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第1章:沈黙する席
第1章:沈黙する席
青年は戸惑っていた。
“喫茶店”だと思って入った場所には、入口もなく、出口もなかった。
目の前にあるのは、“カウンター”だけ。
他の席は、テラスのように風にさらされており、地面の境界すら曖昧だった。
彼は左から2番目の席に腰を下ろした。
“椅子”はやけにしっかりしていたのに、背後を吹く風は、まるで森の中にいるようだった。
「注文、いいですか」
店主は静かに頷いた。
言葉はないが、何かが「整っている」ように感じられる空気。
カップが音を立てて置かれたとき、椅子の位置が少しだけ、“床に沈み込んだように”見えた。
気のせいかもしれない。
だがその瞬間、青年の背後に――ほんのわずかに、風を遮る“壁らしきもの”が現れた。
青年は、気づかなかった。
語りを始めたわけでもないのに、彼の座る席だけが、すでに物語の輪郭を得つつあることに。
その日、彼はただ静かにコーヒーを飲み干しただけだった。
しかし、店のカウンターに居ることで、“語りの準備”をすることで、すでに一つの語りが始まっていた。




