71話 旅立ち
BBQを終えて片付けを始めていた俺は、仕事が遅れないように帰りの準備を始めていた傭兵ギルドのギルマスとトリッシュと話していた。
「ほら!ギルマス!いつまで飲んでいるのですか!そろそろ行かなければ王都へ向かう馬車が!」
「わーったっての!まったく。あ、そういや、スズヤ。お前、オークションに行きたいって言ってなかったか?」
「え、ええ。確かに行きたかったですけど?」
「今年はお前が持ち込んだラーヴァピスキスが話題を呼びすぎて、日程に余裕を持って開催されることになったらしくてな。オークションは10日後に開催らしいぞ。馬車で向かうと流石に30日~40日以上は掛かる距離だが、早馬で向かえばギリギリ間に合うんじゃねぇか?」
いきたい!!
けど、馬なんて乗れません……。
あ、場所さえわかれば、エン爺に乗って近くまで行けば余裕で間に合うんじゃ?
「行きます!!行きたいです!!シュラスコの街?でしたっけ?場所を教えてもらえますか!!」
「お、おう。そりゃ構わねぇが、早馬はどうする?傭兵ギルドに戻ったら用意しといてやろうか?」
「いえ、移動手段には当てがあるので大丈夫です!」
「あー……。そういうことか。それなら急ぐことはねぇか。まぁ、騒ぎにならないように気ぃ付けろや」
ギルマスはエン爺に乗っていくのだと察してくれたらしい。
確かに騒ぎになるのはごめんだ。
シュラスコの街の近くに、エン爺が降りても目立たないような森とかがあればいいんだけども。
「ではそろそろ行きましょう!スズヤ様。本日はお招きいただき誠にありがとうございました。どの食材も飲み物もとても美味しかったです」
「いえいえ、また宴を開くことがあればギルマスを通してお声掛けしますので、トリッシュさんもよかったら参加してください」
「ええ、是非♪」
トリッシュさんと別れの挨拶をしていると、ギルマスが何かを思い出したといった様子を示した。
「ああ、そうだ。オークションに向かうつもりなら、王都の傭兵ギルドに一度顔出してけ。んじゃ今日はありがとな!また呼んでくれや!!」
それだけ言い残して、ギルマスはトリッシュに無理やり引っ張られながら去っていった。
その後はエクレール公爵家とお忍び陛下、それと明日から仕事があるという緑の目のガッシュとトレルもお見送りして、フランゼ商会の従業員たちと龍の牙に片づけを手伝ってもらい、BBQはお開きとなった。
※ ※ ※
「おはよう。皆には伝えていたけど、俺は一度この国を出ようと思う」
昨晩うちに泊まった龍の牙やトルネ、バルモアも含めて、皆を集め、俺はファーランド王国を出立することを伝えた。
シアとエルは相変わらず寂しそうな顔を浮かべている。
そんな二人の顔を見ると判断が鈍りそうになる。
「シア、エルもし――」
俺がそう言いかけたとき、シアとエルはお互い顔を見合わせると、俺の言葉を遮るかのように告げた。
「スズヤ!私絶対アレクより強くなるからね!!」
「私も!!誰にも負けないくらい魔法を覚えて、みんなと一緒に行く!」
「「だから心配しないで!」」
俺はダメだな……。
二人がちゃんと真剣に考えて、自分で決めたことなのに、情に流されてやっぱ二人を連れていこうかと思ってしまった。
エン爺とライアの顔を見ると、二人は小さく頷いた。
二人ともシアとエルの選択を尊重する考えみたいだ。
「うん。わかった。必ず戻ってくるから、トルネさんやアレク達の言うことをちゃんと聞いていい子にするんだよ」
二人の頭を優しく抱き寄せながら俺はそう言った。
「「うん」」
「寂しくなったらいつでも連絡してきていいからな」
「「うん!」」
「ふふ♪私はスズヤさんのほうから、二人に連絡しそうな気がしてます♪」
「ははっ。マリアの言う通りだな」
「スズヤさん。子離れ出来る?大丈夫~?」
「うむ」
「だ、大丈夫だ!ってか子離れって!!俺は未婚だ!!」
重い空気になりかけていたところを、龍の牙が温かい雰囲気に変えてくれた。
そんな様子を見ながら、トルネはうんうんと頷いていた。
「スズヤさんはもうすでに立派なお父さんしてると思います!!」
「そうですな」
「なっ!?トルネさんとバルモアさんまで!?」
場は笑い声に包まれた。
「まったく……。さてと、二人にはこれを渡しておくね。」
俺は気を取り直してシアとエルの方を向き直り、用意していたマジックバッグを取り出し、それぞれに手渡した。
そして最後にエルに大きなマジックバッグも。
個別に渡した物は、エン爺やライアにも渡しているポーチ型の小型のマジックバッグ。
大きなマジックバッグは俺が使っているものと同じものだ。
大きなマジックには、昨晩【ふるさと納税】で購入した、大量の食材や果物、飲料などを事前に入れておいた。
それとあるものと1通の手紙を入れてある。
「わぁ!お揃い!!」
「ありがとう!!」
「ふふ。どういたしまして」
そして俺は少し腰を落とし、二人にだけ聞こえるように、続けて耳打ちをする。
「この鞄には大量の食材や飲み物、果物を入れてあるから、この屋敷の人やクラリス嬢には見られてもいいけど、それ以外の人には見られないように注意してね。それと2通の手紙を入れてある。小さな方は時期が来たらトルネに渡してほしい。時期が来たら俺から連絡するね。それと鞄の中に――」
ひそひそ話を終えると、シアとエルは笑みを浮かべて返事をする。
「「わかった!」」
「トルネさん、バルモアさん。二人に預けた鞄に大量の食材を分けておきましたので、上手く活用してあげてください」
「食材!?何の食材ですか!?まさか昨日の魚肉も!?だとし――もがっ!」
興奮気味のトルネの口をバルモアが後ろから押さえて、代わりに返事をする。
「畏まりました。お二人から食材を受け取ったときには、こちらで調理できるよう手配しておきます。他にも少々確認しておきたいことがございますので、よろしいでしょうか。まずは――」
俺がバルモアから二人の生活習慣や食の好みなど、これから必要となりそうな内容について確認を受けている間、後ろでエン爺とライアも皆と挨拶を交わしていた。
「エン爺!私強くなっていつか追いつくから!!」
「うむ。いい気概だ。シアは見込みがありそうだな」
「ライアちゃん、元気でね!私もシアに負けないくらい、いっぱいいっぱい魔法を使えるようになって追いつくからね」
「ん。楽しみ」
「シアとエレナは俺らも面倒見るから任せてくれ」
アレクはエン爺とライアにそう告げる。
「うむ。アレク殿たちであれば問題なかろう」
「ふふ♪シアちゃんはアレクを追い抜くって言ってるから、追い抜かれないように最近必死で自主練をしてるんですよ♪」
「あっ!マリア!なんでお前がそれを知ってんだよ!?」
「えっ?アレク気が付いて無かったの!?マリアだけじゃなくて、私もガイも知ってるよ」
「なぁっ!?まぁいいだろ!?鍛えて損することはないんだしよ!!」
「へへ~。二人を見て刺激を受けてるのは、アレクだけじゃないよ~?私も斥候としての腕を磨くために索敵と隠密行動の練習を増やしたし、マリアは魔力制御と魔力操作を毎日寝る前やるようになったし、ガイも隠れて筋トレしてるよねぇ?」
「う、うむ……」
「なんだ!みんな一緒かよ!俺だけかと思って恥ずかしがって損したぜ!」
俺がバルモアとトルネに二人のことを伝え終えて、こちらの話に合流するとアレクがそわそわしていた。
最後に、玄関の前に出て、皆が見送りをしてくれた。
「それで、どちらへ向かうんですか?」
トルネが俺らの行き先を確認してくる。
そういえばまだ言ってなかったっけか。
「商業の国トレマ公国だよ。まずはオークションを見てみたいからシュラスコの街に行く予定」
「オークション!!シュラスコの街のオークションといえば!!大陸最大のオークションですね!!大陸各地からあらゆる希少な物が出品されるという……!あぁ……、私も一度は行ってみたいものです」
あはは……。
まぁ、生粋の商人ならオークションは気になるだろうなぁ。
エセ商人の俺ですら興味あるくらいだし。
「そんなわけで、ちょっと距離はあるみたいだけど、シュラスコの街に行くから、何かあったら連絡してくれ。あ、トランシーバーの予備をいくつか渡しておくから、必要と判断した人には渡してもらえるか?アマチュア無線機は屋敷の俺の部屋に置いておいたから、クラリス嬢と協力してトルネさんが管理してくれると助かるよ」
そう言ってトランシーバーを5つトルネに差し出した。
こんなに必要になるか分からないけど、バルモアさんに1つ、あとは出来れば自領に戻るであろうエクレール公爵家の二人、可能であれば陛下にも渡しておけたら、色々と助けてくれそうだしね。
「畏まりました!お任せください!!」
「それじゃ、行ってくるよ。シア、エル。またな。俺らの帰る家を守っててくれると助かる」
「うん!任せて!またね!」
「いってらっしゃい!気をつけてね!」
姿が見えなくなるまで互いに手を振って、別れを惜しんだ。
そして馬車乗り場に向かう俺は、既に進む足が重たくなっていた。
そんな俺を見かねてエン爺がため息まじりに口を開く。
「はぁ。我が主はまったく、子供に弱くて敵わんな。のうライア先輩よ」
「ん。主様、甘い」
うっ。
ライアにまで甘いって言われた……。
「でも、そんな主様が、好き」
「がはは!確かに、我も嫌いではないのぅ!!」
「二人とも……」
シアとエルと離れて、弱っていたところに二人の信頼を感じて涙ぐんでいると、エン爺は冷静に馬車の時間を指摘する。
「ほれ、馬車の時間があるのだろう?急がぬか」
※ ※ ※
皆との別れを終えて、温泉都市クサツを出た俺たちは、2日間の馬車移動を終え、王都へ到着した。
この王都でも色々あったけど、今日で見納めと思うとちょっと感慨深いな。
街の雰囲気を目に焼き付けるようにして眺めながら、俺たちは傭兵ギルドへと向かった。
中に入ると何故かロビーで待機していたギルマス。
「よう。やっときたか。奥の部屋に行くぞ」
「えっ?ちょ!」
腕を引っ張られ、半ば強制で応接室に連行される。
「さて、シュラスコの街に行くんだったよな?」
「ええ、ですので、近隣の地形がわかる地図とかあれば確認したいのですが」
「地図はあるが、流石に地形は大まかにしかわからんぞ。他国の詳細地図なんて、戦時利用出来ちまうから出回らん。大まかにわかる地図ならこれだな」
なるほど。
GPSとか衛星写真も無い世界だと、精密な地図や地形情報は国家機密になるってことか。
ギルマスがテーブルに広げた地図を俺とエン爺で確認する。
「ここがファーランド王国の王都シュテラ。俺らが今いる都市だな。ここからずーっと南東に向かった先、ここがシュラスコの街だ。ファーランド王国の国内は森林地帯が続いてるはずだが、俺も行ったことがねぇから国境を超えた先のことまでは分からねぇ」
「地図を見ただけじゃ流石に分かりませんね。エン爺この辺り知ってる?」
「うむ。1000年以上前になるが、その付近の平地に人の街があったのが覚えておる」
「近くに飛んで降りても見つかり難そうな森とかあった?」
「流石にかなり昔なのでうろ覚えだな。それに地形も変わっておるのではないか?」
「行ってみるしかないってことか……。まぁ、平原地帯ってことなら草木はありそうだし、ライアの索敵能力で人怪我無さそうなところは探せるか」
「ん。平原なら、大丈夫」
「決まりだね。んじゃ俺らはシュラスコの街に向かいます。地図を見せていただきありがとうございました」
礼を言って去ろうとする。
「ちょっとまて、オークションに間に合うってんなら、この書状をもってけ」
ギルマスは2枚の書状を差し出してきた。
「ん?これは?」
「一枚はオークション販売契約書の代理証明。もう一枚はラーヴァピスキスの出品証明書だ」
「えっ?ラーヴァピスキスは傭兵ギルドの出品になるのでは?何故俺に?」
「お前がいけるならうちで出品する必要ねぇだろ」
ごもっとも……。
「あ、ってことはこちらは返却しますね」
そう言って俺は金貨が5000枚入った麻袋を取り出し、テーブルの上に置いた。
ラーヴァピスキスの売り上げを予想して、ギルマスが事前に支払ってくれていた分だ。
自分で出品して、売却金を受取まで済ますなら、ちゃんと返しておかないとね。
「いやいや!まてまて!マジックバッグの件はどうすんだよ!?手数料差し引いた分として、うちで貰う話になってたやつがあるだろう!!」
「ああ、そういえば?色々お世話になったんで、そのまま傭兵ギルドに差し上げます。それじゃ!」
俺はお金返すって言われても困るし、マジックバッグの金額交渉とかが始まると面倒になりそうだったので、エン爺とライアの背中を押して、そそくさと部屋から退出した。
「おい!ちょっと待――。行っちまった……。アーティファクト級のマジックバッグを無償でって。あいつほんとに商人かぁ?まったく……。欲がないとかそう言う次元じゃねぇな。まぁ、気持ちのいい奴なのは確かか!心配するだけ無駄だろうが、気をつけていってこい!」
窓から見える街中に消えゆく三人の後ろ姿を見ながら、ギルマスは笑みを浮かべて見送った。
ここまで、2章「新都市開発編」をお読みいただきありがとうございました!
次章からは新しい国が舞台になります。楽しみにしていただけると嬉しいです。




