第3話:未確定の記憶
世界が、壊れている。
アウラが、ただ“そこにいる”だけで。
空間は整い、歪み、そして否定される。
「――遅いね」
その一言で。
クロエの動きが、“なかったことになる”。
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「っ……!」
踏み込んだはずの一歩が消える。
結果も、過程も。
最初から存在しなかったかのように。
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セレナが叫ぶ。
「クロエ!」
光が走る。
だが。
その光もまた――“届かなかったことになる”。
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「……効かない」
セレナの声が、わずかに揺れる。
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アウラは、ただ見ている。
「だから言ったでしょ」
静かに。
淡々と。
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「意味がないって」
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次の瞬間。
世界が“巻き戻る”。
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クロエの位置が戻る。
セレナの構えが戻る。
傷すら、なかったことになる。
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完全な否定。
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ノクティアが告げる。
「現象確認」
「因果逆行、及び再定義」
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クロエが舌打ちする。
「チートすぎでしょ……!」
ノクスが笑う。
「いいねぇ」
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「絶望ってやつだ」
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アウラが、一歩進む。
それだけで。
空間が“整う”。
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「終わらせる必要もない」
「最初から、無かったことにすればいい」
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その視線が――
エルに向く。
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「君も、そうだよ」
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その瞬間。
エルの中で、何かが“引き剥がされる”。
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白い空間。
無機質な光。
冷たい声。
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「適合率、上昇」
「人格領域、削減」
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子供の視界。
拘束。
声が出ない。
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「……やめろ」
小さな声。
だが。
誰も聞かない。
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「観測機構への統合、開始」
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世界が、白に塗り潰される。
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「……いやだ」
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その瞬間。
現在へ戻る。
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エルの呼吸が、乱れる。
「……今のは」
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ノクティアが反応する。
「記憶領域の強制開示を確認」
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アウラが微笑む。
「見せただけだよ」
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「“元に戻る前の状態”を」
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エルが、震える。
「……違う」
否定する。
だが。
完全には否定できない。
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クロエが前に出る。
「それ以上やるな」
低く。
怒りを含んだ声。
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アウラは興味を示す。
「へぇ」
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「怒るんだ」
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その言葉で。
何かが、弾ける。
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クロエの中で。
“終わらせた記憶”が、浮かび上がる。
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消えた世界。
消した自分。
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「……うるさい」
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黒が、揺らぐ。
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今までとは違う。
抑えていたものが――滲み出る。
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セレナが気づく。
「クロエ……それは」
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ノクスが、低く笑う。
「行くか?」
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クロエは、答えない。
ただ――前を見る。
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「……終わらせる」
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その瞬間。
黒翼が、崩れる。
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形を失い。
再構成される。
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より深く。
より強く。
より――“本質”へ。
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空間が、沈む。
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アウラの表情が、わずかに変わる。
「……それ」
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初めての“違和感”。
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クロエが歩く。
一歩。
その一歩で、空間が“終わる”。
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だが同時に。
“残る”。
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矛盾した現象。
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エルが呟く。
「……再構成」
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クロエの力が、変質している。
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セレナが前に出る。
「維持する」
光が重なる。
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黒と光が、交差する。
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完全に。
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アウラが、静かに言う。
「……危険だね」
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初めての評価。
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だが次の瞬間。
すべてが“巻き戻る”。
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クロエの覚醒が。
セレナの光が。
エルの記憶が。
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すべてが。
なかったことになる。
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「……やっぱり」
アウラが微笑む。
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「まだ、届かない」
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絶対的な差。
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だが。
クロエは笑う。
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「そうでもないよ」
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黒が、再び揺れる。
今度は、消えない。
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ほんのわずかに。
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“残っている”。
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アウラの目が、細くなる。
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「……へぇ」
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戦いは、まだ終わらない。
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むしろ。
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ここからが、本番だった。
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