第11話:消えかけの境界
白に、塗り潰される。
結果が、落ちる。
逃げ場はない。
クロエは、動けない。
体が固定されている。
選択が、できない。
「……クソ」
セレナも膝をついていた。
羽の黒が、広がりすぎている。
エルの輪郭が、崩れる。
「……存在維持、困難」
声が、途切れる。
レグルスが、一歩近づく。
「終了だ」
その手が、下ろされる。
完全な“結果”。
その瞬間。
――ズレる。
ほんの、わずかに。
レグルスの足元。
影が、一瞬だけ二重になる。
「……?」
クロエの目が動く。
「今……」
次の瞬間。
空間が歪む。
だがそれは、激しい崩壊ではない。
“外側からの干渉”。
レグルスの周囲に、ノイズが走る。
「……介入?」
低い声。
そして。
「やりすぎだよ、それ」
軽い声が落ちた。
クロエが目を見開く。
「……イブ」
何もない場所に、“いる”。
最初からそこにいたみたいに。
レグルスが、そちらを見る。
「外部要因」
イブが肩をすくめた。
「そうそう、そういうやつ」
一歩、踏み出す。
その動きは、レグルスの“固定”に引っかからない。
「……例外か」
イブが笑う。
「うん、そういうこと」
指を、軽く鳴らす。
“ズレ”が広がった。
固定されていた空間に、ヒビが入る。
クロエの指先が、動く。
「……動ける」
だが、その瞬間。
エルが崩れる。
「……っ!」
輪郭が、一気に薄くなる。
半分、消える。
「エル!!」
クロエが叫ぶ。
エルの声が、ノイズ混じりに落ちる。
「記録……消失……進行」
「存在……維持……不可……」
セレナが顔を上げる。
「……限界か」
イブが静かに見る。
少しだけ、表情が変わった。
「……間に合わないかもね」
クロエが振り向く。
「は?」
イブが言う。
「それ、“戻せない”やつ」
沈黙。
クロエの顔が歪む。
「ふざけんなよ……!」
レグルスが、再び動く。
「排除を継続」
イブが舌打ちする。
「うわ、しつこ」
空間が、再び固定され始める。
“例外”を押し潰すように。
クロエが、エルを掴む。
感触が、薄い。
「……まだいるだろ」
エルが、かすかに応じる。
「……確認……不能」
クロエが歯を食いしばる。
「いいから、残れ」
その言葉。
一瞬だけ。
エルの輪郭が、戻る。
ほんの少し。
イブが、目を細める。
「……へぇ」
レグルスが言う。
「誤差だ」
空間が、圧縮される。
もう一度、潰される。
完全に終わる、その直前。
イブが、ため息をついた。
「しょうがないなぁ」
手を、軽く振る。
その瞬間。
“接続”が、切れる。
空間が、落ちる。
クロエの視界が、反転した。
音が、消える。
光が、歪む。
そして。
次の瞬間。
三人は、別の場所へ落ちていた。
衝撃。
地面。
静寂。
クロエが、息を吐く。
「……生きてる」
すぐに、横を見る。
「エル……!」
そこにいる。
だが。
薄い。
輪郭が、安定していない。
セレナが、低く言う。
「……半分、消えている」
沈黙。
クロエの手が、震える。
エルが、かすかに言った。
「……継続……可能」
「だが……」
わずかな間。
「記録……欠損……増大」
イブの声が、遠くから落ちる。
「それ以上やると、ほんとに消えるよ」
クロエが、空を見る。
もう、そこにはいない。
レグルスも。
ただ。
理解だけが、残る。
「……勝てない」
静かな声。
セレナが、隣に立つ。
「ああ」
否定しない。
エルが、かすかに続ける。
「現状戦力……不足」
沈黙。
クロエが、ゆっくり拳を握る。
欠けた指先。
それでも、力は残っている。
「……じゃあさ」
小さく笑う。
「勝てる形、選ぶしかないじゃん」
風が、吹く。
歪んだままの世界で。
三人は、まだ立っている。
だが――
確実に、削れている。
次の選択が。
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