008 聖女召喚
「聖女を追放しなければなりません」
とある異世界のとある国。その地には宝石樹と呼ばれる美しい木々と森があり、数多の精霊に愛され、人と触れあうほど身近に妖精が戯れる風光明媚な場所として知られていた。
人々は精霊にお願いして、増えすぎたわずかな数の樹木を切ることが許され、そのわずかな樹木は工芸品や装飾品に加工され、数多の人々がそれを求め、国に多くの財をもたらした。
精霊に愛されたその地では作物がよく育ち、美しい自然や工芸品、そして妖精との触れあいを求めて他国から多くの観光客も訪れている。
だが、その国は今、危機に瀕していた。
精霊に愛される宝石樹。だがその宝石樹は精霊の力を受けることで美しく輝くが、逆に瘴気を受ければ醜く爛れ、毒素を発するようになる。
その国では数百年に一度、邪悪な瘴気が森に溢れて美しい森を穢し、妖精たちは姿を隠して作物にも影響が出始めた。
そんな危機に対して国は異世界より〝聖女〟を召喚し、瘴気を浄化してもらうことで宝石樹が穢れることを防ごうとした。
聖女召喚。……でもそれは、平和に暮らしていた少女の拉致誘拐と何ら変わりはなかった。
「主人様、由々しき事態でございます」
「ええ、ティナ。早急な対処が必要になるわ」
これまでの経緯を調べてきたティナが深刻そうな顔つきでそう言い、私も我が意を得たと頷いた。
異世界から……しかも私と馴染みのある、例の召喚者直産地ことあの世界のあの国から直送――もとい連れ去られた聖女きららちゃんは、最初は困惑していましたが、王子様に事情を説明されると、この国のために聖女として瘴気を浄化することを決めたのです。しかし――
「あの王子はダメよね」
「まったくもってダメダメです」
ティナが作ってくれた魂入りチョコパフェを食べながら私たちは憤慨する。
この国には聖女を召喚する魔法はあっても、聖女を元の直産地へ返品する魔法はありません。なのでこの国では、聖女を王族の婚約者として迎え、幸せになってもらうことが決められていたのですが、ちょうど歳の近い王子がいて婚約者の一人とになったにも関わらず、その王子はきららちゃんを蔑ろにして、どこかのご令嬢と隠れてちちくりあっていたのです。
「それってダメなの~?」
「ええ、わたくしが調べたかぎりでは、そうなっています」
ファニーののんびりとした問いかけに、何故かいつの間にか縁の両端が尖っているザマス眼鏡を掛けたティナが、タブレットを見ながら自信満々に返した。
私は知らないけど、なんかどこかの世界に繋がったそのタブレットには、聖女を召喚しておいて蔑ろにするバカ王やバカ王子の話がよくあるらしく、流行っているらしい。……どこか知らないけど、恐ろしい世界ね。
「なので、きららちゃんにはこの国から合法的に追放してもらい、隣の国で幸せになってもらうことにします!」
「さすがです、主人様」
宝石樹の森から採れる果物の盛り合わせにフォークをぶっさす私に、ティナが無表情のまま元気いっぱいに拍手する。
ちょうど私たちがいる時期で幸運でした。
私は女王としての責務と世界を管理する邪神としての重責から、ティナとファニーのメイド二人を連れて、この世界にバカンスに来ていたのです。
いつも一人でふらふらしているから、お目付役を付けられたわけではないのです!
まぁ、二人の他にもメイドはいるんだけど大悪魔とか多いから、私の行動に対応できる悪魔公である二人が無理矢理ついてきた。
確かに大変な危機に瀕しているようですが、邪神である私と悪魔公メイドが二人もいれば、やって出来ないことはありません!
「というわけで、ファニーちゃん、やっておしまい」
「はーい」
私と一緒にふわふわパンケーキを頬張っていたファニーが〝ぶるん〟としながら立ち上がる。
見た目が十代後半くらいまで成長した私たちではあるけど、特にファニーは成長著しく、動くたびに〝ぶるん〟と揺れる。
なにが? あれだよ。それはもうメイドたちの中で自称ラブリースパイダーがご執心のお嬢様なみに〝ぶるん〟としてるけど、それはどうでもいい話なのでとりあえずティナはハンカチを食い千切るの止めなさい。
「ユールシア様、やってきたよ~」
「早いわね!」
早い。速いと言ってもいい。わずか数秒の出来事である。
ファニーちゃん……あなた、待つのが面倒だからって時空間歪めてやったんじゃなのよね?
「まぁ、報告を聞きましょう」
「あの王子くん、聖女がこの国に必要だってちゃんと理解してたから、とりあえず夢で操って、きららを追放させてみたよ~」
「そ、そう……」
理解していたのか、あの王子さま。そりゃ、普通の頭があればとち狂って聖女を追放なんてしないか……。
「ですが、きららさんを放っておいて、ご令嬢と密会はよくありません」
「そう! それよ!」
得意げにドヤ顔するティナの言葉に、私も乗っかる。そうです! 聖女が王子の婚約者となるなら浮気はいけないのです。
「うんとね、あの令嬢は最初から王子の婚約者で、今も王妃となることが決まってて、第二王妃となるきららのために公務を全部やるはずだったんだけど、それを嫉妬したきららに意地悪されていたよ」
「…………」
ファニーの報告にちらりとティナを見ると、彼女は手元のタブレットを覗き込みながら不思議そうな顔で首を捻っていた。
そんなティナに追い打ちを掛けるようにファニーが続ける。
「その子は、きららの追放を王子から聞いて諫めようとしていたから、そっちも夢で操って追放に賛成するようにしておいた~」
「あ……うん」
衝撃の新事実(既存情報)に一瞬目眩がした。
え……そっちの子もまともなのか。で、でも、それでもきららちゃんが、そのご令嬢を苛めるほど不快に感じているのなら、結果的に追放は良かったのではないしょうか?
「それでも、きららちゃんが幸せなら……」
「うん。一応確認してきたよ~」
ファニーが何か黒い玉のような物を潰すと、きららちゃんらしき女の子の独り言が再生された。
『――あの王子、顔がいいから付き合ってあげようと思ったのに、あんな大人しい女の何がいいのよ、むかつく~~。ちょっとお茶をぶっかけた程度で、めそめそ王子に泣きつくとか、なくなくない? でも、もういいわ。隣の国の王子もイケメンだし、そこでも聖女させてくれるって言うから、この国はあたしがいなくなって泣けばいいのよ、ぷぷぷ――』
「「…………」」
思わず無言になってティナと二人で下を向く。
そ、それでも、瘴気の原因は邪悪な感情なので、この国の人々に罪がないわけではないのです!
「それからねぇ、この国の瘴気の原因だけど、以前は狂乱公女が数百年ごとにバカンスに来ていたみたいで、そのせいだったよ」
「ああ~~……」
……なるほど? あれほどの邪神が来たらそうなるよねぇ。そうすると、今回の原因もそういうことかぁ……。
「「「アハハ」」」
フェニーが朗らかに笑い、私とティナが引き攣った顔で笑う。
「……帰りましょうか」
「「かしこまりました」」
後から聞いた話になりますが、私たち三人がいなくなったことで、宝石樹の森はすぐに正常に戻ったみたいです。不思議!(白目)
それで隣国に行ったきららちゃんだけど、そっちの国では瘴気はなかったけど、あの国ほど豊かじゃなくて、毎日どこかの村に行っては豊穣のお祈りをさせられているみたいです。
村人はすっごく感謝しているよ! きららちゃん、やったね! お城に戻れないほど忙しいけど、仕方ないね!
「人を幸せにするのって難しいわ……あうちっ!?」
なんとなく感慨深げにそう呟いたら、お仕事していた凜涅にデコピンされました。
ティナのタブレットはどこに繋がっていたのでしょう……
そして!
悪魔公女 書籍第1巻が6月2日(木)に発売します。早い本屋さんなら早めに入荷するかもしれないので要チェックです!
月刊少年シリウスのコミカライズはご覧になりましたか?
すごいですよね。開幕ワカメでしたw





