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自由の翼


「ちょっとぉ、聞いてよ、ひばり~」


(ああ、なんかもう嫌な予感しかしない)


夕食後、ベッドに転がりながら

推しの定期更新をチェックしていると、

ノックの音と同時にドアが勢いよく開き、

さくらねえがドカドカと入ってきた。


「大人にはね、自由の翼が必要なのよ!」


(――?)


「社会人はね、日々ストレスと闘ってるの!」


(――それで?)


「そして財力もある!」


「よくわからないけど、

 何かやりたいことがあるのね?」と聞くと


さくらねえの顔が輝いた。


「おお、さすが我が妹よ。

 そなたなら分かってくれると信じていた」


(しまった。アンタッチャブルゾーンにハマった)


「ひばり、わたしにはカブが必要なのよ」


(――?)


「カブこそが、わたしの翼」


(この一言は地雷なのだが……)


「もっと詳しく教えてくれる?」


(はい、アタシの詰み確定)


そこから延々30分

さくらねえは身振り手振りを交えて熱弁をふるった。

「カブ」というワードを途中までカウントしたが、

途中で放棄した。


要約すると――

「女子高生たちがバイクに乗ってアオハルする」

アニメを観た。

そこに登場する空色のカブ(原付バイク)が可愛いので

自分も乗りたい……らしい。


「買って乗ればいいじゃん」


「ママは、自転車の方が健康的でいいじゃん、って言うの」


(――ママにしては正論だ)


「パパは、クルマ持ちのイケメン彼氏ゲットして、

 助手席の方がいいじゃん、って言うの」


(父よ、正論だと思うが男親として正解じゃない)


「それでね、仕方ないから自転車でもいいかって思ったんだけど……」


(姉よ、あなたの情熱は瞬間冷却されるのか?)


「わたしの自転車、壊れているじゃない」


さくらねえの自転車は、

高校時代に電柱にぶつかってハンドルが曲がったまま、

自転車置き場でカバーを掛けて放置してある。


電柱にぶつかった原因が、

散歩中のワンコに見とれていたからというのが、

いかにもさくらねえっぽい。

しかも怪我なしっていうのが、さくらねえらしい。


「ひばり、お願い。わたしの自転車を修理して」


「いやだ、面倒くさい。歩く方が健康にいいよ」


さくらねえの頬が大きく膨らんだ。


(姉よ、大人の女性がする仕草じゃないぞ)


「ひばりのケチんぼ。いいよ、もうメイクしてあげない」


「ちょ、ちょっと、待って……」


慌ててベッドから起き上がるアタシの声を無視して、

さくらねえは出て行ってしまった。


アタシはスマホを開く。


(明日は休講。天気は晴れ。

 ……仕方ない、直してやるか)

こんばんは、さくらです。


水色のカブが欲しいのに

パパもママも「自転車で良い」て言うの。

酷くないですか?

わたしの自転車の両方のタイヤがパンクしてるし。


さて次回は、ひばりが活躍するエピソード。

「蘇る翼」です。お楽しみに!


2026年6月17日(水)公開です。

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