007 スギ花粉ちゃん
ちょっと時季外れ
「わたし、スギ花粉ちゃん! 杉の花粉の精霊なのです!」
そんなことを言い放ったのは、真っ黄色なミニドレスを着た緑色の髪の幼女だった。
大きさは分からない。目に見えないほど小さいのかもしれないし、人の手の上に乗る程度の大きさかもしれないが、どちらにしろ人間の目には見えないのだから問題はなかった。その挨拶が誰にも聞かれていない事もどうでもいいらしい。
「わたしの使命は、人間を幸せにすることなのです!」
そう言ってスギ花粉ちゃんが自分の胸を叩くと、黄色のドレスから黄色い粉が、もあっと飛び散った。
スギ花粉ちゃんは、杉の花粉の精霊である自分がどうやって人間を幸せに出来るのか考えた。そして答えは人間の生活を見ればすぐに理解できた。
「人間には木材が必要なのですよ!」
人間に必要なのは、衣・食・住――その中でスギ花粉ちゃんが最初に目を付けたのが〝住〟に必要な木材であった。
「人間は木の家に住むのです。地震があるから石の家は崩れたら危ないのです。だから杉の木がいっぱいあると人間は幸せなのです!」
そうしてスギ花粉ちゃんは、あちらこちらで自分の黄色いドレスを叩いて、沢山の魔法の粉(黄色)をばらまいた。
スギ花粉ちゃんの努力の甲斐もあってその国の至る所に沢山の杉の木が増えて、住宅では消費しきれないほど杉の木が増える。
「これで人間はみんな喜ぶのです!」
確かにスギ花粉ちゃんのおかげで人間の〝住〟は充実した。だけど、スギ花粉ちゃんはもっともっと人間に幸せになってほしかった。
「今度は、〝衣〟なのです!」
人間は服を着る。スギ花粉の精霊であるスギ花粉ちゃんにはよく分からなかったが、スギ花粉ちゃんがばらまく黄色い粉を衣服に付ければ、カラフルになって人間はもっと喜んでくれると考えた。
「だから、黄色い粉をいっぱい出して、風の中にばらまくのです!」
スギ花粉ちゃんは強い風が吹く春頃を狙い、沢山の黄色い粉を出すように杉の木に命じた。
そんなスギ花粉ちゃんの献身的な努力によって、飛び散った黄色い粉は人間の衣服に精一杯しがみつき、家の中にさえも黄色い粉を持ち込むことに成功した。
「空気も少し黄色くなって、人間は涙を流して喜んでいるのです!」
でも精霊であるスギ花粉ちゃんのお仕事に終わりはなかった。スギ花粉ちゃんは人間とは比べものにならないほど勤勉だったのだ。
「次は〝食〟なのです!」
人間にとって〝食〟は、一番大事なものだとスギ花粉ちゃんは知っていた。
食を充実させるのなら、食材を増やせばいいと考えるだろう。でも、勤勉なスギ花粉ちゃんの発想は違っていた。
スギ花粉ちゃんのおかげで人間の生活は豊かになった。でもそのせいで、人間は肥満になる者が多かったのだ。
「魔法の粉(黄色)でダイエットなのです!」
スギ花粉ちゃんの努力により、黄色い粉を浴びた人間はスギ花粉ちゃんの姿が見えなくても、その偉業に感動して涙を鼻水と一緒に出すほど感動することをスギ花粉ちゃんは知っていた。
鼻水や涙を流せば、物を食べている暇はなくなる。そうすれば自然にダイエットになるはずだと、スギ花粉ちゃんは泣いている人間に寄り添うと、ニコりと微笑みながら黄色い粉を振りまいた。
でも、平和の天使であるスギ花粉ちゃんにもついに敵が現れた。
「人間がマスクをしているのです!」
人間の世界では大きな病が流行っていた。
スギ花粉ちゃんの魔法の粉(黄色)より、小さな物が飛んで人間の身体に入り込み、賢い人間は口と鼻にマスクという布を当てて、病気の元を防いでいた。
だがそれでは、せっかくのスギ花粉ちゃんの恩恵が届かなくなる。スギ花粉ちゃんが運ぶ〝幸せ〟を人間に届けるにはその病気の元を倒さなければいけなかった。
スギ花粉ちゃんは悩んだ。スギ花粉ちゃんは幸せを与える精霊であり、戦う事なんて出来なかったからだ。
でもスギ花粉ちゃんは諦めなかった。沢山の人に黄色い粉を届けたかったからだ。通常の方法では人間のマスクは外せない。だからスギ花粉ちゃんは逆転の発想をする。
「もっと沢山の魔法の粉(黄色)を振りまけばいいのです!」
作戦はこうだ。春の季節に死力を尽くして黄色い粉をばらまき、世界のすべての人間を感動させて鼻水まみれになれば、わざわざマスクをする必要はなくなると考えた。
危険な策だった。限界以上黄色い粉を振りまけば、スギ花粉ちゃんも疲れてしまう。病が勝つかスギ花粉ちゃんが勝つか……。
「……負けてしまったのです」
スギ花粉ちゃんの力をもってしても、人間を苦しめる病を倒すことはできなかった。
でもスギ花粉ちゃんは諦めなかった。来年の春までに力を溜めるために一時休むことを選んだ。
「来年こそ、今年よりも沢山の粉を撒いて、沢山の人を感動させるのです!」
***
「……なにこれ?」
提出された報告書から目を離して私が胡乱げな視線を向けると、報告書を持ってきたノアは眼鏡とマスクをしたまま静かに頷いた。
「主人様もいたあの世界ですが、精霊は消えたと思っていましたが、目に見えないほど小さくなって人間を守護していたようです」
「そう……」
そうかぁ……あれはそういう事だったのかぁ。(白目)
そんな私の態度にノアが新たな書類を執事服の内側から取り出すと、そのついでに、もあっと舞い上がった黄色い粉が漂うのを見て、同じ部屋にいたニアが表情を変えずに距離を取る。
「そこで私は、あの世界の精霊に対抗するため、一年中花粉を放出するワカメを開発いたしました。主人様の命があればいつでもあの世界にばらまいて……」
「やめてあげて」
……いや、ホントマジで。
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