第18話:未分化の接触
風が、わずかに揺れる。
クロエが足を止める。
「……さっきの」
⸻
セレナが頷く。
「あの少女か」
エルが応じる。
「観測ログ、追跡中」
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だが――
「……捕捉不可」
エルの声が、わずかに遅れる。
⸻
クロエが眉をひそめる。
「逃げた?」
「違う」
エルが否定する。
「存在が――薄すぎる」
⸻
セレナが空を見る。
何もない。
だが――
「……いるな」
感じる。
確かに、何かが。
⸻
クロエが目を細める。
「出てこいよ」
軽く言う。
挑発でも、呼びかけでもない。
ただの確認。
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返答はない。
だが――
空気が、わずかに歪む。
⸻
エルが反応する。
「局所的揺らぎ、発生」
セレナが構える。
「来るか」
クロエは動かない。
ただ、見ている。
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その瞬間。
「……まだ」
声。
近く。
だが――姿はない。
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クロエが呟く。
「そこか」
一歩、踏み出す。
空間に、触れる。
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“ズレる”。
感覚が、一瞬だけ外れる。
位置が、合わない。
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「――っ」
クロエが手を引く。
セレナが問う。
「どうした」
クロエが言う。
「……重なってる」
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エルが即座に解析する。
「空間位相、二重化」
「完全分離されていない」
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つまり――
“ここにいるが、ここにいない”。
⸻
セレナが呟く。
「未分化状態か」
エルが補足する。
「確定前の存在構造と一致」
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クロエが、小さく笑う。
「厄介だな」
だが――嫌ではない。
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「……見えてるよ」
また、声。
今度は、少し近い。
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空気が揺れる。
ゆっくりと。
形が、滲む。
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少女の輪郭が、浮かぶ。
完全ではない。
途切れ途切れ。
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「……やっと」
少女が言う。
クロエを見る。
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クロエは動かない。
「お前、何なんだよ」
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少女は、少しだけ考える。
「……わかんない」
正直な答え。
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セレナが問う。
「なぜ我々を認識できる」
少女は首をかしげる。
「……同じだから?」
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その言葉に。
エルの処理が、一瞬止まる。
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「不明」
珍しく、即答できない。
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クロエが笑う。
「ざっくりしすぎだろ」
だが――否定はしない。
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少女が、少し近づく。
距離は、曖昧。
近いのに、遠い。
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「……まだ、ダメ」
少女が言う。
自分に言い聞かせるように。
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「形が、持たない」
エルが即座に反応する。
「存在維持限界、接近」
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セレナが一歩前に出る。
「なら、なぜ出てきた」
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少女は、少しだけ笑う。
「……見たかった」
⸻
クロエを見る。
まっすぐに。
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「ちゃんと、分かれてるか」
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沈黙。
その言葉の意味は曖昧で。
だが――重い。
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クロエが、ゆっくり口を開く。
「……何からだよ」
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少女は答えない。
ただ、少しだけ安心したように笑う。
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「……まだ、大丈夫」
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その瞬間。
輪郭が、大きく揺れる。
崩れ始める。
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エルが告げる。
「存在崩壊、開始」
セレナが低く言う。
「離れろ」
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だが、クロエは動かない。
ただ、見ている。
⸻
少女が、最後に言う。
「……また、あとで」
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そして――
消える。
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完全に。
何も残らない。
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静寂。
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クロエが、ぽつりと言う。
「……なんだよ、それ」
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セレナが答える。
「未確定だ」
短く。
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エルが補足する。
「分類不能」
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クロエが、空を見る。
さっきと同じ空。
だが――違う。
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「……また来るな」
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セレナが頷く。
「ああ」
エルが記録する。
「再出現確率、高」
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クロエが、少しだけ笑う。
「じゃあ、待つか」
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三人が、歩き出す。
⸻
まだ名前もない存在。
まだ形もない接触。
だが――
確かに、繋がった。
⸻
それは、始まり。
“選択の連鎖”の――その先。
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