載中のままにしていましたが、とりあえず完結状態にしておきます。


 さて第三部ですが、さすがに行き当たりばったりの第二部に四苦八苦していたので、今度は多少時間を戴き、ある程度書きためてから連載を再開したいと思います。

 それだけでは何ですので、途中で閑話のようなものを1~2話挟む予定です。


 それと、ずっとやろうと思っていた第一部の【ゆるいアクマの物語】のほうで、若干の軽修正を行います。

 修正と言っても第二部のような大規模なものではなく、『○○』、【○○】、“○○”などの書式の統一化と、読みにくい部分の修正や改行などが主になり、内容の変更はありません。

 その時に、足りていなかった説明や、他者視点などの閑話などを追加する予定なので、一時的に『完結』を解除することになるかと思いますが、ご了承ください。


 第二部もそれに伴い閑話などを追加するかと思います。

 新作も予定していますが、書きたい話が複数あって困っています。

 また、第一話しかない小説がPCに溜まっていく……。


 それでは引き続き、よろしくお願いします。


2017/05/13 第一部、第二部、修正終わりました。

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