間話:断片の夢《クロエ視点》
静かだった。
音もない。
光もない。
ただ、曖昧な“何か”の中にいる。
「……ここ」
クロエは、立っている。
感覚はある。
だが、現実ではないと分かる。
足元が、揺れている。
境界が、曖昧だ。
「……夢、か」
そう呟いた瞬間。
風が吹く。
どこからともなく。
白い光が、流れる。
柔らかい。
どこか、懐かしい。
「……」
クロエは、そちらを見る。
そこに――
誰かがいる。
白い輪郭。
はっきりとは見えない。
だが。
「……知ってる」
自然に、言葉が出る。
その存在も、こちらを見ている。
距離は、近い。
いや――
“近すぎる”。
境界が、曖昧になる。
クロエの黒が、わずかに揺れる。
白い光が、重なる。
混ざるわけではない。
だが。
“分かれている感じがしない”。
その瞬間。
背後で、何かが軋む。
クロエが振り向く。
黒翼が、揺れている。
だが――
その中に。
一本だけ。
白い羽根が、混じっている。
「……は?」
理解が、追いつかない。
次の瞬間。
白い側でも、同じことが起きる。
白い光の中に。
黒い影が、一筋だけ走る。
対称。
鏡のように。
「……なんで」
問いが、漏れる。
答えはない。
だが。
その“ズレ”が、何かを示している。
クロエは、ゆっくりと視線を戻す。
白い存在。
そして、自分。
境界が、さらに曖昧になる。
「……同じ、か」
言葉にした瞬間。
世界が揺れる。
白と黒が、重なる。
今度は一瞬じゃない。
ほんの僅かに長く。
翼が、完全に重なる。
黒の中に白があり。
白の中に黒がある。
“別れているはずのもの”が。
一つの形を取る。
「――っ」
胸の奥が、強く鳴る。
懐かしい。
それでいて。
痛い。
次の瞬間。
引き裂かれる。
無理やりに。
元の形へと。
「っ……!」
クロエが息を飲む。
黒翼に戻る。
だが。
さっきの白い羽根の感触が、残っている。
消えない。
白い存在も、揺れている。
輪郭が崩れ始める。
消える。
ゆっくりと。
「待っ――」
手を伸ばす。
届かない。
だが、その瞬間。
声が、重なる。
はっきりとは聞こえない。
それでも。
確かに。
“選ぶ”
その一言だけが、残る。
光が消える。
闇も消える。
何もかもが、薄れていく。
クロエが、最後に呟く。
「……また、か」
その言葉の意味は、自分でも分からない。
だが。
どこかで、知っている気がした。
⸻
意識が、浮上する。
遠くで、誰かの声がする。
温もりがある。
現実が、戻ってくる。
クロエは、ゆっくりと目を開ける。
「……今の、は」
答えはない。
だが。
胸の奥に、確かに残っている。
白い感覚。
黒の中の白。
そして――
“選ぶ”という言葉。
クロエは、ゆっくりと息を吐く。
「……まぁ、いいか」
小さく呟く。
だが、その瞳は。
ほんのわずかに、揺れていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これは、クロエの中に残る“断片”の話。
記憶か、夢か、それとも――もっと別の何か。
はっきりとした答えは、まだありません。
けれど確かに、“選ぶ”という感覚だけは残っています。
その意味が何を示すのかは、これから少しずつ明らかになります。
物語は、まだ続きます。
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