第35話(最終章第10話):最大の国家式典―『小学校入学式』と巣立ちの予感
~最高格式の式典
午前0600(マルロクマルマル)。
作戦室には、“張り詰めた空気”が漂っていた。
その中心に立つのは、ハンガーに掛けられた真新しい制服。
いや、これはただの服ではない。
我が国の次世代最高司令官が初めて身にまとう――
『特級礼服(ランドセル+小学校制服一式)』である。
私はその礼服の前で、まるで戦場の地図を読み解くように
静かに息を整えた。
「……本日、我が国は最高格式の国家式典を迎える」
その言葉は、誰に向けたものでもない。
ただ、司令官として自分自身に告げる“開戦宣言”だった。
かつて、オムツ補給とミルク調達に追われていたあの日々。
抱っこ紐の中で泣き叫ぶだけだった小さな要人――
リク・ザ・デストロイヤー6歳(今年7歳)。
その戦士が今、自分の足で立ち、
ピカピカのランドセルを背負おうとしている。
その成長の重みが、礼服の肩に宿っていた。
「葵、式典前の最終点検終わった?」
副官の夫が背後から声をかけてきた。
振り返ると、彼は仕立ての良いスーツ姿で
ネクタイを整えながら立っていた。
今日は、私の“静かな緊張”を見て、副官も状況を察している。
「当然よ、副官。
これは我が国の歴史すべての集大成。
一分の隙も許されないわ」
副官は微笑み、私の肩をポンと叩く。
「そんなに肩に力を入れるなよ。
お前が緊張すると、主役のリクまで固まっちまう。
今日は誇らしい門出の日だ」
その言葉に、私は少しだけ肩の力を抜いた。
「おはよーーーっ!……って、
うわっ!なんだこのデカいカバン!」
怒号とともにリクがリビングへ突入。
そして「特級礼服一式」(制服とランドセル)を装備。
背中には、体格に対してやや大きすぎるランドセル。
しかし、足元の地雷散布を華麗に回避しながら進む姿は、
すでに一人前の戦士そのものだった。
「リク、直立。式典前の最終点検を行う」
「はーい! ぼく、もう小学生だぜ!」
胸を張るリクを見つめながら、私は込み上げる感情を押し込めた。
――本当に、大きくなった。
「身だしなみチェック、異常なし。
これより『小学校入学式・出陣式』を許可する」
「ラジャー!」
「じゃあ出発するか。
俺が副官として、要人リクを護衛しつつ現地へ向かうぞ」
副官の夫が車のキーを鳴らす。
その横で、プリンセス・メイ(4歳)が
今日はおめかしした姿でトコトコと歩いてきた。
メイも式場まで一緒に連れて行くのだ。
(家に一人にしておけないから)
「おにいちゃん かっこいい!
しきてんがんばってね メイおうえんしてる!」
「おう、メイもいい子にしてろよ!」
兄妹のやり取りを見守りながら、私たちは玄関のドアを開け、
晴れ渡る青空の下へ踏み出した。
満開の桜が舞う小学校の正門前。
真新しいランドセルを背負ったリクを中心に、
私たちはレンズへ向かって微笑んだ。
「はい、チーズ!」
シャッターが切られた瞬間、リクの表情は緊張と誇らしさが混じった
最高に眩しい笑顔だった。
◇
式典が終わり、静けさを取り戻したリビング。
私はカップを手にしながら、窓の外の青空を見つめた。
「……無事に終わったわね」
隣で夫の副官がミルクティーを差し出す。
「ああ。でも終わりじゃない。
あいつにとっては、ここからが本当の新しい戦場だ」
寂しさよりも、それを大きく上回る誇らしさと安心感が
胸に満ちていた。
最強の同盟国(夫婦)と、逞しく育った次世代の戦士たち。
我が国(家)の未来は、今日も明日も、
自分たちの手で切り拓かれていく――。
(最終章第10話終わり)




