1-14 伝えたいこと ③
シリアス展開です。
「最近の小学生はこのような物も持っているのですね」
「……世の中、物騒ですから」
ふと思い付いて、ポケットに入れていた電池切れの携帯電話で、何か出来ないか試してみた。
電池が切れてても数秒くらいなら起動する。ポケットの中でやったから画面に滅茶苦茶触れてみただけだけど、運が良ければどこかにリダイヤルするかも知れない。
でも、その不自然な動きが見つかって、携帯電話は没収されてしまった。
「ふむ……電池は切れているみたいですね。おい」
商店街で会ったあの男性は、黒服の一人を呼ぶと私の携帯を渡す。
「充電して中身を確認後、そこら辺の川辺にでも放置しろ。おそらくGPS機能で見つけてくれるはずだ。指紋は気をつけろよ」
「わかりました」
「あなた、何のつもり……?」
何となく嫌な予感がして尋ねると、男性は薄っぺらな笑みを浮かべて貴族のように腰を折り頭を下げる。
「私のことは京時とお呼びください。ああそうそう、携帯のことでしたね。子供が川で行方不明になるのは良くある事ですから」
京時はそう言って説明を途中で切り上げた。
面倒になったのか、子供には理解できないと思ったのか、多分その両方でしょう。
でもきっとこういう事だ。
川で溺れたと勘違いすれば、警察でも探索に時間が掛かる。実際には川にいないのだから、捜査の攪乱にもなる。
そして最後には、私を“溺死体”にするつもりなんでしょう。
……まただ。
心の奥から“何か”記憶の残滓が浮かび上がってくる。少しずつその隙間を埋めるように繋がって色が付き始める。
前にもこんな事があった……? 誘拐されて……どうしたんだっけ? 小さな男の子と女の子が……あれ?
そのまま私は彼らの車に乗せられてどこかへ連れて行かれた。
体感時間で1時間ほどかな。途中で高速に乗ったから遠くに行くのかと思ったけど、何度か降りたり乗ったり、細い道に入ったりしていたから誰か付けていないか確かめているみたいだった。
ちらりと後ろを見ると、後ろの車の助手席からあの偽運転手の品原が憎しみに満ちた目で私を見つめていたので、にこやかに軽く手を振っておく。
「余裕ですね」
そんな私に京時が呆れたような目で私を見た。
「可愛らしいじゃないですか」
「余裕ですね……」
そうしているうちに木々が多い地域に入り、一軒の建物に辿り着いた。
「……学校?」
「ええ、そうですよ。子供の減少で五年前に廃校になりました。もしかしたら少子化対策が功をなして子供が増えるかもと考えて残されましたが、結果はごらんの通りです」
「対策でも助成金でもいいけど……、未来に希望がないと子供は増えないわよ?」
「……あなたは、本当に小学生ですか?」
車から降ろされ、暇を持て余して歩きながら会話をしていたんだけど、京時は一瞬足を止めて私の顔をまじまじと見つめる。
「ええ、小学二年生ですよ。ついでに言うと、私はあの商店街とは何の関係もありませんが」
ここまで来たら隠して置いても意味がない。どうせ、生かしておくつもりなんてないでしょうから。
「やはり、君は頭がいいですね、柚子さん」
京時は名乗ってもいない、私の名前を呼ぶ。
「私どもがあの商店街が狙いだと、どこで気がつきました?」
「別に……私もそれが良い手だと思っただけですよ。でも……私でいいの?」
「最初はあなたが店の子供だと思っていたのですが……、別にどちらでも良かったのですよ。柚子さんはあの商店街で有名になっていましたから」
「……人生はままならないものですね」
「本当に、君は子供らしくない。あなたが大人でしたら惚れていたかも知れませんね。もう会えないのかと思うと残念になってきましたよ」
「ええ……本当に」
本当に……どうして私は怯えていないのだろう。
もう家族に会えなくなるかも知れないのに、私の頭の片隅に、殺し殺されて命が消えるのはある意味仕方ない。……と考えている自分がいた。
我ながらどんな小学生だよ。
「校舎の二階にある校長室に向かいます」
「応接室があるから?」
「そうですね。私どもの主人が進行状況を知りたくて、こんな場所にまで来てしまったのですよ。ご迷惑でしょうが会っていただけますか?」
「仕方ないですね……。部下の迷惑は考えないのかしら?」
「本当に困ったお人ですよ」
電気は点いていないのね……。通る道や階段の隅に非常用のランプが何カ所か置いてある。そして校長室に入ると、京時によく似たおじさんと、着物を着た迫力のあるお爺さんがいた。
この部屋には他に黒服が数人。校舎に入って校長室に来るまでにも、黒服や柄の悪い男達を数十人ほど見かけていた。
「綺堂、こいつが商店街に関係のある子供か?」
「はい。商店街に血縁のある者が居ます。本人も顔を知られているようですので、不安を煽るには充分かと」
「もしかして、公貴くんのお祖父さん?」
突然声を出した私に、お祖父さんは目を見開いて、それまでまともに見なかった私の顔を見た。
「……その制服は、高峯か。そうか、公貴から儂のことを聞いたか? 口が軽い奴め。だから儂の決めた相手と結婚すれば良かったのだっ。あれが孫だと思うと情けなくなってくる」
「…………」
随分……好き勝手言っているね。
「私のほうで後添え候補を見繕っております。政界復帰後、計画に移しましょう」
「そうだな。まともな孫が産める良い相手を見繕っておけ」
「翁ご自身が、新たにお作りになっては?」
お祖父さんと綺堂との会話に、京時がそんなことを横から言った。
「こら、京時っ」
「ふむ……儂がか? それも良いが今更儂の子だと醜聞が立つ。孫として育てるとしても、家柄が良く頭の良い女が、そんな子を産むだけの役目を受けはせん。それに儂も数年は大人しくしとかんとならんしな」
「数年後……とお考えならば、そこそこ家柄も良く、頭の良い者ならいますよ。ほら…ここに、翁と今回の件で関係を見抜いた者が……」
「……ほほぉ」
その場にいた全員の視線が私に向けられる。
「五~六年もすれば充分に子は産めるでしょう。頭も良いですが顔立ちも良い。それにすでに居なくなった人物ですから」
「ふむ」
ドロドロに熱したコールタールのように噎せ返る“悪意”……。
私の奥から暖かな日常を押しのけ、暗い塊がゆっくりと姿を現し、微かに嗤った。
人を人とも思っていない、腐った心。ああ……なんて……
美味しそう……。
「……ッ、」
私を見ていた京時が何を感じて私から飛び退いた。
それを静かに目で追った私は、校長室の窓から見える大木の天辺に、あの【黒猫】の姿を見た。
……そうなんだね。【彼】は、これを伝えたかったんだね………。
私は……【悪魔】だ。
「……ぁははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」
次回、悪魔公女Ⅱ-1-15話 『 悪魔聖誕 』





