第10話:選べない戦い
空間が、固定される。
逃げ場はない。
揺らぎもない。
クロエが踏み込む。
「行くよッ!」
紫の粒子が弾けた。
だが――
伸びたはずの軌道が、途中で止まる。
「……っ!?」
レグルスが静かに告げる。
「その結果は、成立しない」
次の瞬間。
クロエの攻撃が、“なかったこと”になる。
セレナが即座に動く。
白の光が走る。
鋭い斬撃。
当たる――はずだった。
だが。
軌道が、わずかにズレる。
「……無効化か」
レグルスは淡々としていた。
「不確定要素は排除した」
エルが解析を続ける。
「攻撃結果、事前固定」
「成立可能性――単一化」
クロエが歯を食いしばる。
「じゃあ――!」
連続で踏み込む。
右。
左。
フェイント。
“選択肢”を増やす。
だが――
全部、止まる。
レグルスが一歩動く。
それだけで。
クロエの動きが、強制的に“最短の失敗”へ収束する。
「……ぐっ!」
体勢が崩れる。
セレナが即座にカバーへ入った。
「下がれ!」
白と黒の羽が広がる。
干渉。
歪曲。
空間そのものを、無理やり捻じ曲げる。
一瞬だけ。
“固定”が緩んだ。
「今ッ!」
クロエが叫ぶ。
エルが演算を叩き込む。
「多重選択、強制展開」
複数の結果を同時に押し込む。
衝突。
歪み。
世界が揺れる。
初めて。
レグルスの周囲に、微かなノイズが走った。
クロエが笑う。
「効いてるじゃん!」
一気に踏み込む。
拳を振るう。
――当たる。
確かな感触。
だが。
レグルスが静かに言った。
「遅い」
その瞬間。
“当たった結果”が、書き換わる。
クロエの拳が、空を切った。
「は――」
視界が反転する。
レグルスの一撃。
最短。
最速。
最も効率的な軌道。
クロエの体が吹き飛ぶ。
「――ッ!!」
地面を滑る。
遅れて、痛みが来た。
「クロエ!」
セレナが叫ぶ。
だが、レグルスは止まらない。
次の対象へ向かう。
「排除を継続」
セレナが構える。
「来い」
激突。
白と黒の羽が広がる。
干渉。
歪曲。
強引な選択。
それでも――
レグルスは揺れない。
すべてを“最適解”へ潰していく。
「……っ!」
セレナの動きが鈍る。
羽の黒が広がる。
負荷。
代償が、進んでいく。
レグルスの一撃。
回避不能。
セレナが吹き飛ばされる。
壁へ叩きつけられた。
静寂。
エルが前へ出る。
「戦闘継続」
迷いはない。
演算を最大化する。
「全パターン試行開始」
無数の選択。
無数の未来。
総当たりで突破口を探す。
だが――
「無駄だ」
レグルスの声。
その瞬間。
“結果”が一つに潰れる。
エルの演算が崩壊した。
「……処理、停止」
体が揺らぐ。
ノイズ。
輪郭が、消えかける。
「エル!!」
クロエが叫ぶ。
レグルスが一歩近づいた。
「観測者も、不要だ」
手を上げる。
“消去”の準備。
その瞬間。
クロエが立ち上がった。
ふらつきながら。
それでも、笑う。
「……マジでさ」
血を拭う。
「クソつまんないね、それ」
レグルスが視線を向ける。
クロエが、一歩踏み出した。
欠けた指先。
それでも、力を込める。
「全部決まってるなら」
笑う。
「壊しがいないじゃん」
沈黙。
ほんの一瞬。
空間に、微細なズレが走る。
だが。
すぐに消えた。
レグルスが静かに言う。
「結論は変わらない」
手を下ろす。
圧力が落ちる。
クロエ達へ向けて。
逃げ場のない“結果”。
セレナは立ち上がれない。
エルの輪郭は、消えかけている。
クロエが歯を食いしばる。
「……っ」
だが。
止められない。
どうやっても、“一つにされる”。
その瞬間。
クロエが理解する。
「……これ」
小さく呟く。
「勝てないやつだ」
沈黙。
レグルスが静かに告げる。
「当然だ」
「最初から、結果は決まっている」
圧が、完全に落ちる。
視界が、白く潰れた。
三人は――
“敗北する”。
完全に。
抗えずに。
選べずに。
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